星
スマ子。
お前この局面をどうしてくれる?
「確かに人間は忘れる生き物だ。珍しいお忘れ方だが」
主さんのおもてなし笑顔が1枚剥がれた。
自分より(多分)年下の、自分より千倍明敏であろう絶対物忘れしなさそうな人物に、どういうフォローをされてるんだ?私。
この気まづさ。
この怪しさ。
どうしたものか。
「目に見えるようにしっかり書いとかないと何でも忘れます!」
言い訳しようとしたのに、ただ私の馬鹿さ加減を露呈しただけになった。
それですら最近、目の前に書いてても見落とすのに……。
「確かにそういう方もいますね」
え?そんなに少数派?
「魔法かと思って」
ちょっと踏み込んでみた!頑張った。
「魔法を使う人間はその辺をフラフラ歩いたりはしないでしょう」
「え」
「そうなの?」
……スマ子。
何故、お前が、そうなの?の方なの?
そっちが私じゃないの?せめて。
いっぱい言いたい事あるが、とりあえずタメ口やめぃ。
しかし主さんはもう固まったりしなかった。
そしてツッコまずに流した。
「魔力を持つだけでなく、魔法を使える人間ともなれば少数でしょう。大抵は護衛も付きますし」
スマ子?
聞いてないお話だね?さっきから。
「魔力を持つだけで国に保護されたり、城で囲われる国もありますから」
スマ子?
魔力を持つ人間には、外出る前に言っといた方が良いね?
「古のおとぎ話の異界から現れる城を攻め落とす為、自国のみならず他国にまで手を広げて人狩りを行った国もあるとか。もちろん、魔力を集める為に」
スマ子ーー!
お前、重ね重ねホントに!
「最も魔力持ちでもそれを利用したり、魔法まで使うのは相当難しいのですが。最近の研究では、魔法書などは単なる宗教の物ではなかった、と言われているそうです。
遥か昔、おとぎ話で語られるように、実際に地上にマナが満ちていて、その頃人間は今では考えられないくらい頻繁に魔法を使っていたとか。
その頃の研究書、または技術を纏めた単なる専門書だったのではないかというのが最近の研究の流れのようです」
おのれ須磨子!
もう私の頭の中はスマ子でいっぱいである。
人に勧められるまま氏素性を知らない年下の若い女を妻に迎い入れて、
有り金持ち逃げされて病床で恨み言をつのらせる昭和初期の中年のオッサンにでもなった気分だ。
よく知らないヤツを信じたらいけない。
「非常に稀な事ですが、遺跡から古代の魔法がまだ生きている魔法具が発見されると、国を買える金が動くと言われています。それに狂わされた人間同士の殺し合いも起こり、世界を股にかけた大商会が海の藻屑と消えた、とか」
街に出てくるのが心底早すぎた、と思っていると、主さんの説明が続く。
明らかに私の為だ。
主さんによる(この国の)常識講座
魔法は珍しい。
魔力持ちは一人でフラフラする事はまずない。
魔法具は実在するけどしないものだと思っといてだいたい大丈夫。
野良の魔法使いは見た事がない。
対して星は本当に内容が千差万別だが、誰もが持っている。
あまりにも色々ありすぎて、自分の星を知らない人もいる。
『足の指の爪切りがとても上手』や『猫と挨拶が出来る。ただし会話出来ない』
などの、ちょっと役に立つがそれ程重要でもなく害もないものから、
『海を割る』『病を引き寄せる』まで。
本当に千差万別。
そんなに大きな能力まであるのなら、何故知らないままの人がいるのか。
やはり毒にも薬にもならない星が大半で、与えられた星が何なのか神殿で判定してもらう。
(出た、神殿)
しかし判定した神殿が、例えば水の神を奉じていた場合『祈ってからロウソクに火を灯すと1晩持つ』などの性質の異なる星は、わからないという。
何度も神殿を変えて判定して貰うと当然(残念)お金がかかる。
血筋や大金持ちでも別に星が選べるわけでもなく、何十という神殿に献金してようやく判明した星が『耳かきが上手』だった、という実話もあるそう。
そうすると生活していく上で、特に害のある星を持っていないだろうと思われる人は、お金をかけて自分の星を知ろうとしないんだそうだ。
異世界も世知辛い。
誰もが持つから星に貴賤はない。
海から遥か遠くの内陸で『海藻取りの名人』や、王が『罠から獲物をはずすのが上手』など、褒めてもけなしても意味がない事が多いから。
そのかわりに魔力持ちが、行使することが難しくても重視されている。
「能力の大きい星や魔力持ちが、人知れず生活していたりはしないんですか?」
魔力持ちに目に見える特徴とかあるのか?
「星は可能性がありますが、魔力持ちは体内に魔力があるまま放置すると最悪死に至るそうです。人知れず亡くなる事はあっても、身近に人がいれば医者を呼ぶはずですから知られずにいる事は少ないでしょう。
伝説の魔法使いのように強大な魔力を有するとむしろ老いずに健康を維持するとは言われていますが、やはり伝説の域ですね」
何からなにまで、街に出るのが早かった。
主さんはずっと説明してくれているが、ほとんどお茶も飲まない。 ごめんなさい。
こういうの、こっちから話を切り上げるべき?
私の為だよね。
「あの、それで私の罪はなんだったんでしょうか?」
もっと教えてもらいたいが、こっちも気になるのも本当だ。
「その事ですが、あなたが倒れ、うちの者が不明者登録所の近くで救護した、と聞いておりますが」
「はい」
その通りです。人助けでしょ?
「この街では、救護した時間を実際より長く職場に申告した場合、罪に問われます。」




