海の中
船も積み荷の残骸も人体も、全く見当たらない。
流されんの早すぎない?
カーサフクダの回りに貯まられても困るから別にいいけど。
おっかしいな〜?と一瞬、考え事したスキに。
視界は忌御子さん一色になった。
気味子さんは決して一色ではないけど、稀見子さん以外の何も見えない。
ピターッ、と並行して潜る。
鬼海子さん、潜水艇を撮影するカメラじゃないんだから……。
私としては、ただカゴの中に立ってるだけで下に落ちていく感じ。
エレベーターみたい。
イカさんエレベーター。
位置的に、イカさんの上。
この中は息も普通にしているし。
……。
希海子さ〜ん、海もっと見たいな〜?
心では訴えるが、口には出せない。
助けてもらったばかりだしね。
同行してもらってるしね。
光は少し遠くなり始める。多分。
もっと海が見たくて、巨大な目から何とか目をそらす。
しかし目どころか首をそらしても変わらず鬼魅子さんの汚黒髪が見える程度。
もう君しか見えない。
きみこだけに。
悲しい。
さっきまで本当に綺麗だった。
テレビとかでは見てたのにね。
景色の綺麗な場所に行って感動するのと同じ。
知識で知ってても体感するのは別だ。
また見たいな。
試しに振り向いたが、イカさんはけっこう速度が早いのか、割と海は群青色になっていた。
そして一瞬で鬼海子さんはきた。
何も変わらなかった……。
それからすぐ、イカさんは止まった。
ゆっくりとカゴ?は下降し続けたので、最初は気づかなかったが。
あ、すいません乗ってるだけで。
念をとばした覚えはなかったが、イカさんは一回瞬き。
ありがとうございます。
私も一礼。
着いたのかな?
視界の大部分が、今はイカさんと希海子さんなせいかわからない。
さっきまでイカさんの上だったが、今はイカさんが海底?におろしたみたいだ。
暗くてわからんな。
白い色というだけにしては、イカさんとキミコさん(白目部分とか、手)はハッキリ見える。
奇妙な。
それで、どこ行くんだ?着いたの?
イカさんは動かない。
私はこのカゴ降りられない。
エラ呼吸出来ないし、今はまだイカさんの頭のてっぺん方向目指せるが、すぐにこの暗さじゃ上も下もわかんなくなりそう。
ってかそもそも、降りた途端に水圧で潰れそう。
降りて歩けだったら困るのだが。
突然奇深子さんが振り返った。
視界がウネ汚髪だけになり真っ暗に。
そして
ボーッ、と凄く大きな音がした。
でも、音として聞こえた自信はあまりない。
私はカゴの中で跳ね上がって転んでさらにひっくり返った。
衝撃だけ凄くあった。
イベントとかで見る、子どもがポンポン飛んで遊んでる時間制遊具?みたいだ。
お子様が羨ましいと思ってたけど、真っ暗で突然始まっても何が何だか全然わからなかった。
薄っすら白い物が見えた気がした。
本当に薄っすらで、見間違えかとじっと目を凝らす。
夜明け前くらいの分かりづらい変化だが、徐々に、白くてデカい物が見え始めた。
鬼海子さん、目の前にいるんじゃないんだな。
はじめはイカさんのお仲間かと思ったが、真っ暗な中にキラキラと白く輝くお城みたいなものが見え始める。
イカさんじゃなかった。
それまでどれだけ見入っていたのか、ふと足元を見たらイカさんの足カゴじゃなかった。
私のスニーカーを履いた足が海底に立っている。
ほう。いつの間に。
呼吸は問題なく出来ている。
視線を上げたら、イカさんはちょうど私の横にきていた。
片眼の瞬き。
紳士!
イカさん、素敵!
故郷がイカの産地だから、小さい頃からイカいっぱい食べてたけど!
縁があったという事にしてください。
そしてカコドで食べれたら、今後もイカは食べ続ける。
スルメも好き。
カコドには生食よりこっちの方がありそうだし。
私のマヨはなくなりそうだけど(涙)
今度からもっと感謝して食べます!
イカさん、好き。
イカさんに感激していたら、そのうちに近くが輝き出した。
白いお城、ではなく巨大な白い貝。
だと思う。
徐々に見えただけでなく、徐々に近づいているようだ。
既に近く、大き過ぎてよく見えなかった。
遠くからもキラキラ見えたが、光っている。
巨大に白く輝くので、真っ黒の忌御子さんの後ろ姿がはっきり見える。
あの、鬼魅子さんが小さく見える巨大さ。
眩くてわからないが、出入口だったのか黒く動く点が見えたかと思うと、エビや魚が列をなして出てくる。
2列かな?と思ったら、間が広がっていき、エビ・カニや魚達は歩道の両側に植栽された観光地の花畑みたいになった。
……花道?
カニとか、はさみを上下に上げ下ろししている。
突如、カニがそろって筋トレしたくてたまらない病に?
いや、これ…………。
拍手の代わりにバンザイしてるの?
エビもやってるけど……。
魚も整列したまま、なんだか位置が変わらないように必死になりながらクネクネしている。
おもてなしの心は嬉しい。
しかしこれは心だけでも良かったな。
無理するな。
魚達はしょっちゅう位置がズレているし、エビ・カニも後ろに下がってしまったりしていた。
横のイカさんに、足でそっと背中を押された。
あ、そうだね。
私が早く示してくれた道を通っちゃえばいいんだ。
何かごめん。
踏んづけそうでこわいな、と思いながら、なる早で通り抜けた。




