驚愕
土偶魔王が魔力で鬼見子さんを弾こうとする。
当然、抵抗される。
それ以上、近くで繋がったまま魔力をぶつけ合わせると、ゾウさんにどんな余波が行くかわからないから、諦める。
私が近くまで行って、毅深子さんに言い聞かせる。
無視。
これもダメ。
いやー、ホントこのヒト腹立つわぁ!
色々試していたが、やっぱり最終的にはイカさん先生の方が早かった。
色々とか数々って言うほどは、時間経ってないんだけどね。
もうどうしようと思っていて、切羽詰まってると思ってたから。
時間が長く感じて。
焦っていたらイカさん先生が、ひょっとその真っ白な体で現れた。
チョップするように長い足を天まで振り上げてゴン!
シーン。
奇視子さんはそれで静かになった。
イカ先生にぐっちゃり潰されたり投げられたりひねり上げられたりして、それが条件反射のように慣れてしまったんだろうか。
言うことを聞かねばならない、と。
もうちょい早く覚えてほしい。
というか本当は、そういう教育的指導で押し付けで怒られなくても、生まれ持ってある程度の知識があるはずなのに。
本当に気味子さんは、気味(悪)子さんだな。
生まれながらの無頼漢か。
あら、そういえば。
イカさん先生は、もう行ってるって話じゃなかった?私が貝王様から聞いた話では、すでにもう着いてるかのような感じだったけれど。
イカさん先生の早さだったら、向かってあっという間に着くはずだと思うが。
いや、私は実際イカさん先生の泳ぎの速度を知らない。海の中だからね。
私、海の中でそれを目視で確認することはできないから。
速さに対する認識が正しいかは分からないけれども。
この巨体だし、私も実際歩いて数分のところだからイカさん先生があっという間に着くというのは間違いないはず。
そう思っていたら、イカさん先生の動いた時に少しだけこの土地に残った魔力の残滓なのか何なのかわからないが、それが流れてきた。
イカさん先生の方向から。
少しすると、それが私の魔力と結び付いてつるつると頭の中で映像として像を結んでくれた。
本日のイカさん先生の行動。
一晩中泳いで遊んでいたが、ちょびっと朝寝。
その後久々にイカが食べたくなる。
イカ?!
イカなの?!
いいの?イカ。
ま、イカさん先生とは体の大きさが全然違うし、別の生き物のようなサイズだけど。
で、イカを食べて久々にゴリゴリの貝が食べたくなって、よく巻かれた貝を探して食す。
うんうん。
イカさん先生クラスになると、多分食べる必要ないよね。
これはあれか。
酒が飲みたくなるとか甘いものが食べたくなるみたいな、人間の嗜好品に対する感覚か。
どうなんだろう?
砂糖は依存性が高いからだけど。
わかんないな。
それから、今日はどうしようかな~と漂っていたが、何やら激しい意味不明な魔力の波を感じたので『やっぱりあそこか』と島に行くことにする。
いつもなんか起こってるような感じね、すいませんね。
そんで着いたはいいが、ゾウさんがちょっと跳ねていた。
どうも、ゾウさんがこの川の方に来てからで、その頃ちょうどイカさん先生も着いたらしい。
カーサフクダの前で跳ねていたのをイカさん先生は見てはいない。知ってはいる。
それで危海子さんも近づいてはいたけれどもスルーして、一応私を呼びに行こうと思ってカーサフクダの方に行った、と。
そういう事みたいだ。
なるほど。
ちょうどイカさん先生が行って貝王様が「彼が行きましたよ」と私に教えてくれて、私が移動し、ちょうどその後にイカさん先生がカーサフクダに移動してきた感じね。
すれ違っちゃったんだね。
イカさん先生の中では鬼身子さんをぶっ叩いても、別に罪悪感も何も感じない。
うん。
まあ、後ろめたく思う必要性がないとは思います。
ぶっ叩いた手で奇視子さんは静かになった。
いや、手じゃないな、足だな。
そのまま忌見子さんの脳天……脳天?まあいいか。
そこをまた、ペチペチと叩き始めた。
これはキックで踏み潰した後に、またグリグリ踏んづけてるみたいな感じだろうか。
人間の行動になぞらえるのは無理があるか?
その頃奇深子さんは、大人しくなったのかゾウさんからはシュルシュル離れてきた。
正確には汚黒髪を離した。
全然綺麗じゃないオウ蟲みたいだな。
長いのがにょろにょろ動いているから。
いや比べられるオウ蟲も迷惑だろうな。
よく見たら気味子さんは、ベッチベチ叩かれている時、目立たないように目の下の方の汚黒髪を動かして、そろそろとお気に入りの貝パールを頭の上、目の上?汚黒髪の上から避難させていた。
何を殴られる準備しているのさ。
殴られるとわかってたのか。
まさか、コレもレクリエーションだと思ってる?
全くもう。
ゾウさん大丈夫かな。
ある程度忌深子さんの近くの方にいたが、ゾウさんの方に近寄っていく。
あまり毅身子さんに近寄りすぎて、ゾウさんの姿が汚黒髪で見えなかったんだ。
こっちから伸びてるから。
痛いからなのか、引きずられまいとしているのか、キューっと目を閉じていたが、今はパチパチとしている。
不思議そうに瞬いていて、急に解放されてわけがわかんないんだろうか?
とりあえず大丈夫かな~と思って近寄っていく。
もう鬼視子さんに近寄られないように、土偶魔王がゾウさんとの間に壁を張ってるけどね。
アネゴ
ん?
今の、誰の魔力会話?
あれ?
なんか前に変化したゾウさんの声に似ているぞ?
まさかな。
舌ったらずのような幼い女の子のような声。
アネゴ?
久々に足元から血の気の引く感覚がして、ゾウさんを見る。
心配して近くに寄るつもりが、足が止まってしまった。




