海です。その3
暑い。
影になってるところで本を確認していたのだけど、あっちもこっちもと全部の本を出して見てるうちに、完全に直射日光に当たるところに動いていた。
コレがまた熱い!
気付かなかったけど、結構経ったの?
めちゃくちゃ熱い。
時間は多分、そこまでじゃないと思うんだけど。
カチカチ山のタヌキの気持ちがわかりそうなほど。
もう自分が熱いのか空気(なんて軽そうなものじゃなく湯気と呼びたい)が暑いのか。
とっさに窓に飛び付いて、さっきはびびって触れもしなかった窓ガラスを開けてベランダに飛び出した。
日は暑く刺すようだけれど、一気に風が体温を下げる。
気持ちいい!
海風、悪くない!
サウナ我慢し過ぎた人みたいになって、ベランダで風を満喫する。
清々しく海を見下ろすと。
「ん?」
青く、ない。
ってか黒い。
浮いてんのか、漂流してんのか謎な白い築40年のアパートの回りだけが黒い。
石油かなんかでも流れてるの?
じっと見てると、アパートの下から何か流れてきた。
黒い中に、灰色?というか水面より下だから濁って見えるのか、多分白いものが混じる。
この部屋は2階だから、細かいものだとよくわからない。
流れてきて、そして。
目が合った。
白いものが流れてきたんじゃなく、下から目が出てきた。
巨大な。
目が。
アパートの下から。
足元から一瞬で震えるほどの寒気と恐怖がくる。
顔にはギリギリと日の当たる感覚が鈍くあるが、それ以外は真冬のように寒い。
のども肺も氷点下の空気を吸い込んだようにキリリと冷たく痛い。
寒い。 怖い。
どっちの感覚が強いのかわからない。
いや、怖い。
本当にこわい。
目は私を見ている。
目が合っている。
勘違いじゃない。
どれほど経ったのか。もしくはすぐか。
ベランダから飛ぶように寝室に逃げ、戸を閉めてカーテンの僅かな隙間もきつく合わせて。
マットレスの上で、引っ張り出した冬掛けを頭から被った。
驚くほどカチカチと歯が鳴っている。
舌を噛みそうなくらいなのに自分では止まらない。
隙間がないようにしっかりと布団を前で合わせる。
ふと指が、Tシャツから出ている腕に触れるとブツブツと鳥肌がたっていた。
平常時なら驚いたろうが、意識は湧いてくるような言葉にならない恐怖で渦巻いて、何も考える事が出来ない。
ただただ布団の中で縮こまって震えていた。
ずっと。
この日の記憶はそれが最後。
これがこの世界の、私の最初の日。
そして気味(悪)子こさん、
私とあなたの初めての出会い。