手紙
意を決して窓を開ける。
すると、すーっとさらに瓶を近づけてきた。
中に、何か書いてある紙みたいのが入ってる。
私は紙か、羊皮紙なのかわからない。触れば違うのかな?
少なくとも真っ白な紙ではない。
受け取るが、見ても全然知らない言語だった。
スマ子の訳補正が『アナタが安定してないと使えない』から切れているのか、さらに知らない言語なのか。
とりあえず、渡されたので手紙を出そうとしたが、開けれない。
瓶は木なのかコルク系なのか栓をされているが、これが固い。
持つ手を変えたりするが、海に漂流出来るほどしっかり栓されてたら、私には多分とれないよ。
漂流物なのか知らんけど。
困ってたら大白イカ(仮)さんの足が2、3本近寄ってきて、そっと瓶を持ち上げた。
そのまま渡すと、あっさりキュポン、と開けてくれた。
紳士。
開けた途端、モクモクと煙が瓶から出てくる。
え?!
玉手箱?!
煙から逃げようと後ろに下がろうとして、マットレスの上でズッコケた。
ちょっとイカさん、何持ってきてんの!
窓を閉めるべきだった。
すぐに白い煙は見えなくなり、外を見ると大白イカさんはまたちょっと、傾いでいた。
どうしたの?
とでも言う風に。
イカさん、日本人にはね、危険なフラグなのよコレは。
第一、突然広がる煙って怪しいでしょ?
危ないかもと、とりあえず避難するでしょ?
私はビビリだけど、今のはおかしな行動じゃない。
まず、窓閉めろだけど。
真っ白なイカは綺麗だが、私が知ってるイカより目が真円に近い。 不思議。
イラストっぽさがあり、ちょっとだけかわいい。ちょっとだけ。
この海域の魔王はあんなにホラーなのに、何故。
イカさんが、私がビビるのを不思議がるのだから大丈夫なのだろう、と、先程のところにまた立つ。
すると、ウィンと音がして、大きな手紙が宙に浮いて出た。
魔法かい!
瓶の中にはもう紙はなかった。
開けたらこの、大きな手紙に化ける魔法なのかもしれない。
さっきまであった、瓶の中の紙のような薄茶色の四角い紙、の画像?
よーく見ると、手紙の向こうでイカさんが動いているのが見えた。
若干透けている。
これも『真実をうつす鏡』に似ている。
そして……読めない。
謎文字。
象形文字?
しかしボケっと見ているのをやめて、ちゃんと知っているかもと(可能性は低いが)文字に目を向けると、意味がわかった。
自分に文字の知識があるからではない。 文字は確かに知らない。
目で始めから文を追っていくと、不思議と意味が頭に浮かんでくるのだ。
日本語にすると違和感はあるが、なんとなくこんな感じだ。
『 突然の手紙をすみません。
人間の礼儀がわからないので、失礼があるかもしれませんが、決して本意ではありません。
あなたに今回、大変な目に合わせましたから、お詫びを考えています。
こちらからは行けませんから、あなたからきてもらいたいのです。
お嫌でなかったら、是非来てください。
お1人が不安でしたら、お友達とどうぞ。 』
言葉はわからないのに、意味だけ通じるというのは案外便利だ。
あくまで魔法だから、と言えばそれまでだが、相手が凄く丁寧に私に接したいという気持ちがこもっていて、直接それを心で感じるのだ。
イカさんはこの手紙のお使いかな?
強い(物理)お使いだな。
それはともかく、お友達ってまさかまさかの忌見娘さん?
いったいどういう事だ?
何故知っている?
稀見子さんの友達か?
いや、人外なら知っててもおかしくないのか?
人間の、とかいう事は人外だよな。
そしてイカさんがお使いなんだから、海性生物だよな。
この海域では、私と鬼見子さんはマブダチ常識、みたいな感じなのか?
マブダチの後に、半音符とかついちゃう感じなのか?
何か、助けてもらったばかりだけど助けて。誰か。
あと、冗談じゃなく『大変な目に合わせました』って何?
海賊差し向けたの、この人?
多分人じゃないけど。
感覚が違い過ぎて、お詫びにネバネバトロトロにしてあげましょう!とか呪われてもどうしよう?私コンブでもワカメでもないし。
奇海子さんはずっと、シャーシャーしてるし。
ま、いっか。
行くか。
私はこの手紙にとても好感を抱いた。
イカさんの態度にしても、丁重に扱ってくれている感じがする。
なんとかなるだろ。
「稀見子さんも行く?」
私は、初めて会話したのが実は、あの「急いでるから」ピシャン!の窓閉めだったのに図々しいな。
なんかあったら助けてくれるかな?って。
今のキシャーから見ても、喧嘩ふっかけそうな気もしないでもないけど。
……鬼海子さん、さっきの手紙読んだかな?
読めんのかな?
海性生物文字?
ってかあれ、私宛なら私以外には内容わかんないのかな?
あれ?誘っちゃったぞ?
何がー?という反応されたら説明しなきゃだが、言葉以外で内容を理解したから説明出来る気がしない。
奇魅子さんはこっちを見た。
そしてガー、と音がなった。
多分、魔法で音を出して返事してくれたのだろうけど、何喋ってんだか全然わからなかった。




