昼ご飯
なんとかゾウさんを落ち着かせて、魔王のところに行こうとする。
大岩を通りながらゾウさんは、まるで「ねー、ひどかったよね~」という風に話しかけたりする………よう、なんだが。
なんだが、……全然何を喋ってるかわからない。
鼻を持ち上げるアクション付きだ。
そういえば、男嫌いの疑惑があったっけ。
慰めるように肌をなでたりするんだが、それでも全く魔力会話に変化したりしない。
ごめんなさい。
何言ってるか、全然わからない。
マナを保持するゾウさんと、魔力会話になる時とならない時の違いは、一体何なんだろうか?
魔王に頼んだら会話できるんだろうか。
困った。
おとぎ話のアイテムみたいな物が、今ほど欲しいと思ったことはない。
あの、何々を持ったら、動物の会話が聞こえるようになった、とかそういうやつ。
魔王のいる水辺まで着いたが。
うん。
これ、どうやんの?
私はゾウさんを乗せて水の上を悪くなんて無理よ。
ゾウさんを持ち上げれないしね。
腕力でも魔力でも。
いつもどうしてたの?
ていうか、ここに帰ってくるの?
寝る場所とかどうしてんの?
そしたら『おかえり~』と、魔王が迎え入れてくれる。
だがしかし。
だから、遠いってば。
どうすんの?これから。
ちょっと待ってね~。
待つ。
待つ。
何も起こらない。
なんだよ。
「あの~、帰っていいですか?」
え?待ってよ!せっかち?!
えー、もう待ったよ。
でもゾウさんも、鼻をすばやく私の腕に巻き付けた。
キュッて。
そんなにしっかり、こっちに体の向き変えてないのに。
器用だね。
……なんか、女子友ってカンジ。
ゾウさん、忌海子さんの対極にいる。
それで、待ってればとうにかなるの?
ゾウさんの鼻をくっつけたまま、腕を動かしたりして、少し遊んでいた。
痛くないように注意して、ね。
しばらくすると、水が引き始めた。
え?
時間、こないだと違わない?
何で?
私は変に思うが、この場所では、もうこれが日常と化していた。
植物のバイオリズムがよくわからないが、一度水を吸い込んで、植物内に満ちて、また吸って。
その周期が24時間じゃないようだ。
季節でも、もしかしたら変わるのかな。
つまり、毎日違う時間に水が引くらしい。
本日の、陸に変化する時刻表を教えてほしい。
今後来るなら、その時間にするから。
私が、敷石というには飛びとびな石を、必死に進んだのと違って、水中花になってた植物までが割れて道が開ける。
地面は土だったり(多分前は砂だったところ、と思う)何故か平らな岩だったり。
明らかに魔王が整えた魔力も感じる。
……差別だ。
ゾウさんは幼いかもしれないから、口には出さないが。
ゾウさんは、別に驚く様子もなく、ゆったりと魔王の前まで歩いて行った。
挨拶しているのか鼻を持ち上げたり(前に進む時に、私の腕から離れた)何やらちょっと頭を振ったりした。
時々、足を鳴らしている。
男衆がいっぱいだったことの、文句を言っているのかもしれない。
魔王は何やら相づちを打っているようなんだが……。
魔力はなんとなく響いてくるが、あんまり何を喋っているかわからない。
相づちくらいで『うん、うん』っていうのしか感じないし。
ゾウさんは、魔力で話しかけられて、わかんのかな?
魔力で考えを伝えることは出来るが、魔王の魔力は余波というより、やっぱり相づちにしか感じない。
この土地のマナの凝縮とも言える魔王が、この土地のマナを持つ動物と会話してもおかしくないんだけど。
はっきりわかんないが、魔王も発する魔力をかなり絞って相手をしている。
ゾウさんの体のためだろう。
ゾウさんは、話を聞いてもらってると思うだけでいいのかな。
どう会話が通じてるんだろう。
よくわからん。
魔力、あるのにわからん。
そうこうしてひとしきり話しをしていたが、満足したのかゾウさんは、動き出した。
一人でくるりと向きを変え、岩壁側の木の間に消えていった。
前と同じ方向だったので、多分あっちでまた寝るんだろう。
あのまま寝っ転がって眠ったりしたら、水に囲まれたりしないの?
どうすんの?
水に囲まれたら多分、壁かなんかで守ったとしても、寒くなっちゃうんじゃない?
それも、温度調節するの?
どうすんの、あれ。
魔王のほうを見ると、
頑張ってます。
と、魔王。
そうですか。
そうなのか。
この水、やっぱりもういらないんじゃない?
どうせそのうち消えるんだから待ってよ~!
本当に?
ってゆーか、消す気、あるの?
いーじゃん、ちょっとくらい。
ボクだって色々あるの!
あるの~。
ほー。
何が?
つい好奇心で聞いてしまう。
近所のお局様がね~。
聞きながら、良いカンジの高さの岩に腰をおろす。
あ、水戻ってくるよ?
魔王、頑張って!
助けてください。
水の上もトラウマだけど、水に浸かるのもイヤです。
嫌な言い方!
これから弁当食べます。
登ってきて食べれない?!
よろしくお願いしまーーす!
と。
お願いして、私は遅めの昼ご飯、弁当食べます。
弁当を食べてる間に、水が戻ってくる。
気付いたら、ゾウさんが通る時に遠ざかっていた植物がすぐその辺にいたり、その根元に水がヒタヒタだったりになっていた。
気付くとやっぱりちょっと焦って、食べるスピードを上げてみた。
思うように食べ終わらなかったが、水は私の回り何メートルかを避けて広がっていた。
お、すごい。
さすがに魔王。
でも、近所のお局様の話は近所の魔王の話だったので、なんか陸の魔王に敬意を維持しずらいな、と思う午後だった。




