説明
「え?」
時間なんてわかんないよ!
「この街は港でもありますから、こういった事は珍しいわけではありません。
気候の違いは人知の及ばぬ事。他所の方は倒れる事もあります。
ですから、医者に見せるまでの時間の長さを鑑みて、ある程度の時間はもちろん咎められません。
逆に見捨てた場合も咎められた例があります。
この街には時期に応じて労働時間、その間の食事等の時間、休息時間等が決められています。
それ以上に労働時間が減ると場合によっては労働時間の方が短い事もあるのです。
そうしますと、結託して給料だけを貰おうとする者も現れます。
外から来た方はこの街のルールを知らないので、騙されて偽りの証言をする方もいます。
倒れた上に騙されて罪に問われるのは哀れですが、事例が少ない為今のところ救済手段はご自身で囚われる前に、証言の撤回を申告していただくしかありません。」
説明して貰っても困った。
「自分が倒れてた時間も、一緒にいた時間もわかりません。」
そうとしか言いようがない。
この街の人はよく見ると、腕時計のような物をつけていた。
それでちゃんと細かく時間を見ているのかもしれない。
全く文化も風習もを知らないが、暑いし布ですっぽり覆っていたし、アラビアンなイメージかと思ってたから、驚いた。
アラビアンが時間に厳しいのか、緩いのかは知らないが。
「それはそのままで結構ですよ」
今、自分で撤回しろと言ったじゃん!
「わからない、と正直に証言なさった方が良いかと。
あなたは『仰るとおり助けていただきました』としか証言しなかったと聞いています。
過去、騙された旅の方も同じように積極的に発言しなかったそうで……体調がお悪かった事を加味しても確認を、と。」
「ありがとうございます」
助かった。
まだだけど。
「どこに行って聞いてもらったら良いのでしょうか?」
聞いても行き着ける気はしないが(方向音痴)訊く。
他に方法がないんじゃ。
「うちの者の事ですので私共も参ります。確認もとれましたので、明日にも」
「わかりました」
わかりました、とは言ってしまったものの、どしたらいい?
「ご迷惑をおかけしましたので、お泊りいただいても良いのですが。
どうなさいますか?」
正直に言えばズタボロなので帰って風呂入って寝たい。
人様の家で大の字で大いびき歯ぎしりでは気まず過ぎる。
それに着たきり甚平も地面に横たわったのだし、これ着て人様の家のベッドは借りられない。
他に着るものないが。
でも、9時間とか時間決まってると移動がしに
「大丈夫です。明日また来ます。」
…………。
…………スマ子?
この沈黙はね、
君が作り出したんだよ?
何故ポケットの中から返事する?
私に腹話術の技能はないぞ。
万が一、才能があっても試した事すらないぞ。
どう言い訳出来ると思って返事した?
なんとか言えやコラ!いや、喋んな!
せっかく知らんぷりしてもらったというのに、何度も繰り返す、このぐんにゃりした空気どうすんだ!
「そうですか。わかりました」
流された!
こんなにも怪しいのに。
もう関わりたくないのかも。
「あ!」
最後に急いでお菓子を口に詰め込んだ。
大丈夫。美味しい。
ちゃんと味わってる。
会話の終わりを察して、主さんの側にきていた白服の呆れ返った眼差し。
大丈夫、美味しいよ。味わってるよ。
お残しは許しまへんで、って躾けられたでしょ?
小声で主さんが指示を出す。
近いのに、何言ってるかは聞こえない。
これが金持ちの技能か。
白服がこちらに向き直った時、ちょうど口に詰め込んだお菓子が食べ終わったので、立ち上がる。
勢いが良かったのか、何かがポヨンと頭に当たった。
「あ、すいませ」
すいません、と謝るはずが、途中で止まった。
私の頭の少し上に、妙な物を見たからだ。
「金魚ねぷた?」
『金魚ねぷた』か『金魚ねぶた』か知らないが、泳いでいた。
頭の上を。
天井のオレンジ色の灯りだと思っていたのはコレらしい。
まん丸な目の平和な顔で、ちゃんと紙製に見えるが、ゆ〜らゆ〜らと泳いでいる。
空中を。
つまり、浮いている。
やっぱり『金魚ねぶた』じゃなく、『金魚ねぷた』でもなく、もっとずっと南の『金魚ちょうちん』ではなかろうか?
北の険しい顔じゃない。
そんな顔の2匹(?)が室内上空(?)を行き交っている。
頭の上だから飛行船みたいだ。
飛行船、ジ○リ展でしか見た事ないけど。
水面に餌のフリして指先をつけるみたいに、手を上げてしばらくしたら、金魚が、くっついてきた。
進路妨害では無いはずなので、多分寄ってきたんだと思う。
やっぱり紙っぽい丸い口がカサッと指先に当たる。
特に熱は感じない。
面白い。
「珍しいですか?」
あ、また忘れてた。
「はい。初めて見ました。」
ホントに。
空飛んで喋るピンクの金魚のアニメは小さい頃見てたけど。
コレが異世界だよな。
普通、異世界!って気味子さん系じゃないよな。
腕を下げたら、金魚がツツッとついて下がってきた。
かわいいじゃん。
「かわいいですね。高いんでしょうか?誰でも買えますか?」
もしや飼うの方?
難易度高いな、それは。
「そうですね。少々値が張ります。」
合わせてくれたとしても、この御仁が言うならホントに高いんだろう。
諦めるか。
心の中で、ごめんね〜エサないよ〜と呟いて、金魚にバイバイする。
すると、スゥと上に上がっていった。
天井でちょっとウロウロしてるみたいで面白い。
「よろしいですか?」
痺れを切らした白服に促された。
はいはい。
もう帰る流れだったね。
軽〜く、白服をスルーして主さんに頭を下げた。
「今日はありがとうございます。」
こういう時、明日もよろしくお願いします、って自分で言うのは図々しいだろうか?
でもまた世話になるのだし。
「ではまた明日に」
迷ってたら主さんがあっさり締めた。
ありがとうございます、の意を込めてもう一度礼をし、白服に続いて今度こそ部屋を出た。




