貝の城
そのまま通り抜けると、巨大貝の中に入ったようだ。
必死過ぎて気づかなかった。
だってエビ・カニの道では踏みそうでハラハラしたし、近づくと白く輝き過ぎてよくわかんなかったのだ。
あ、イカさんに挨拶してない!
振り向いたが、出入り口のハズなのに、そこは真っ白だった。
やはりキラキラしている。
あ~ぁ、しまったな。
白く輝き過ぎても、前も横も分かりづらい。
どっちに行けばいいのか。
多分そのまま、少しぼぅっとしてたのだろう。
視界に横から、クリオネかクラゲの様な、半透明の小さな生き物がきた。
目の高さを、ふにょんふにょんと、ゆっくり移動して。
私の前、正面にきて、口を開いた。
ごあんないします。
声は何も聞こえず、あの招待の手紙と同じく、意味だけ通じた。
そして声は聞こえないのに、声が小さいな、と思った。
変な感覚だな。
身体が小さい事もあるが、この空間だと、このこを見失いそう。
気をつけなくては。
そう考えていると、ガタガタ鳴って地震がきた。
海底地震?!
物や家具もないから揺れだけの音なんだろう。
地震はどんどん強くなり、音も大きくなる。
そのうち、バッカーーン!とより大きな音がして、近くが爆発した。
立っていられなくなって、うずくまっていたが、頭を庇えばいいのか、耳をおさえればいいのか。
出入り口すら見えなかったのに、今は、外の海が暗く見えている。
というか……
「鬼海子さん!」
アンタかい!
危ないな、もう。
危海子さんはくるっと振り向いた。
よ!というように手を上げる。
その手は、昨日までなかったもの。
昨日までの長い指と違い、想像図カッパの手、みたいに指は短く、水かきがついている。
青白いのは変わらないが。
よ、じゃないよ!
物騒だな。
それとも奇見子さんは締め出されたのか?
私が同行頼んだのだから、私が声をかけるべきだったか。
どっちにしても、これまるで戦争仕掛けにきてるみたいだな。
違うからね、手紙の人。 人じゃないけど。
それと……ごめんなさい。
魔王連れてきて。
お友達もどうぞ、を真に受けたんです。
見ると、案内クリオネは、ピルピル震えていた。
クリオネって(?)震えるんだ。
移動は体全体が波打つように、もっとゆっくりだったのに。
こんな素早い動き(?)が出来るとは。
少し遠くにも、多分さっきまでいなかった魚とかが、こっちを見ていた。
距離をとり、低い位置にいて、警戒しているようだ。
ピルピルのクリオネが目に入ると、警戒どころかおよび腰にも見える。
なんか、……色々ごめん。
ヒュッと、音がして、一瞬で景色が変わった。
白一色の空間ではなく、さながら豪華な水族館だ。
大画面の……窓かな? 外の海が青く見えている。
さっきまでいた暗さではなく、波のすぐ下くらいに光が揺らめいて、魚が泳ぐ姿が見えている。
場所は海底のままのようで、生えているらしき海藻や珊瑚も見える。
水深が深いところに生息するのかは知らんけど。
海の見える窓がいくつもあり、壁や床は貝とか珊瑚でうめられていた。
海の青と、白一色にみえて淡いたくさんの色の広間。
みたいな場所。
天井も高く、忌御子さんが入っても余裕。
さっきは少し狭そうに見えた。
景色が変わったんじゃなく、場所を移動したのかな?
一番大きな窓の前に、白い光が集まり出した。
みるみる形をつくり、大きな白い巻き貝になる。
浮いている。
多分、この城と同じ貝。
この建造物が貝だと思ったのは、一瞬そう見えたというだけだけど。
来てもらいありがとうございます。
そう頭に音のない声が聞こえた。
手紙の人……ならぬ貝さんらしい。
ほっとしたのだが、奇見子さんは違うらしい。
また、イカさんに対するように大きな音を出した。
うわっ、とか言って私はズッコケた。
またか。
今日何回もコケるから、もうスマホはズタボロじゃないかと思って、こっそりスマ子を見たら、黒い画面に休業日とあった。
こっんの役立たず!
私以外にも、何だかワシャワシャしている空気を感じたが、立ち上がる時、キラキラとした光が上から降ってきて、それを見ているうちに落ち着いた。
花嫁が我がままでごめんなさい。
怪我はないですか?
貝さんの声。(声じゃないが)
ん?
「花嫁、ですか?」
きき間違い?
いや、直接頭に意味がくるから、言い間違い?
貝の口ってあるのか?
いや、今そこじゃない。
頭の中の翻訳ミス?
花嫁です。
改めて言われた。
うん?
奇見子さんは、また、大音を出そうとしたらしく、少し体を反らした。
「忌御子さん!どう、どう」
これ、あってる?これで落ち着く動物ホントにいる?
でも落ち着いて、鬼魅子さん。
巨神兵の発射前のタメみたいだったよ?今の。
「あの、……花嫁とはどちらさんの事で?」
変な言葉遣いになった。
花嫁は今、あなたの隣にいます。
鬼見子さんは、怒りを表すように、髪が逆上がり始めた。




