安心
うん。
島だね。
戻って来たね。
森が目に入り確信すると、ピコンと頭の中に、おおざっぱな島の絵地図が浮かぶ。
大きい島と、それに並ぶ小さな島。
小さな島のほうに、赤く印がついている。
これが現在地か。
前に一瞬だけ頭に浮かんだ島の地図と、違う表記だ。
統一してくれてもいいんだが。
あと大きい島のほうに、茶色い山の絵があった。
山、あるんだ?
全然見えたことないけど?
あんまり高くないらしい。
山って、どこからが山なんだろう?
愛宕山が38メートルの山だったっけ?
愛宕山、行ったことあったかな?
わかるような、わからんような。
上野はあれ、山?
どっからが山?
丘と山の違いは何?
ま、いっか。
行けるようになったらわかる。
どんな山かはね。
丘と山の違いは謎のまま。
スマ子?
アイツはうるさいから、頼っちゃ駄目だ。
どのみち、あんまり高くはないんだし。
特に影響はない。多分。
木で見えない程度の高さなのは確か。
っと、ゆーか。
「抵抗しましたよね?大変だったんですけど!」
自分の後ろに土偶魔王魔力を感じていたので、振り返った。
だって~。
と、答える土偶魔王。
が、
「遠い!」
まさかの土偶魔王、岩場ごと無理やり島に来た。
後ろに丸々過ぎてダンシング出来ない土偶がいると思ったら、岩場の裂け目だけ見えていて、その奥から魔力だけ響いてくる。
気軽に振り向いたのに、背後に大岩がそびえたっている、圧迫感が凄い。
ちょっと、それワタクシ魔王に引き渡しじゃなかったの?
あれ?
勝手に貝王様とそうと決めてただけで言わなかったっけ?
いや、言った!
「何してんですか。」
だって~。引き剥がさないでよ~。
亀の甲羅じゃないんだから。
いやカタツムリ?
どっちにしても、それはアンタの体じゃない。
貝王様もイカさん先生も鬼深子さんも近くで待ってるから。
忌視子さんに待てが出来るかはとても謎だけど、もういるから。
だから、ちゃんと出て。
何だコレ。
引きこもり?
今どきそんな末摘花の姫君みたいの、ウザがられるだけだから。
勢いつけて出発してきたら、事前に買っておいたチケットを家に忘れて新幹線乗っちゃった、みたいな気分。
状況はわかりました。
と、貝王様。
あれ?
どこ?
魔力は感じるのに、どの辺りにいるのかわからない。
強いて言うなら地面から魔力を感じる?
今までにないことで、少しビビる。
貝王様の魔力、であってるよね?
自分の五感が……いや、これは五感じゃないが。
とにかく、ビビると自分の感覚の信用がなくなる。
場所はもうわかったと思うので、自分で置いてきてもらいましょう。
容赦なく続ける貝王様。
岩場を置いてくる、って会話、人生で今しかしないだろうな。
だ、そうですよ?
振り返るが、土偶魔王は1人パニくってて、全然貝王様の魔力も感じ取れなかったようだ。
いや、違うよ。
海の(魔王の)魔力がわかんないんじゃなくて、アンタが混乱してるだけなんだよ。
落ち着け。
前に小貝でやり取りしてたでしょ?
分類学上は私が引きこもりだから。
こんな面倒見がよいキャラみたいな行動を、とらされても困るの。
自分の面倒も見れないんだから。
早く行けよ~。
グズグズする土偶魔王を見送っていると、妙な気配を感じた。
周囲を見回すと、やや遠くに白と黒のウニョウニョが見えた。
生えてる?
あ、あそこは川か。
うんうん。
ちゃんと予定してた通りに、この辺に着いたね。
ウニョウニョを抜いても、なんとなく前と風景が違う気がするが。
近くに魔力を感じていたので、居るのはわかってたけど。
あれはイカさん先生の足と毅見子さんの汚黒髪。
激励なのか、モタモタすんなーと囃し立ててるのか。
『やーいやーい、ヨヒョウのばーか!』
って構われたくて会いに来る、村の子供AとBみたいな、白と黒のウニョウニョ。
その愛は、土偶魔王に伝わんないんじゃないかなぁ~と思う。
様子をみていても案の定、ウニョウニョに気づいているのかいないのか、土偶魔王は強制退去させられるみたいに、半泣き風。
全く余裕がない。
どうしても魔力は使うんだし、離れていてよかったかも。
現実にはやらされてるだけだけど、予定通りでしょ?
魔力ですぐに移動出来るじゃん。
私には難しくても、アナタ(魔王)には簡単でしょ?
もし初めてだとしても、私と移動した後だし。
初めての移動とか、魔王にはどれくらいの経験値が入るんだろう。
毅見子さんなんて、最近はウネウネ汚黒髪がストレートになってきた以外に成長が見られないのに。
魔王のレベルのポイント制が、個々の事情過ぎて複雑怪奇。
土偶魔王のところに貝王様の魔力がいったのかわかった。
そして、すぐに土偶魔王が消えた。
一気に開ける視界。
強制的に飛ばされたにしては少ない魔力だったし、早く行けよと言うだけには、土偶魔王の反応が早かった。
……貝王様の説得力が凄いんだ、きっと。
それ以上、私は突っ込まないぞ。
もう私の役割はないので、落ち着いて周辺を見てみる。
白い足は引っ込む寸前で、気味子さんだけ、まだウネウネしていた。
あの辺がまだ川。
というか島と島の裂け目で、90度もいかない程度の角度に視線をずらすと、さっきまであった土偶魔王の岩場辺りはただの地面になっていた。
多分、土偶魔王が自分で居場所をアレンジしやすいように、だろう。
昨日の今日でもう準備してあったんだな。
貝王様、決行したがってたもんね。
これを見ると、のんびり屋の土偶魔王に内心では少々同情していたが、事の発端は自分の発言だから頑張れ!となる。
もし、場所がイヤってなったら、話し合おう。
とりあえず、実は今日心配していたことが一つ。
ワタクシ魔王のところに連行されなくてよかった。
それに今、すごく安心している。




