段々畑
この、ごにょごにゃの気持ちを断ち切るためには、食べることが必要だ。
うん。
美味しいものをいっぱい、たらふく食うべし。
そうするとこのゴニョゴニョも飲み込んでしまいそうだけれども、そもそもスパッと楽しい気持ちで食べるためには、忘れることは必要だ。
よし。
もう考えないぞ。
でもやっぱり愚痴りたいので、お屋敷に行って白服を呼び出して愚痴ろう。
ぼっちマーケットに行って、持っていく食べ物を見繕わなければ。
念のため、スト中のスマ子を充電器から引っこ抜き、いつものリュックに入れる。
真っ白コンビ、いや、貝王様とイカさん先生はもういない。
なかなか二人で盛り上がってるので、スポーツ観戦か!っという突っ込みをこらえて「もう直接見に行ったらどうですか?」と言ってみた。
そう?じゃあね?とすぐさまお二人は消えた。
すごく早かった。
……私に遠慮してたのか。
異世界の娯楽はよくわからん。
海だから?
あと思ってたよりあの2人は忙しくないかもしれない。
まあ別に、いいんだけどね。
私は何も海に貢献してないから。
私が口出すことはない。
部屋を出て階段を降りて、いつものアスファルトの上を歩く。
この安心感。
いつもは晴れていると、階段を抜けた途端に明るくなるから(階段は暗い)少しは気分が上がるんだけど、ちょっとゴニャグニャのままだ。
ぼっちマーケットより向こうは、どうなっていることか。
そう思ったがカーサフクダの横を歩いて、横っていうか前って言うかね。
横目に建物がきれて視界が開けた途端、全く意識せずボーっと歩いていたせいか、普段と景色が違うことに気がついた。
……こんなん、あったっけ?
広がる畑。
これまでは雑木林のような感じだったんだけれど。
しかも、段々畑。
平地なのに。
いや、平地じゃなくなったんだろうか?
どんだけ島の改変されてるの?
このレベルで変わっていっちゃうの?
困るんだけど。
島ができる時、白服がいたせいか、一面の砂漠になりかけたことを思い出す。
やめて。
それはやめて。
カラッカラの大地になられても困る。
こんなになっちゃうの?
こんなに島を改変されちゃうの?
もしかしたらもう口から出たかもしれない。
「あの魔王~!」
端から見たら、1人で騒いでいるかもしれないが。
どうせ、誰もいないし。
独り言って、こうして癖になって人前でも言うようになるのかな。
スマ子は一体どこを盗聴中なのか、何なのか全く話さない。
それがいいのか、悪いのか。
その時ドシャーン!と物凄い音がして、段々畑の向こう側に大きな水柱(だと思う。)が、なんか竜巻みたいに白い柱のようなものが立った。
別に空まで続いてはいないが。
とにかく、それっぽい物が立った。
あれは……忌海子さんだな。
え、あれってまさか。
本格的な武力衝突になったの?
嫌だよ。
怖いよ、若干ぼっちマーケットの方向じゃん。
ちょっと違うけど。
私ところで、この段々畑の横を歩いて行くの?
道がなくなっちゃってんだけど。
道っていうか、ほどほどに開けたところが。
『嫌だよ』っていうか、行ける?これ。
私はもうこれ以上進めないんじゃないか、と思ったら、体がふわっと温かくなった。
それと一瞬後かどうか、ぐらいに貝王様から『壁を1枚追加しておきます』と連絡があった。
ほう、ありがとうございます!
ということは、せっかくやってもらったのだし、このまま行くか。
段々になっているものの、歩いてみるとそんなに高くないという不思議。
いや、緩やかに上がるから、そう感じるだけかな。
畦道にはしっかり雑草が生えている。
あれ?タンポポ咲いてんじゃん。
季節感ガン無視。
あれ?タンポポって、何月から咲いてたっけ?
そう思いながら、ずり落ちないように畦道を登っていって、段々畑が一番高いところまで行った。
どうなってんだろう?
海がそこまで遠くなかったはずなんだけどな。
カーサフクダは島から突き出た形にあったから。
すぐ横の土地も、そんなに広く広がってはいないはずだったんだが。
ダンダンのてっぺんから、海側の方(多分)を見渡してみると、スタジアムとか運動場とか、そんな感じに階段とベンチが広がっていた。
…………人類、私しかいないのに。
ちょっと待って。
ね、これ改変してんの、土偶魔王だよね?
この魔王、実は転生者での向こうの世界の記憶か何かがあるの?
もしかして地球の二十世紀か二十一世紀の人間の生まれ変わり?
どうなってるの?
私がやったんじゃないんだけど。
向こうのマナが混じってるだけで、こんな事になるの?
広そうな野外劇場の一部にも見える、コンクリートの階段と、うっすらと薄汚れているベンチ。
手すりはない。
海の中へと続く階段。
波打ち際の席なら、もしかしたら魚が泳ぐところは観られるかも。
気味子さんが1人シンクロナイズドスイミングする舞台じゃあるまいな。
そんな演目、タダでもヤダな。
勝手にイカさん先生の背景でやってるけど。
登ったはいいが、この観客席はすぐ途切れていた。
端に来たのでもなんでもなく、突然にスパッと切り取ったように席も階段も。
そして段々畑の裏側に、今日土を盛ったばかりのように、ただの土山になっている。
席も十数席くらい。
階段もそれくらい。
何故突然観客席があるのか謎のまま、土がさらさら崩れるので、畦道から降りる。
一応、雑木林が残っていた。
一部が段々畑になっていただけのようだ。
それも謎だけど。




