提案
食べながら、つらつらとコネンさんの奥さんは 以前こちらの厨房に料理指導に来ていた、とか聞く。
へー、そうなんだ。
全部美味しいですよ。
呆然としていた白服だが、食べることは勢いがよい。
それはもう。
腹減ってんかい?
よく言う『部活帰りの運動部の男子高校生』はこんなカンジだろうか?
主さんは、よくわからないけれども機嫌が悪そうには見えない。
そして素早くさらに優雅にご飯を食べているという。
どういうこっちゃい。
どういう技術なんだ?
素早く動いてるんだけど、雑に見えない。
ガサツでズボラの私には無理だ。
不思議な光景である。
まあそう言いながらね。
ちょっと誰かを見てれば、それだけで止まるからね。
美味しいご飯は冷めてしまう。
そういうわけで、ほとんど夢中になって食べていました。
ていうか半分ぐらい食べてから、初めて周りに人がいたことを思い出したくらいだった。
あー、美味しかった!
食後のお茶までいただいている。
私はまあ食べるのも遅いから。
ゆっくりしてるんだけど。
いや。
ガツガツ食べたから、早く終わったんだろうか?
時間わかんないな。
スマ子はリュックのポケットに入りっぱなし。
そういうわけで、忙しい主さんたちは「失礼します」と言って出ていった。
はいはい。
どうもすいませんね。
ここでゆっくりお茶なんか飲んでいて。
それでさらにゆっくりお茶のおかわりなんかまで頂いて、私はようやく帰ることにした。
私に合わせて残っていたコネンさんは「え?帰るの?」と言う。
いつも主さんについているのに、今日は白服が主についてったみたいだ。
さっき見たはずなのに、よく見てなかったな。
うん。多分白服がお供についてた。
うん。
「帰ります。」
「次手なら今日は早く終わりますよ。
終わったらすぐこちらに参ります。待っててた方が。
その、お話があるんでしょう?」
それでも家に帰るんですか?とコネンさんに言われた。
だってさ、ゾウさん預かってもらおうかと思ってて、もう私、用件を喋っちゃったもん。
そういう用事で来たんですよ。
コネンさんに念を押しておく。
白服のやつ、また喋んなかったら困るからね。
いやまあ今日は、4人でいる時に喋ったんだけどさ。
ええ。
男嫌いな、あの子でございますよ。
よろしくお願いしますね。
来るか来ないかわかんないけど。
なんかすいません。
「ごちそうさまでした〜。」
とっても満腹感いっぱいで、私は帰ってきた。
私としてはカーサフクダに帰ったつもりだったんだけれど、そうはならなかった。
移動っていうのはだいたい一瞬なんだけど、不思議なことにその途中で、土偶魔王に呼ばれていることがわかった。
そちらに意識を向けたら、ちゃんと私は気がついたら土偶魔王の目の前にいた。
へえー、すごいね。
こういうのもアリなんだ。
そう思って見回していたら、あんなにビビった様子だったゾウさんは、もうすっかり落ち着いている。
遊んでいるようだったが、私を見るとすぐに、鼻で持ち上げてた木の棒を放り投げ、寄ってきた。
近くで見ても、落ち着いている様子だ。
いかにも『ねえねえ遊ぼう』という様子である。
ただし、歩くとドスドス音がしてるけど。
お帰り〜。
「戻りました。」
んで、どうだった?
「え?何がですか?」
え〜、どうなったの?預かってもらえる、ってなった?
そういえば……返事は聞いてねえな。
「言っては来ましたよ。」
と言い訳するも、私の頭の中がつるつると魔王に読まれる。
えぇ。読みやすいことでしょう。
ついさっきの出来事ですから。
頭の中で逆再生のように、さっき食べた料理が記憶の近い順からぐるぐると巻き戻っていく。
あ〜そうなんですね。
こういう風に、頭の中身を読まれているのね。
自分で納得してしまった。
え、あのさ……餌付けされてきただけじゃない?
「そうとも言いますね?」
いや、違うでしょ!そうとしか言わないよ!
食事が必要ない魔王に突っ込まれる私。
なんて人間的なツッコミの魔王なんだ。
あ。
「今思い出したんですけど、一番謎な野菜は、スーパーでも島の自生でもないんですよ。」
あんまり行きたくないけど、カーサフクダの105と地下野菜畑は、島の誕生後も変化ない。
というか、試しにひっこぬいた。
ぬいた小松菜かほうれん草か、はたまた全然違う菜っ葉なのか。
それはぬいたすぐ横に置いておいたら、ショボショボにしおれて枯れていった。
それは当たり前だとして。
空いた穴に、ぬいた翌日、小さな芽が出た。
10日か、20日、間をとって2週間くらい、としよう。
それくらいで、周囲と遜色ないものに育ち、そのまま現状維持だ。
初めて畑を見た時から、ずっっっとそう。
何も見た目に変化がない。
地下はもしかしたら、広がってるかもしれないけど。
ぬいた菜っ葉はそのうち消えて、見えなくなった。
はっきり言う。
コワイ。
キモい。
いつか喜んで食べるだけかもしれないけど。
いや~。
気が引けるけど。
けど。
「ゾウさん、食べさせてみます?」
……いいんじゃない?
「いいの?!」
マジ?!
あの心配、なんだったの?
ん~。
確かに何なのかわからないけど。
でも君より大きいし、耐性があるし。
「へい。」
もう、それ以外言えない。




