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いいわけ

 

 私は本当に、屋敷で食べてもらおうと思ったからわざわざ並べたのだ。

 数はおおざっぱで、屋敷の人全員に足りるかわからなかったが。


 でも、この盗み食いのようなシルエット。

 忍び込んで見つかったかのような構図。


 アポとってから来てないから、忍び込んではいるんだけど。

 魔力持ち同士だから、いるのは知ってて今日初めて会った、とか見つかった、とかは正しいんだけど。


 なんせメンタル弱々なので、この『客観的に見たら盗みに入って食べ物漁ってるようにしか見えないだろーなー?』という絵面に耐えられない。



 だから私は、当初の予定通りクッキーを差し出すことにした。


「食うか?」


 ただし、顔は入り口を向いていて、クッキーのお盆はその反対側だった。

 何故か口元のクッキーをくわえたまま手で割って、それをそのまま白服に向けた。



「……いらない。」


 でしょうな。


 誰がこんなん食べるのさ、サチ子!

 何してんの?



「大丈夫か?」


 私自身も一体何やってんの?っていうくらい混乱している。

 それが顔に出ているのか、白服の声が妙に優しい。

 辛い。


「お忙しいところ、お時間いただきまして。」


「そういうのはいい。」


 何しに来たんだか、一瞬思い出せなくてわけわかんないことを言った。

 一刀両断された。


「えーと、今、大丈夫?」


「少しなら。」


 簡潔に話されるので、私の方が頭が追いつかない。 えーと、何だったっけ?


 そうそう。

 土偶魔王の、あ、違う。

 ゾウさんだ。


 話し出そうとするんだが、この体勢は疲れるんじゃないか、と思って立ち上がった。


 フリーズしてるといいことないからね。

 立ち上がったりすると、少し気分転換になる。

 深呼吸するといいようだ。



 それで立ち上がったんだが、その時カタンと音がした。

 ゲ!と思って振り向く。


 どうもリュックのどこかがお盆に当たったようだ。

 でも振り向いたら、薄暗い中でお盆はちゃんと段ボールの上に乗っていた。

 ちょっだけ、並べたクッキーがさらに乱れただけだ。


 ああ、よかったよかった。


 お盆が落ちてひっくり返ってたら、さすがに食べるのは戸惑う。

 だからって、潔く捨てれもしない。

 ここはもしかしたら、綺麗に掃除してるかもしれないけど。


 私はじいちゃんばあちゃんが農家だったせいか、食べ物を粗末にすることがどうしても許せないのだ。

 ご飯茶碗にべったり米粒つけまくって『残してない、おかわり』とかいうやつ、キライ。

 向こうも私のポリシーなんてどうでもいいだろうが。


 逆に、先輩に「箸の持ち方が悪いから殴りたい。」と言われた事があるが(別件でさんざん頭叩かれてる)きちんとした持ち方が未だに出来ない。

「こうだ!」って練習させられたり、したりするんだけど、正しい持ち方をすると全然動かせないのだ。

 どうでもいい、と思ってるわけじゃないんだが「根がだらしないから出来ないんだ。」とまで言われると、気にしたくもなくなる。


 恥ずかしいとは、やっぱり思うんだけど。



 誰が正義とかいうんじゃなく、要はそれぞれこだわりがある、という事なんだろう。

 そうしとこう。



 あ。


「用件は違うんだけど、忘れないうちに言っておく。

 これ持ってきたから皆で食べて。

 すぐ湿気(しけ)るから。

 みんなに渡るかわかんないけど、それだったら主さんに持ってもいい。毒味役とかいるんだったらわかんないけど。

 ちなみに甘いです。」


「あ、ハイ。」


 一応、屋敷の用件のせいか、微妙に取り繕ったように白服が言う。

 ちょっと片言になっている。


 本題の結論の方を言えよ、と思うんだけども、こっちも忘れないうちにと思って。

 袋から出したらすぐ湿気るよね。

 この乾燥したカコドでもそうなるのかは考えてなかったけど。


 なんとなく屋敷の女の人に渡そうと、ぼんやりイメージしてたけど、人減ったんだもんね。


 気づいて言えたせいか、口が滑らかになった。



「それで用件なんだけども、あの土偶魔王の」


 と、そこまで言ったところで、白服がはっ?という顔をした。


「あの砂漠の変なサボテンの魔王が、」

 と、慌てて説明する。

 私が勝手に土偶魔王と呼んでただけで、名前じゃない。

 もちろん、本人にそう呼びかけたりはしていない。


「ああ。」


 白服は、私の説明で理解出来たのか、はたまた頭の中が流れているのか、納得したように相槌をうつ。


 私はもう、頭の中が流出してしまうことを止めるのを、半分ぐらい諦めかけている。


 何でも頭の中が読まれるのは嫌だけど、わかりやすいだろうし。

 うまくいかないと思う。 これ。

 だって頑張っても、この魔力の使い方の中で一番、上達しない。



「私がいる島に引っ越したから。

 あの場所に今は、ワタクシ魔王という魔王がいるから。」


「は?」


「え?」


 は?って、何?

 お前もオッケー(?)したじゃん?

 いいんじゃないか?みたいな事、言ったよね?


「え?ちょっと待て。

 いない?」


 白服の頭の中に、あの岩場が思い浮かんでいる。

 動揺しているらしい。


「うちの島にいます。」


 頷いておいた。


 ちょっと待て、とまた言って、白服は慌てて部屋を出ていった。

 扉すら閉めていない。


 少し屋敷がざわついていたが、もしかして出かける準備だったんだろうか。

 なんでその最中に私のとこ来たんだろう?

 帰っちゃったから?

 別にグレたんじゃないけど。


 あの砂漠まで行く予定だったから、私のとこ来たとか?

 ちょっと伝書鳩風に働きましたものね?サチ子は。

 頑張りましたよ。

 だからクッキーも持ってって。


 目の前にあったら食べちゃうから。


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