会話
屋敷の二階かな?
庭側の部屋に来た。
今日も晴れの青空と、揺れる木々の緑が美しい。
ところが部屋に入ると、部屋の窓の外にはまだ建物が続いてたようで、窓の外を歩いて雨戸のような物を数人が閉めていく。
不思議なもので、完全に暗くはならない。
部屋の隅の、柱のようにデカいトーテムポールのようなランプが徐々に明るくなっていく。
コネンさんはお盆を預けたのか、手ぶらで入ってきた。
そして扉が閉まった。
あれ?
閉まるの?
それになんか、雰囲気が。
あの~、お怒りではないですよね?
あれ?
主さんの方を見づらくて、動いているコネンさんを見ている。
コネンさんは、とてもニコニコ。
前は生真面目そうな真顔しか見たことがなかったのに、一度大爆笑されてから笑顔ばかり見ている気がする。
でも今日のニコニコは、なんか主さんに近い。
主さんはいつもニコニコ。
今日もニコニコ。
コネンさんは、トコトコと歩き進め、主さんの後ろに立つ。
主さんはいつの間にか、1人掛けのソファーにゆったり座っている。
魔王みたい。
強大な魔力のトンチキばかりの方ではなく、物語の魔王。
「さて、お客様。」
怖~。
さて、ですってよ、奥さん。
何も始まってほしくないんですが。
「聖地のことですが。」
「せーち?」
その途端、イラっとしたのか主さんの考えてることが頭に流れ込んできた。
この屋敷には白服の魔力が満ちていて、時々、魔力持ちでない人の行動なんかも突然頭に浮かんでくる事がある。
今回もそれだった。
主さんがイラッとしたからなのか、何なのか。
頭にふっと浮かんできたのだ。
この人でもイラつくことあるんだな。
つーか怒られてんの、私だよな。
何故?
聖地としてあの場所を保全する事業を始めたら頓挫したかすかな憤り、各方面への対応の変化、その為に滞る他の仕事の割り振り、この先のこと。
膨大に変化する仕事、その方向性。
全然、理解出来なかったが、とりあえず。
私は白服に言った。
それだけだ。
その前は、土偶魔王に会いに行けとせっつきに来てたけど。
あれ?
私のせい?
白服が引っ越しの話をしてなかっただけじゃないの?
「遅くなりました。」
白服がノックもなく、扉を開けてあらわれた。
おうおうおうおう。どうしてくれるんでぃ。
「引っ越しの話、しなかったでしょ。」
とりあえず、私は悪くないつもりではあるが、罪をなすりつけておく。
いや。正しい批判だ、多分。
全然こっちと会話するつもりもなかった様子で主さんに向いていた白服は少々、焦りだした。
「いや、そういう話で進めてみる、かもしれない、という話だったかと……。」
適当に言ってみただけなのだが、どうやらホントに白服は話してなかったらしい。
突然話し方がたどたどしく、尻つぼみになる。
でもそんな『かもしれない運転』みたいな話は……してたかも。
黙った私が怒っていると思ったのか、白服は続ける。
「これ程早く進むと思ってなかった。」
言い訳のような言葉だが、ポツリと呟くように言う。
今日は私の頭の中は、よまれていないらしい。
魔力持ちは2人とも動揺している。らしい。
魔力持ちでない人間のほうが、客観的に状況を見られて、理解が早そうだ。
フーッ。
主さんの、主導権を主張するような、存在感のあるため息。
白服がビクリとした。
主さん大好きのくせに、そちら側を向けないらしい。
このまま黙ってたら、どんどんうつむいていきそうだな。
「移動する可能性がある、という認識だったんだな?」
「はい!」
多分白服が落ち込まないように、主さんはすぐ話しかけた。
白服は弾かれたように顔を上げ、主さんに答える。
さっきとは声の明るさも張りも、全然違う。
「そういった話をしてみるがどうか?という内容だったので、実現しても段取りや挨拶などがあるものかと。」
何やら必死のアピールだが、私はどうしてもツッコミを押さえられなかった。
「あの強大な魔力のカタマリが、どこの誰に挨拶の必要があるの?」
段取りはともかく。
それも魔力で解決だけど。
魔王たちは、力業ならむしろ魔力で解決できる。
難しいのは小さな生き物、物理的に小さかったり魔力のないもの、または少ないものと関わることだ。
生き物の長なのに。
皮肉な矛盾だ。
私がちょっとアンニュイな考えに行き当たっていると、部屋はシンッと無言になってしまった。
普通に考えたら、白服の言う事が常識的なんだけどね。
「それで移動はしたんだけど、もしあの島にゾウさんが耐えられなかったら、お宅に頼もうかと思って。」
何がそんなにまずいのかわからず、早く帰りたくて続けた。
「ん?ちょっと待て。調停者も行ったのか?」
「だから調停者は何?」
魔王が何それ、言ってたぞ。
「え?マナを調整するものをそう呼ぶんじゃないのか?」
「魔王も本人もなんの事かわかってなさそうだったけど。どこの用語?」
呆然の白服。
おーい、聞いてるのはこっちだぞーい。
何を教えたんですか?という視線を主さんに向けるが、苦笑しているようだ。
白服は必死に思い出そうとしているが、時折頭の中に砂漠の景色が映りこむ。
数少ない、お姉ちゃんから教えられて残ったものかもしれない。
あの子本人も、おそらく親であろう以前暮らしていた魔力持ちの大人について、覚えていないようだったので、もう辿れなさそうだ。




