行列
とにかく風呂入って温まって。
しかし残念ながら冷えのぼせなので、体が全部温まる頃には頭が朦朧としかけて。
水分取って休んで。
朝起きて、足が水に漬かって。 風呂入ってまた布団に戻ってきて。
私は一体何をやっているんだ。
そうこうしたら、なんともう昼。
ねえ、気付いたら昼だったんだけど。
どうしてくれんの?本当に。
鬼視子さん。
こんちくしょう。
今日の始まりがもう、ぐんにゃりし過ぎ。
どうしようかと思ったけど、現実逃避に……いやあっちの現実問題も残ってるんだけど。
魔王のところに行くことにした。
行ってすぐ戻ってこよう。
長居はしない。
今日はもうすでに、水の上に頑張って立つとか落ちるかもしれないとか、だいたいトラウマである。
本日限定かもしれないけどな。
あの水場になってからは、すごい面倒くさいんだよな。
カラカラでも乾燥して大変だけど。
私ちょっとあんたんとこに来るとこじゃないんで、途中なんで、みたいな。
よし、いける。
不自然な演技でなければ、探られないだろう。
自分から、ウソです、と無意識に発信しなければ。
そういうわけで、ご飯を食べたりなどして、ちゃんと体温も落ち着いてきたことだし。
移動する足場をめっちゃ確認した。
スマ子には「何があったんですか?」と結構しつこく聞かれた。
壁際で充電器にささってたので、スマ子は今朝の川のことを知らない。
いいから、忘れろ。
気にするんじゃない。
昼飯を持って(もう昼だけど)
移動!
はい、着きました。
ついた途端に、この荒涼たる砂漠の風の音の強さよ。
天は突き抜けるように青い。
荒涼、ってところで、砂漠にも使っていいの?
なんか荒地の修飾語な気がする。
荒れて吹き抜ける、ようは広い土地のイメージだけど、涼と入るからには、暑い砂漠には使わないのかな?
風景が涼しい、寂しい、みたいな感じなのかな?
たわわに実る畑は暖かい、になるの?
いや、それはただの心境風景だよな?
あ、人工的ではない、のこと?
自然は涼しい?
なんか変だな。
もう、いいや。めんどくさい。
早い話が、ゴーゴーと風が鳴っています。
目をつぶってるのは、大岩の前の砂漠に着いてすぐから。
砂を叩きつける風、こわい。
島はわりと日中も気温が下がってきたけど、陸に来ると暑い。
全然、違う。
カーサフクダの105号室の畑は全然変化なくて、こわい。
あそこの食べ物、食べれない。
スマ子は、栄養価が凄まじいからオススメ、何故今日も食べない、食え、的な感じだけど。
そんなガチャガチャ言われたって、怖くて食べれないよ。
本当!ガチャガチャするなぁ。
うるさいな。
空の方を向いて、目をつぶっていたんだけども、あまりにもなんか本当にはっきり音がするな、変だな?と思い、顔の向きを正面に戻して目を開いた。
すると、驚いた顔で普通に人が取り囲んでいた。
なんなら、荷物を載せた動物も私を見ていた。
え、何?
めっちゃ人が取り囲んでんですけど!
めっちゃいっぱい、いるんですけど!
どういうこと?ここ、砂漠だよね?
何?ここ、町中?
カコドの中なの?どういうこと?
私、土偶魔王のところの、砂漠の大岩の前に来たつもりだったのに。
え?何?
「あ、ホントにいた。
イトー。」
人がよけて、コネンさんが現れた。
「コネンさん!おはようございます。」
「え?おはよう。おはよう、って時間じゃないけど、おはよう。」
そんで、どういうこと?
「何してるんですか?どうなってるんですか?ここ、砂漠ですか?」
詰め寄っちゃいますよ。
「落ち着け。何に驚いたって?」
どうどう、とされる私。
「いや、だって……。」
砂漠だと思って瞬間移動したら、人がいっぱいだから。
……なんて、言えるかーー!
いくら、屋敷にはそうやって移動してた、とはいえ。
戸惑いが伝わらないのか、何を今更、と思われてるのか知らないが、コネンさんは私の様子を見て、喋り出さないのを確認してから話す。
「ここに次手の恩があると聞いたから。」
と言った。
なるほど。
ようやく、喋ったのか。
いや私が喋っただけで、あいつは喋ってないのかな?
なんて言ったんだろう?
まあいいか。
とりあえず話は通じているらしい。
こんな大掛かりな話じゃなくて、ちょちょっと顔を見せる、白服本人だけのつもりだったけども。
主さんが心配したのかな?
まあ私が知ったことじゃぁないですけどね。
しかし、そう言ってたら会話終了なのだ。
自分でも、興味があるんだかないんだかわからないが、訊いてみた。
「こんな大人数で、どこか行くんですか?」
「え?いや、だから。次手の恩についての場所だから。」
「え?じゃあ、どっかの別の街に行く途中に寄るとかじゃなく、ここにくるのにこんな大勢で?」
改めて聞くとびっくり。
移動する人間は、多ければ多いほど、荷物が大変になるじゃん。
行って帰ってくるだけなのに?大変じゃない?
しかしコネンさんは、行列というのは、意外と大事なのだ、と言った。
恩があるというのに何も持たないで来たら、恩知らずになる。
正式な訪問よりも軽く見られる、ということみたいだ。
いちいち、そんな盛らなきゃいけないんだ?
歴史書の、何万人の行列とかそういうのって、ただ単に権威付けに、盛りに盛ってに書くものなのだと思ってた。
どれが真実なんだかを知らないけども。
その時代時代で、見栄の数値って違うだろうから。
でも、砂漠でどうせ誰も見ないのに、街の外で解散してもいいんじゃないの?
街の外だったら、休むところないからダメなのか。
結局、来るはめになるのか。




