屋敷
よくわからないまま、白い服の人についていった。
では説明して差し上げましょう、と言われたので。
既に9時間経っていて戻れないと困るので、途中スマ子の画面を見たが『あと4時間6分』とあった。
少々の安堵。
そして暗い中のスマホ画面の明るい事よ。
振り返られたらどう説明しようかと焦ったわ。
この状況は『知らない人についていったらいけません』かな。
でも犯罪してました、とかは困る。
教えて欲しい。
ただでさえ未遂とはいえ、詐欺行為(?)に赴く最中だったのだから。
何とはなしに街の通りの外れまで来ていた、道を戻る。
無言で。
灯りが付き始めているが、怖くて見回せない。
結局、何時間も滞在したのに街を良く知らないままなせいか、暗くなったせいか、はたまた白服のせいか。
妙な緊張と怖さがある。
祥子と書いてビビリと読む。
嘘です、でも衣と書いてクロスと読むのと同じレベルで同一です。
え?何喋ってんだ、って?
え?
女神と書いてアテナと読むでしょ?
知らない?そんな……。
コスモという言葉はここから始まったのに。
「着きました。」
どうでもいい事を考えてたら、思いの外、大きな声に小さく飛び上がった。
気がする。体感は。
……マンガの表現だと思ってたのに、人間ってホントにこうなるのね。
前すらちゃんと見てなかったようで、かなり距離を詰めていたらしい。
声が大きく聞こえるわけだ。
我ながらよくこんなどうでもいい事に、現状を無視して没頭出来るものだ。
自分にはよくある事。
不安やショックを感じると、こうして現実逃避して、精神的に不安定になり過ぎないようにしているのかもしれない。
気味子さんはそれを凌駕し、恐怖しか感じなかったが。
さすが気味子さん。
丸2日会ってないが、全然恋しくならない。
そんなすぐにはならないか。
いや、永遠にならないか。
こちらです、と手で指し示された建物はデカかった。
今日見た街の建物の中で1番かもしれない。
暗い中に灯りがついているからか、多分一層存在感があるかも。
暗いと、実物より大きく感じたりするから。
昼に見たこの街の建物は、茶色で四角で窓は切り取られただけに見えた。
板戸とかはまっていないのか、全く見えず暗い影。
今、灯りが付いても中の様子がわからない。
警備員いるし。
ヤバい屋敷?
全体の大きさの割に、小さな玄関から入る。
どんどん奥に通されるが、逃げ道がわからない。けっこう曲がった。
廊下のせいか、歩くのに支障が出ない程度には明るいが、他の様子はわからないという。
ぐるぐる曲がったり階段少し登ったり。
コレ実はもう2階にいます、とかって仕掛け屋敷じゃないよね?
私が警戒されるの?
……そういえば犯罪者か。
熱中症でダウンしただけなのに。
もしや不正受給(?)の相談ですでに?
おのれスマ子。
本も時間かかるとか言って、戻してくれないし。
「お連れしました」
白服が室内に向かって声をかけている。
アンタが話すんじゃないんかい。
差し上げます、とか偉そうに言ってたのに。
扉越しに小さな声のやり取りがあって、扉が内側から開いた。
「主がお待ちです。」
待たせんな、って事?
とか聞けない。
開いた扉の前で中へと示されるので、ビクビクしながら白服の前を通る。
部屋の中に入った瞬間に感じたのは涼しさだった。
良かった、冷房ついてる!と歓喜する。
私はお店などに入った時、冷房が効きすぎて寒い方だが、こんなに長く暑いままなのも保たない。
次いで全体が温かな色合いで統一された部屋に目がいく。
建物は外側は他と同様に土壁みたいに見えたが、内装は木だった。
ソファなのか寝椅子なのか、長い腰掛けの布地は暖色系。洒落ているがリラックス第一という印象だ。
天井の灯りはオレンジ色で、照らされた時を計算に入れて色味が柔らかく保たれている。
絵が飾られてたり置物がいっぱいではないのに、人に見せる応接室なんだな、と納得する。
とても素敵だ。
でも、この感動の半分は冷房だと思う。
「こちらへどうぞ」
テーブルの向こうの人が立って、向かいの席に案内する。
どうも、とかマゴマゴしつつソファの前まで来て、一応、失礼します、と言って座る。
向かいではにっこり笑う主さん(多分)が、こちらを見下ろし、少ししておもむろに真正面に座った。
「今日はうちの者がご迷惑をかけたそうで」
そうなの?
ニコニコするその人は、白服よりは年は上だがそれでも二十代後半から三十代前半くらい。
そして白服のように胡散臭くない。
これこそが如才なく、というやつか。
知らんが。
「熱当たりはよろしいのですか?」
昼間は見なかった淡い服(そういえば白服もマント着てなかった)を見ていると、そう言われた。
顔を上げたら目があってしまった。
海外の人は目を合わせないといけないんだっけ?いや、小学校の頃「相手の目を見て話しましょう」とか言われた気が……。
「大丈夫です」
熱当たりが熱中症かわからないがそう答える。
間を置くともっと話せなくなるから。
「そうですか。体調は良いのですね」
いや、疲れた。
言われるとドッときた。




