知らない魔王
行きたくないけど仕方がないから、やっぱり貝王様とイカさん先生に相談しに戻る。
準備もなく行けるわけない。
知らない魔王どころか、土偶魔王だって面倒くさいのにー。
どうしろって言うの?
殺されても困るし。
殺される程までの、相手にもされないかもしれないけど。
眼中になさすぎて踏み潰されても困るし。
鬼見子さんとか、人間に興味ないから、そんなイメージ。
たまたま敵対したところを見ただけで。
その通り、すぐやるよ、やつは。
人類にさー。
好意的なのはさー。
たまたま、ホントにたまたま、因果あったあのお二方ぐらいだよね。
イカさん先生はほぼ魔王と似てるくらいだよ。
魔王とその他の生物は、はっきりと別物らしいけどね。
見上げてる側には変わらない。
この海での役割でも。
忌視子さんも好意的といえば、好意的なんだけれども。
好意的と言った時に付随する、行動が違う。
この世界で、友好的な態度を示してくれた強者、その1、その2、貝王様とイカさん先生に相談するのがやっぱりよろしい。
奇御子さんと土偶魔王って、好意とか友好的っていうより、メンヘラ寄りだよね。
土偶魔王は、自分を人間だと思って育ったイエネコみたいな。
ところで破壊王危深子さんは、メンヘラという言葉で済ませていいんだろうか?
実はメンヘラの意味も、よくわかってないんだよね。
『私アナタから絶対に離れないわ』っていう、脂肪みたいなのがメンヘラだと思ってるんだけど。
違ったら、グループ分けがそもそも違ってしまう。
別に対立しなきゃ、どーでもいいが。
会議みたいに、テレビの前に座る。
魔力珊瑚は、最近、テレビがある居間が定位置になった。
白服の意見が重要なのかどうかもよくわからないが、報告するためお暇伺いしたら、すぐ答えてもらえた。
イカさん先生に促されて、さっきの会話の話をする。
貝王様もイカさん先生も、じゃ、そうしたら?という感じだ。
魔王が人間一人の意見を重要視するのに、私は勝手に違和感があるんだけど。
陸の考えはわからないから、ということだった。
陸たって、私としては魔王同士のほうが近い存在な気がするんだけど。
向こうには、向こうの風が吹くのだから、そっちのほうが意見が近いんだろう、という。
そうなのかな?
いまいち納得できない。
私の納得は必要ないかもしれないが。
陸で魔王の数が減って久しいらしいし、魔王より人間の数が多いと、人間の影響を受けるんじゃないか、という貝王様の意見。
魔王が、人間の、影響を受ける。
すごい。
魔王の数減らしたのは人間なのに。
魔王がむやみに減らされたことで、マナも枯渇しかけた土地もあり、滅んだ生き物も多かっただろうに。
勝てば官軍だな(?)
土偶魔王に関しては、人間の影響受けまくりだけど。
お前は人間に育てられてないぞ、落ち着け!ってくらい。
あ~、めんどくさい。
土偶魔王もうざいのに、そのさらに上って何よ。
帰れコールとかされたらどうしよう?
その時点でシリモチつきそうだ。
魔王同士の領土権争いなら、はっきりとそう言ってほしい。
どうしたって私の手に余るんだから。
ネチネチも嫌いなんだよなー。
絶対お局様はクレーマーの才能あるよ。
一方から聞いただけで、こんなん言ったら誰だって怒るけどな。
当たり前。
めんどくさい。めんどくさい。
それが頭の中からも流れ出て、態度にも出ていたのか、貝王様が気遣ってくれる。
お客様。
お疲れでしょう。
ドグウ魔王には、あの魔力持ちの話は私が通しますから、お客様には、件の魔王に一度お話を通してください。
お願いいたします。
前よりちょっと、フランクに話すようになった貝王様が、丁寧に労ってくれる。
ありがとうございます。
体にじんわりきます。
柔らかい魔力が、あまり波打たずに体に入り、スッと溶けていく。
なんかちょっと楽になった。
気づかないうちに、疲れとは貯まるんだな。
……長時間、姿勢悪くスマホいじってただけか。
そういえば、そんなこともしたね。
あったね。
おばちゃん、遠い目になっちゃうよ。
貝王様とイカさん先生に見送られて、土偶魔王に再び。
今日は、念のために貝王様が、人間には見えない魔法をかけてくれた。
白服がいたら見えるけど。
早い話が、魔力持ちじゃないと中身が見えない壁を体につけてくれたのだ。
ゾウさんに混乱されないように、魔王なら解除できる鍵つき。だとか。
なんか、すごい。
着いてからすぐに、土偶魔王に貝王様からの小貝を渡したら、あっさりした態度だった。
あれ、魔王様?
アンタこの間、すごい有り様だったよ?
ぶっちゃけ、ウザかったよ?
何、その物わかりの良さそうな感じ。
うん。
わかった。
よろしくね!
丸投げ?
どう、よろしく?
え?
私に通じてませんことよ?
じゃ、向こうにお伺いたててみるねー!
お、大丈夫みたい。
行ってらっしゃーい!
土偶魔王じゃないみたいに、クイックに押し出された。
抗議もへったくれもなく、気づいたらサバンナの草原のような、カラカラの乾いた風に吹かれていた。
サバンナ行ったことないけど。
そして、今までと違う魔力に包まれていた。
さっきまでは、その強大な魔力は土偶魔王だった。
同じくらい、当たり前に空間を作っているかの如く有るのだから、すぐそばにいるのだろう。
そこら中に満ちているので、どれが魔王かわからない。
まさか目に見えない魔王とかいるんじゃないよね?
私の眠りを呼び覚ます者は誰?
眠り?
寝てたの?
何でオッケー出したの?
あれ?
土偶魔王より、めんどくさいそうな方だ。




