報せ
皆さん、虫の知らせって知ってます?
テレビでね、前に心霊現象についてやってたんですよ。
体験した事あるか否かの街角アンケートで、なんと8割の人が心霊現象を体験した事がある、と答えたとか。
え!日本人ってそんなにそーゆーな人、多いの?
と思ったら。
そのうちほとんどが、その内容を『虫の知らせ』と答えたとか。
なんとなく、あぁ〜、って納得したね。
そうなんだけど、そうじゃない、というか。
リアルに気味(悪)子さんとか毎日のように見てると、もっとリアリティのある実話怪談風のがいいなぁ、って思っちゃうんだよね。
あくまで夏の風物詩として楽しむだけだから。
んで、虫の知らせがどうしたのかというと。
何か今、ざわざわします。
はっ?って言わないで。
何かとても静かなんだけどうるさい。
ちゃんと日本語話せ?
日本語しか話せませんけど?
おぼつかない自覚はあるが。
昨日はこう、主さんのお屋敷の皆さんと飲めや歌えやドンちゃんドンちゃん、たっぷり食べて帰って、幸〜せに寝ました。
今、起きかけというか、とろとろウトウト。
してるんだが、何かざわざわとする。
音なんだが、耳には聞こえない。
不思議な感じ。
声、な気がするんだ。
でも何を言ってるかわからない。
ざわざわ、としか。
よく聞こうとしても、しなくても聞こえない。
何か命令口調というか、何かしろ、みたいな。
でも、ずっとずーーっと続く。
もう目が覚めちゃったよ。
しょうがないから、寝転んだまま聞こうとする。
……、……ロ、 ……ゲロ
ゲロ? 何がゲロ?
繰り返しているようで、言葉自体は短いようだ。
……ゲロ、 ……ゲロ
……ゲロ
――逃げろ
え?
聞き取れた途端、怖ろしくなった。
本当に危険だと、何故かわかったからだ。
スマ子、と呼びかけようしたその時。
ドバーン! と物凄い音がして、揺れた。
魔王である気味子さんすら、ぶつかっても揺れはしなかったカーサフクダが。
ボンッ、と体が跳ね上がり転がる。
落ちてくる物を避けようと、体制を整えたいのに、寝る時に着た夏用ワンピを自分で踏んだり、上手くいかない。
また轟音がして揺れる。
いったい何なんだ。
噴火して島でも出来るのか、今まで船も鳥も見なかったのに海戦でも始まったのか。
しっちゃかめっちゃかで、逃げるどころではない。
なんとか這いつくばって窓辺に近寄り、かろうじて壁側に充電コードで繋がっていたスマ子を手に取る。
「敵襲です!」
スマ子の声が逼迫した状況を物語っていた。
敵って誰?
昨日いっぱい食べたタコ?
スマ子にチャビン呼ばわりされたオッサンか?
カーテンを端から開けて見ると、外は黒かった。
よく見ると大きな船に、たくさんの人がいて、カーサフクダを斧か何かで殴りつけてた。
何あれ、海賊?
ぎゃーぎゃー何か言ってるがわからない。
そして見てるのがバレた。
指さして叫ばれ、一斉にこっち向いて喚くが、うるさ過ぎてわからない。
窓にも何かを投げたのかゴッ!っと、当たったりしているが、割れていない。今はまだ。
ドカン、バキン、音が凄い。
カーサフクダは壊れているのか、音だけなのか。
スマ子に問う。
「何これ、籠もってて大丈夫なの?!」
「わかりません!」
何だと!
また、ドーン、と音と強い揺れがくる。
震度6!
座ってもいられない。
「スマ子、逃げられないの!?」
「安全な場所に逃げないと意味がありません」
そりゃそーだろ!
「あなたが安定してないと魔力が使えないんです!」
今、冷静でいられるか!
もっと早く言えよ。
言っても落ち着けるわけじゃないがな!
近くで襲撃してる船と、少し遠くにもいた。
大砲とかうってるのかも。
気味子さんとどっちが強いの、それ。
強いかはともかく、気味子さんがぶつかっても揺れなかったのに今は揺れた。
そこが問題だ。
バリア摩耗してきてきれかけてんのか?
流石にヤバそう。
怖い。
もう無理。
その時、外から悲鳴が聞こえた。
何が起きたのかとカーテンを開けて見ると、巨大な手が見えた。
青白い肌。
一瞬過ぎて指先は黒っぽく見えたが、確かに青くキラリと光った。
鬼海子さあぁァーーーん!!
手は知らなかったが、絶対に気味子さんだ。
船に下からツキ食らわせたのか、ぶん殴ったのか、チョップしたのか。
鬼見子さんは、目がデカすぎるが、顔も出来てるようだった。
いつもは出没するだけが多いので、こんなにも動いているのを見るのは初めてだ。
ほぼ縦移動、たまに横移動だけだったから。
私を助けてくれた。
加勢したいが、捕まるだけにしか思えない。
海賊は無謀にも鬼魅子さんに襲いかかったが、ウネウネ改め髪の毛でポイッとされて終わった。
船はあっという間に木屑となり、大きさを保つ船体は、先程的を外し忌見子さんの手前に砲撃した船に投げつけられた。




