魔王演劇
帰りたーい。
しかし、送られちゃったから、どこかわからん。
自力で土偶魔王のところに移動できるだろうか?
ワタクシの眠りを……。
「あー、はい、はい。
ご紹介にあずかりました、人間です。」
紹介などされてないわ。
あの、丸々土偶!
それじゃ、ただの侵入者じゃないか!
『行っといで~』じゃ、ないわ!
あれ、『行ってらっしゃーい』か?
どっちでもいいわ!
「え~、あのー、ですね!
向こうの魔王様から話が通ってるかと思いまして。
ええ。勝手に踏みいるつもりはなかったんでございますよ。」
なんかとりあえず、へりくだってみる。
効果あるのか知らんが。
人間が来ることは知っていた。
どっちやねん!
関西弁になってしまう、このままじゃ。
あんまりわかんないが。
京都なら五回くらい行った。
京都って関西弁?
あんまイメージないな。
「あ、そーですか~。紹介ではなかったですねー。
はははー。おっかしー。」
自分でも、はははー(乾いた笑い)は何だよ、って感じする。
私、サラリーマン接待とか、絶対向いてないな。
あれ、使おう。
ホストギャバ嬢のさしすせそ。
さ、さすがです。
し、知らなかったです。
す、すごいです。
せ、…………。
とりあえず、これでいこう。
「いやー、さすがのツッコミですねー!」
ん?
ツッコミって、誉めてる?
相手は芸人さんじゃないぞ?
ってゆうか、まるで知り合いみたいな言い様だな?
ホストキャバ嬢、どうしてるの?
一見さんお断りなの?
初対面じゃないから、さしすせそでいけるの?
どうしてるの?
あかん。
話題変えよう。
「眠ってるところを、すいませんでしたね~。」
眠ってなどいない。
どっちやねん。
やべ。
すでに帰りたい。
「あ、えーと。」
どうしろと?
会話成り立たないけど。
何故お前、ワタクシに、答えない?
言ったじゃん!
『ダレ?』ってゆーから、『人間です』って言ったじゃん!
アナタそれを、はたき落としたんてすけどー?
お前がちゃんとしないから、先に進めない。
え?
名前?
名乗ればいいの?
「イトーサチコです。」
シーン。
何だよ!
何も起きないじゃん!
寝ぼけてんの?!
なんかはっきり起きるサインとか何かなのかと、大真面目に相手したのに。
いい感じ(ロマンチック)じゃない。
と、いう魔王の不満が、もや~と漏れだしてきた。
求めてんのはロマンスかい!
サチコに求めないで!
ってか、『ワタクシの眠りを』のくだり、ただの演劇かい!
演劇クラブなんて小学生の時くらいだよ、私に求めないで。
あの頃、魔王役だった美智子ちゃんに言ってやりたい。
女性の声の魔王なんて、そんな威厳ある感じじゃないから。
もっとしょうがないから。
もっと、どうしようもないから、って。
全然、威厳込めなくていいから。
練習しなくていいから、って言ってやりたい!
今会っても、美智子ちゃん、わかんないだろうけど。
私、今、思い浮かべてる顔、美智子ちゃんであってるかな?
めんどくさくなって
「あー、すいません。
本題に入りますね。」
と話し始めることにした。
めんどくさい。
貝王様に、こっちの対応もお願いした方が良かったんだろうか。
でも貝王様も知らないけど、私も知らないから説明のしようがないんだもんな。
仕方がない。
とっとと用件話しませんと、帰れませんよ。
そもそも、こんな面倒な目にあって、あとから言ってない、って言われても困るし。
サチ子、己の任務を達成しないと帰れない。
土偶魔王だけじゃなく、イカさん先生も白服も貝王様までも、これやって来い、的な感じだったからな。
いや、貝王様はもうちょっと、ねぎらってくれる優しい感じだったんだけど。
仕方がない。
これを言わないと帰れないんだ。
用件を説明し始めるんだけど、途中でなんか変なことばっかり言うんだよな。
聞こえてんのかな?と思って、ちょっとその辺をうろうろ歩き回りながら喋る。
喋りながらだから気づけないのか、魔王は結局どれなのか、わからない。
どれ?魔王。
なんかもうちょっと、強力に魔力を発してんのを探せばいいと思うだけども、この辺りに魔王の魔力が満ちすぎていて。
なんか正直、この空間全体から感じる。
どっちかって言うと地面なのかな?と思った時に、全然楽しくないと、ボソッと言ったりしていた魔王が 、ちょっと怒りの色のような魔力を発した。
それまでだって、なんかボソッと魔力が流れてくるたびに、私は話を止めて
「何ですか?
もう1回、繰り返しますか?」
とか聞いてみたんだけども。
そうすると黙るんだよ。
この人めんどくさいな。
土偶魔王の方もウザいんだけどね。
こっちはなんつうか、もうちょっと違う感じのウザさだね。
人には黙っといて、日記にベラベラ悪口書く紫式部みたいな陰湿な暗さだね。
今は明確に怒っている。
「えーと。
どこの部分にお怒りでしょうか?」
踏んでおる。
「はい?何か踏みましたか?」
足元を見るが、草も花も、足をどけて見ても虫も踏んでなさそうだった。
踏んでおる!
え?
地面?
地面に足着けるな、ってこと?!
私か難易度の高さにおののいていると、ピカッと地面が一部光る。
確かにその一部を私が踏んでいる。
光ってなさそうなところに退避して、すぐに光は収まった。
よくよく見ても、あまり違いがわからない。
周りとよーく見比べて、恐る恐るさっき光っていたあたりの土を、しゃがんで手で払った。
すると化石か何かみたいな、断面図みたいな模様が現れた。
え?何これ。
地面に模様が書いてあるの?
どういうこと?




