恩
暑い。
海と同じく、ギンギラギンの太陽はとても容赦ない。
中東とかでは「君は僕の太陽だ!」とか言ったもんなら『冷酷、無慈悲』を意味するのでフラれるとマンガで読んだ。
わかる。
太陽をフリたい。
何喋ってんだ、私は。
熱中症か?
頭がズキンズキンしてきた。
さっきまで、靴下も履いてなかった足が、雑踏を通り抜けただけで小傷だらけになってたのが痛かったのに、それどころじゃなくなっている。
肉の事など遥か彼方。1ミリもない。
水と塩を貰って、風がよく通る木陰で横になりたい。
でも風ごと、かなり暑い。
(個人的には風なんて爽やかなものじゃない。)
そんなんで熱中症は治らないと思うけど、他に何も思いつかない。
スマ子の焦りを感じるが、どうもならない。
スマ子に「サポートって事は病気とか治せる?」って訊いた時、出来ないと言われてる。
気付くと息が上がり、ユラユラしだした。
立っている体力がなくなったというより、真っ直ぐという感覚がわからない。
肩で息をする間に、グラリときては踏みとどまるんだけど、きちんと立てない。
普通に真っ直ぐ立てばこんな苦労はしなくて良いのに。
そのうち、楽になった気がすると意識が遠のいていったり、目を開けて意識を取り戻したりを繰り返し、ついに地面に横たわった。
そうすると少し楽になった。
でも地面も暑い。
涼しいところに行きたい。
このまま少し休めば体力が回復するのか、もっと干上がって悪化するのかわからない。
どのみち動けない。
私、暑さ弱い?もしかして。
しんどい。何て向いてないところにいるんだろ。
海といい。(カナヅチ)
人のざわつきが何か大きくなったな、と少し経って思った頃。
「大丈夫ですか?」
声がして、頭にヒヤッとしたものが触れた。
目を開けようとしたら、またヒヤッとして、指先でひたいにトントンされる。
今度こそ目を開けると、若い男性がかがみ込んで見下ろしていた。
「やり過ぎると良くないんだけど。」
そう言いながら再び(多分)、頭に手のひらを乗せるように触れられる。
するとスゥと楽になった。
「意識はあります? 言ってる事はわかりますか?」
なんとか頷く。
ちょっと失礼します、と言われたと思う。
胴体と足の方を別々の人に(多分)持たれて場所を移動した。
私は何もしてないが。
ただ、ダランとしてた。 それでも人間って、人間を引きづらないで持てるものなんだな。
移動させてもらった、こう言えば良いのか。頼んではいないが。
いや、暑い地面も踏まれるのもカンベンだ。
近くの日陰のベンチみたいなものに横たえられる。
さっきより涼しい。
色々と世話され、落ち着いてみると、結構人がいた。
近所からコップに水を持ってきてくれてる人だとか(多分)、医者を呼んだ方が良いのかヒヤリをした若者に確認している人だとか。
……大事じゃん。
皆さん、こんな猛暑に日傘も帽子もないウッカリちゃっかりの為にありがとうございます。
乾ききってるから涙は出ないがありがたい。
悪いのはポンコツスマ子です。
まだ本調子じゃないのか、コミュ障が出ただけか。
口を開くのが億劫で、何も言えないまま、そのうちほとんどの人がいなくなった。
残ったのは、最初の人だけ。
「もう大丈夫ですか?」
頷く。
かなり意識はハッキリした。体調も痛みもなく、スッキリしている。
男性に頼まれるまま、仕事中に助けて貰った事を男性の会社の人に証言したり、他の人の会社にも話したりと、その後もなんやかんやと時間がたった。
日がもう暮れようとしている。
私も通りの端で、途方に暮れる。
治安どうなってるんだろう?
親切な人が多かったように思うが、昼と夜は話が別だ。多分。
夜にフラフラしているアホぽっぽに慈悲はねぇ!とかだったら、どうしよう?
もの凄く嫌だったが、スマ子に相談するか。
「もし、こんな暮れ時にどうかしましたか?」
振り返ると、ハッキリと目があった。
少し離れたところからこちらを見ている知らない男性。
この街で白を着ている人を初めて見た。
それだけでなく、まだ若いのに、胡散臭、いや、如才なさそうな笑顔を浮かべ、とても……怪しく見える。
浮いている、というのが見たまま。
後退りしたいのが心。
なんだろう、この拒否感は。
さっきまでたくさんの人の世話になったというのに。
この街が善人しかいない、とかではなく、なんかさっきまでの人達と違うような。
「どちらに行かれるんですか?夜に外を歩くのは物騒ですよ。」
やはり?
だかしかし、アナタから逃げたい。
逃げたいが、そもそもどこに行けば。
「なるほど、警戒されてますね。では単刀直入にいきます。貴方は今日、街で罪を犯した自覚はおありですか?」
はい?
へ?
いいえ!




