白くてデカい
圧倒的。
私も、自分の命がかかってるから必死だ。
水しぶきやら、様々な者とか物が飛んでいる中を、目を凝らす。
さっきまで、砲撃とどっちが強いか、なんて考えてたのがウソみたいな光景だ。
でも助けてくれた忌御子さんの心配くらいはする。
いくら魔王でも、魔法やら星やらある世界の海賊相手なのだから。
でも、海賊を海に落としたくらいで無力化できるのか、とか、ハラハラしたけど無意味だった。
鬼見子さんのウネウネ汚黒髪は、以前よりパワーアップして、それだけで目とは別方向を見て判断しているように動いているし。
ポイッ、も1回だけでも見間違いでもなく、波間の海賊をポイポイしてるみたいだ。
アスファルト舗装に叩きつけられるよりはマシだろうが。
でも泳ぐ事も含めて体力は消耗するだろうし、繰り返すとケガもするだろう。
海に落ちても体力を削られない、という星が集まって海賊団になってたら少しは違うかも。
いや、あのウネウネ髪、掴んで沈めて溺死させるとか出来そう。
……もう、やってたりして。
砲撃した方の船は、船体を投げつけられマストが折れたようで、損害は大きそうだがまだ保ってはいた。
ちょっと遠いが、明らかに混乱の様子が伝わる声が聞こえる。
まさかとは思うが、急げ!と聞こえた気がする。
あれはもしかして、また砲撃しようとしてない?
陸までもたないだろうけど、動けるうちに逃げればいいのに。
さっも当たんなかっただろーに、でも気見子さん逃げて。
ドン、と思ったよりは小さく音をたて、大砲が放たれた。
げ!
鬼見子さんに当てられるのも嫌だが、カーサフクダに当たるのも困る。
おいおい、と誰かに呆れながら慌てていると、白くてデカい物が現れた。
船との間なので、そう近くはないが、それでこの大きさだと鬼見子さんより大きい。
ヒュッと現れた。
凄い早さ。
鬼見子さんはゆっくりだから。
って、アレ?砲弾は?
シュウゥゥ、と音がして、白デカの真ん中辺りが丸く盛り上がってきた。
まさか、と思ううちに、丸みがドンドンこちらに来る。
ように見える。
白いからあまりよく把握出来ない。
でも貫通したら来る。多分。
ハラハラ見ていると、ボーン、と音がした。
ん?何?
あまり鋭い音ではなくて、何の音かわからない。
ほんの少し後に、ドシャーン、と聞こえた。
船に跳ね返した?
ちょうど船は、白い物で見えない。
え?
柔らかいですね?
心の声が聞こえたのではあるまいに、タイミングよく白いデカいのが振り返る。
イカだった。
鬼見子さんより大きな、真っ白なイカ。
大王イカは羅臼にいるんじゃないのか。
これでただのイカならデカ過ぎじゃろ。
こっちのイカの標準、コレ?
食品に出来なさそう。
そういえばお屋敷でタコはいっぱい食べたけど、なんかイカなかった気がする。
調理済みだけ食べてるから、気付かなかっただけかもしれないけど。
鬼海子さんは、イカに威嚇しているようで、じゃー!と音を出してる。
……口、ないのに。
それ、どうやってんの?
魔法?
スゲぇや、魔法の無駄遣い。
いや、元マナの固まりだし。いいのか、本人は。
ウチのスマ子なんてもっと酷いもんだよな。
鬼見子さん、髪(?)ガチで逆だってるよ。
ってゆうか、船の方はもう襲ってこないのかな?見えん。
大王イカ(?)はこちらにスルスル来る。
なんか音もそんなにたてないし、この海域の魔王よりスマートに感じる。
海性生物のスマートが、どんなのかはわからんが。
え〜と、この度は危ないところをお助けいただき……
イカのエサになるのも嫌だし、お礼を言わずにいるのも怒られたらそりゃ当たり前みたいな、ぇーと、えーとー。
にゅるにゅる、スルスル。
大白イカさんは、足の先にガラス瓶を持って私の前に差し出した。
っていうか、差し出されたであってる?これ。
私は窓も開けてないけど。
そりゃ海賊に襲撃されたら、開けないに決まってるけど。
どうしよ。
これは何だ?海のゴミか?
人間、責任を取りなさい、的なヤツか?
それだったら、まだその辺で生きてるヤツとっ捕まえて言ってください。
私はまだ、この世界で(は)ゴミを捨てた事のない優等生です。
小さな頃、東北の海には誰宛なのか謎の手紙は流しました。ごめんなさい。
日本で読まれても嫌だが、アメリカ大陸西部まで流れ着いても嫌だ。
シャンプーリンス洗剤は、元の世界の下水に行ってると私は信じている。
電気ガス水道は来るんだから、下水もちゃんと行ってるハズ。
そうじゃなかったらヤバい。
鬼御子様に知られてキレられたら生きてけない。怖すぎて。
ワタクシの海をヨゴしたわね!とか言い出す日は来るのか?
顔?は出来た(?成長?進化?)けど、ほぼ目だし。
いや、声じゃないんだろうけど音は出してるから、いらないのか。
魔法、なんでもアリか。
大白イカさんは私が(脳内で)脱線しているとも知らず、受け取らないせいか、フニョ?と頭をかしげた。
可愛くないけどかわいい。
瓶を持つのと別の足を出し、先をくるんと丸めて、そっとノックした。
私の立つ側を。
紳士!!
しかもあんなに素早く動けるのに、さっきから動きをややゆっくり、ソフトにしている。
気味子さんなんて、ななめ後ろでずっとキシャーキシャーッしてるのに。
何だこの、文化の香りは。
実際は潮の匂いだけど。




