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お店カッコ仮。

 


 シーン。


 何か、言ってよ。

 いや、喋んないで。

 お願い。


 ……あのう、やり直したほうがいいですか?



 わずかに待たされた後、ハチさんはくるりと回られ右して半回転した。

 もうちょい早く反応して?


 そのままブーと進むのを見て、フー、とひと安心。


 していると、ハチさんは振り返ってコッチを見ていた。


『アンタ何してんの?早くして。』


 と、言われている気分。


 ハイハイ。

 え、何?

 案内してくれんの?


 しかし二、三歩だけで、すぐに止まる。

 歩いてついて行こうとすると、妙な物が見えたからだ。


 晴れの庭の手前。

 庭と建物の境目辺りに、オシャレ系インテリアの什器みたいなのがあった。

 木の枠にガラスの飾り棚みたいな。

 遠くはなく、むしろ全然近いんだけど、日の当たる庭が明るすぎて、よく見えている自信はない。


 いや、もしかして現実逃避?

 そんなに見たくないモノを今、私は見ているの?

 ハチさんの存在のほうが、よっぽど否定したいが?


 中身の商品(商品?)はキラキラとしていて、半透明だ。

 ピンクや黄色やオレンジの暖色系のキラキラの……瓶詰め?


 ん?

 これ、もしかしてハチミツ?


 ハチミツにしてはやたらにキラキラしている気はするが、色とりどりのハチミツ(多分。か、それっぽい物)の入ったガラスの小瓶だった。



 ハチミツ(多分)、売ってるの?

 ハチさん……。



 その時、ガラッと音がして、思考の迷路の袋小路から現実に戻った。

 ハチさんが、飛びながら地面ギリギリまで下がり、什器の下辺りの引き戸を開けた音だった。


 ……アンタ(私より、よっぽど)器用だね。


 ってか、やっぱりアンタのかい、コレ?

 御庭番じゃなくて店番?

 お宅さまのお庭でんすか?

 カーサフクダの庭じゃないの?

 カーサフクダには元々庭ないけどな。


 人んちの庭で何してんの、と思ってしまう私が図々しいのか?

 いや、ハチさんが図々しいのか?

 だとしたら、何でこんな(ヌシ)みたいに堂々としてるんだ?


 ゴチャゴチャ考えているうちに、ハチさんは要件を済ませていた。

 つまり引き戸の棚から風呂敷包みみたいな物を取り出し両手(両足?)で持ち、一番下の足一本((ほん)と数えるのかは知らんが)で『あらよっと』という風に引き戸を閉めた。

 引き戸には取手はないが、飾りのような段差があったので、そこに足をかけて引き寄せる形で。


 同じ状況なら自分もやるだろうが、他者がするのを見ていると『なるほど。お育ちが悪そうだなぁ』とか納得する。

 自分も部屋でやってるけど。


 っていうか、たくさん陳列する商品があるのにそこから出すんじゃないんだ。

 下に入れてるの、在庫じゃないんだ。

 なんていうか、並べきれない物を仕舞うもんだと思ってた。

 わざわざ風呂敷包みだし、まだ他にも商品あるのかな。

 商品か知らんけど。

 商品じゃなかったら、……何だろう?

 ただ並べて自慢してるだけ?


 足を止めたままボーッと見ていると、ハチさんは寄ってきた。


 階段に入り込んでた(多分。音だけだとそんな感じだった)ことからもわかるように、どうも建物の敷地内に入ることに制限はないようだ。


 私の近くまでそれを持ってきて、ひょいっと差し出した。


 その風呂敷包みはパッと見も丸かったが、よくよく見てもまん丸だった。

 こういうのって、満月と思ってよくよく見たらもしかしたら欠けていることがあったり、よくよく見てもちゃんと満月なことがある。 そんな感じなんですか?これ。

 どんな感じだ、それ。


 ボール、ですね。

 どう見ても風呂敷包みのボール。


 包み方の本とか教養系番組とかでしか見たことのない、スイカを風呂敷で包んで持ち手になる結び目があるやつだ。

 ボールをもらってもね?


 何?今から勝負でも始まるの?

 私は球技はからきしダメよ?

 他の運動もからきしだけど。


 近くまで来てふっと差し出されたので、甘い匂いが漂ってくる。

 まあ蜂蜜だしね。

 いや、これはハチミツじゃないか。

 ハチミツ製の何か?

 お腹減るような、期待させる匂いをさせておいてハチミツの匂いの御香を焚いてるだけだったらどうしよう。


  まぁ開けないとわからんとして。

 ハチがハチミツ屋って、業が深すぎないか?別にいいの?

 理にかなってるの?

 どうなの?


 それにしても、これは美味しそうだなあ。

 匂いがたってるので、ハチミツカステラかなぁと思う。

 なんかこれ、あれだ。人形焼きみたいな、焼き菓子みたいな香りがする。


 じーっと待たれたので、受け取った。



 部屋に持って帰って食べた。


 美味しかった。


 まん丸のカステラみたいな感じだった。

 中がフワフワで、外側が少しパリッとしてる。


 風呂敷は風呂敷だった。

 布みたいな、なんか紙みたいな変な感触で、何なのかよくわかんないが薄かった。

 そして割と丈夫だった。試しに引っ張ったが破れなかった。


 それに直に、まん丸のカステラが積まれていた。

 積まれたいた、と言っても1個だけだが。

 言い方が悪いのか?

 直に置かれていた?

 そうだ。

 それでいこう。


 それで、その、カステラ(仮)は大きかった。


 残したが、残すつもりで食べてなかったので、丸がギザギザに切り取られたみたいになった。

 月も怪物が食べたらこうなるかもしれない。



 うん。

 美味しかったね。


 すぐに食べれて、良かった。

 こんな近くで食べ物を入手出来るなんて。

 ホント、思ってもみなかったよ。



 ……でもさ。


 あのさ……。


 あんな苦労して許可証とったの、何だったの?


 何か、許可証で通ると持ち主として認められにくくなります、みたいな流れじゃなかった?

 アンタはどっちにしろ刺されるんですよ、みたいな。

 庭に出てすらいないし。


 あれ、あの許可証、必要なの?


 諸々のこの世界のお庭の説明はどこに行きましたか?

 まさかアレ、ぼっちマーケットの成れの果てじゃないですよね?

 他のお惣菜部門はどこに消えましたか。

 蛇使い座はいったいどこに行ったんですか。


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