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懸念

 


 聞こえたのが勘違いなのかと思って、見回してみた。

 が、何やら土偶魔王もイカさん先生も、警戒しているように止まっている。


 今は忌深子(きみこ) さんだけが動いている。

『踏みつけられてます』アピールのように、汚黒髪をペタリと水につけたまま、先だけを水面から上に上げヒラヒラ揺らしている。



 これはまさか本当に?


 もう1回ゾウさんを意識しながら見る。

 鼻を上げ、忌身子(きみこ)さんを見て嬉しそうに言った。






 アネゴかっこいい





 すでに魔力を使いこなしている。


 いや、それよりも。

 そんな事よりも、だ。


 なんて事だ。

 あの汚れなきゾウさんが。

 男嫌いではあったけれども。



 姉御。

 よりによってアネゴ。

 姉者(アネジャ)とかよりはマシ?

 いや。

 そんな物言い知るわけないよね。


 いやいやいや。

 アネゴとか、どこで覚えたの?

 別にそういう意味合いが私の頭の中に伝わってるだけだし、ホントにそういうヤンチャな言葉?をゾウさんは話してはいないんだろうが。


 でも。

 アネキ、とかお姉さま、じゃない。

 何故だ。

 どうしよう。


 姉上、とかそっちにいくよりマシか?

 それただの時代劇ごっこだよな。

 ないな。



 それに。

 魔力持ち、まっしぐら。


 かもしれない。


 誰の声?っていうか、ゾウさんじゃないよね?

 そうだよね?

 と、さっきジーっと見てたから、気づいた。


 ゾウさんは魔力を帯びていた。


 一気に色々な魔力に触れて、食べてしまった体内の魔力と反応しているだけなのか。

 それともそのせいで魔力持ちに変化しつつあるのか。

 すでに変化してしまったのか。


 私には、包まれているだけなのかもわからない。


 その辺の鑑定は、魔王らに任せよう。






 ああぁぁー!もう!





 土偶魔王か奇声を発する。


 気持ちはわかるけど、落ち着いて。


 多分だけど、奇見子(きみこ)さんがちょっかい出す前なら、魔力持ちかも疑惑までにはいかなかった。

『魔力持ちに()()()()どうしよう』だったから。

 でも、今は。


 グレーゾーン?

 アウト?

 土偶魔王が疑惑だけで騒いでるのか、そこはちょっとよくわからないけど。


 もう、毅海子(きみこ)さんってば。

 あの怪しげ畑野菜は、この海のマナが自然に貯まったどころか魔王がさんざんカーサフクダに吹き込んだのが凝縮(多分)したものなのに。

 この海の魔王が触れたら、反応ないわけないのに。


 忌観子(きみこ)さんに関係なくても、何もされないように、話しとかないとダメかぁ~。

 私が考えなし過ぎたかなぁ。


 でもこんな事起こると思ってなかったし。

 ていうか、怪しくて怖いから自分じゃ食べなかったんだもん。

 もう土偶魔王ってば考えなしなんだから。

 ペロンと「いいんじゃない?」とか言っちゃうからさー。

 貝王様に言ったってわかんないだろうし。

 いや、海の中でも怪しげのものってあるのかな?

 どうなんだろう?


 今、土偶魔王を責めるのは酷だ。

 とてもじゃないが、娘の彼氏が来た時とどっちが嘆くんだろうくらいの喚き散らしっぷり。


 女だけどそんな状況になったことがないのでわからない。

 フッ残念サチ子。

 いやいいんだよ、私のことは。



 土偶魔王がこんなにわめいているのは、魔力持ちは寿命伸びちゃうからだって。

 普通のままにしてあげたかった。

 もう仲間を見つけて群れに戻れても、戻れない。

 生き物として、もう別のものになってしまってるから、どうしてもうまくいかない。

 一人だけ生き残り続けるしね。


 残されるのはツラい。


 そう嘆いているようだ。


 今更だよな。

 ちょっと、土偶魔王個人のトラウマな気もする。


 でも、結局ゾウさん自身には選びようがない。

 近くにいて、こうなったってわかっている存在がいるだけマシなんじゃないか、とは思う。

 それを言ってもどうにもならないんだろうけど。

 魔力持ちにならないことを願っているのは、本人じゃないからね。


 土偶魔王、やや錯乱ぎみ。

 イカさん先生も、どうしたもんか、時々思い出したように忌視子(きみこ)さんをベチペチ叩くだけで口も開かない。

 こっからイカさん先生の口、見えないけど。



 スマ子が突然喋りだした。


「ゾウさんは水のマナを保有してるみたいでしたけど、今持ってるのは水の魔力なんでしょうか。」


 いや、あの……魔力持ちになったっていう前提で話すのはやめようか。

 私だって一応、どうすんだろうと頭の中で考えはしたけど。

 いや考えると言えるほどじゃないが、頭の中でぼんやり心配してはいたけれど。

 決定するのはやめておこうか。


 しかし私の心を無視してリュックの中でスマ子は続ける。


 ちょっと喋んないで欲しいな、と思って私はリュックからスマ子を取り出した。

 肩からリュックを外すのにかこつけてゾウさんからふと体の向きを変え、視界に入れないようにする。


 うん。

 ジャングルというほどじゃないが、緑が美しい。

 そんな精神状態じゃないけど。


「そうすると、ここにいる生命体の女性陣はみんな水の魔力ってことになりますね。」


 もしかしたら、そうなるかもしれませんね。


 だから決めつけるのやめて。

 あと、もうちょっと音量低くして。

 土偶魔王に聞こえたらどうするのさ。


 イカさん先生がこっちを見ている気がするな〜。

 今はちょっと、私に特別お話がないんだということにしておこう。

 だからこっちを見ないで。

 お願い聞こえてんじゃないよね?

 聞いてるのかね。

 やめて。


 しかしスマ子は無情に続ける。


「やですよ、私はこんなレディースみたいの。」


 ホントにな。

 そして私をそこに入れないで。


「私は生命体じゃないから、仲間じゃありませんからね。」


 お前は確かに無機物だ。

 あれ?スマホって無機物?

 まぁとにかく生命体ではない。

 でも、その1抜けはズルいとか思ってしまう私がいる。


 普段は「差別だ」とかなんとか騒ぐくせに。


 スマ子が、私の感情を手から感じとったのか、大事なことだからなのか、また言った。


「イヤですよ、こんなレディースみたいなの。」


 ホントにな。

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