寒い
気味子さんはどうしたいのかと思ったら、そのうち汚髪を私の右腕に巻きつけて、グイッと引っ張った。
ぎゃ!何するの!?
と思ったら イカさん先生が、落ちるより早く、足で汚髪を掴んでストップさせてくれた。
よかった。
ありがとうございます。
毅海子さんは、こーゆーとこ、怖いんだよな。
でも私が、他の存在に傷つけられるのは怒ってくれるんだよな。
忌深子さん危ないからやめてください。
っていうか、先に説明してくんないと!
魔力で一生懸命話しかける。
イカさん先生もお怒りぎみで説教している。
あんまりいっぱい喋ると、多分奇視子さんに聞くようなキャパがないと思うけど。
ていうか人間でさえ、人の話を聞かないようにできてるやつがいるよ。
危身子さんじゃあ、かなり望みをしてだね。
知能は問題ないはずなのにね。
でも、言わないわけにいかないからね。
会話の度に、命を落としてるわけにはいかないのだ。
命は1つだから。
危ないんだから!
どうしたいんだか言って!
と、鬼見子さんに、先生と二人がかりで言っていたら、そのうち汚髪に魔力を込め始めた。
何すんの?
そう思ったら外にいた。
はだしでビチョっと。
足が濡れた。
え?何?
どうなってんの、これ。
私は外で足元が水に浸かっていた。
どういう状況?
呆けて見回したら、私の胴体には白いイカさん先生の足が巻き付いている。
頭の中で、どうなってるの?と考えていたせいか、自分に起こったことが、客観的な視点で浮かんでくる。
奇水子さんは、汚髪で引っ張って私を引きずり出して、どっかに連れ出そうとしていた。
それを止められてしまったので、魔力で瞬間移動的なやつ、あれをやったみたい。
イカさん先生は魔力を込めている段階で気づいて、すぐに、ほぼ一緒に後を追ってくれた。
しかし一歩間に合わなかった。
私は水にビチャッと足がついた状態で、イカちゃん 先生がキャッチしてくれたというわけだ。
ちなみに私の腕にはすでに、忌視子さんの汚髪は巻き付いていなかった。
引きずり出した張本人がすでに、離している。
ちょっと鬼深子さん。
どうなってんだかわかるにはわかったけど、呆然とイカさん先生の白い足をたどって見てると、目が合った。
ごめん。
間に合わなかった、という風だった。
いえいえ、ありがとうございます。
足だけ深についててもかなり寒くなってきた。
体が震えたのがわかったのか、とりあえずイカさん 先生が、私をすぐそばの陸地にあげてくれた。
川の浅瀬みたいなところに私は立っていた。
完全に緑の中だ。
これは……どこだ?
でも、うちの島っぽいな。
なんで幾微子さんが外に連れ出すんだろう?
どうもこの川は結構大きい。
海に大きく流れ出している。
かなりギリギリまで木が生えていて、私が立っている浅瀬は狭い。
海に流れ出してる川、どころかイカさん先生も毅海子さんも、川の中にいる。
え?
私が立ってたのは浅瀬だったけれども、これ相当深くない?
川なの?
大河?
鬼視子さんは、見せつけるように川の中を通過する。
ツーカツーカ通って、行ったり来たり。
汚髪をウネウネ持ち上げ、アピールする。
え?
何ですか?
これ何のアピールですか?
そうしばらく見ているうちに、忌深子さんがやったことがわかった。
ここ数日、貝パールで遊んでいたが、突如として思いたった。
魔王としての執念と言うか、力を尽くし、何としても島を2つに割ってしまった。
……これ川じゃない。
海である。
ちょっと何してんの?!
あんた、私が1人で橋なんか作れると思うの?、
島をどうしてくれんの!?
散歩どころかボッチマーケットにも行けなくなったら、どーしてくれるの!
私の怒りもどこ吹く風。
毅海子さんは悠々嫌いな島を、というかよく知らない陸を分断した川風の海を満喫している。
私の頭の中には、ボッチマーケットを気にしたせいか、島の現在地とボッチマーケットのマーカーみたいのがついた地図が浮かんだ。
多分、カーサフクダもボッチマーケットも、私が立っている島側にある。
島を分けたと言っても、真っ二つに分けたとかではなく、どうもカーサフクダ側の方が、割合としては2が3ぐらい。
7:3の3の方だった。
だいたいね。
凹凸とかもあるから、表面積でははっきりそうは言えないだろうけどね。
平面面積ではそんな感じに見える。
この地図が正確かはわかんないけれど。
すぐ近くで、イカさん先生が感心してるのがわかった。
海の中でだいたいの位置を把握するために思い浮かぶのと、なんとなく違うそうだ。
へー。
陸はそういう風に考えるんだね。
考え、って言うのか?
うん。
その、なんだ、私、この島の地図、知らないけど。
大体の島の形が頭の中に思い浮かんだが、すぐに消えてしまって自分でもはっきりと知らない。
魔力で記憶を保存する方法、まだ出来ない。
それとも私の魔力だけではない、もっと大きな存在の魔力で出来上がったものだから、干渉できないのかよくわからないが。
もう頭に魔力で浮かんでこない。
島は割とへんてこの形をしていた。
突き出した形になっていた場所が、カーサフクダの端っこのようだ。
うん。
端っこなのはわかってた。
わかってたことしかわからなかった。
しかも一瞬だったし。
そして死ぬほど寒い。
足が濡れたままはだしで、風に吹かれ、外に寝間着でいる。
今は、冬。
この島は完全にこっちの世界なのに、向こうの世界のマナと織り混ぜたせいか、結構冬っぽくなった。
夜はもともと寒かったけど。
はじめ、暑いうちに木々の葉が色がある日突然変わり、枯れたのかと思った。
紅葉だったのかも。
赤茶になったり黄色っぽくなったりの葉ばっかりで、紅葉とはわからなかった。
日本でも微妙な時あったけど。
紅葉はわかりやすく、真っ赤に艶々に染まってほしい。
つまり早い話が、死ぬほど寒い。
とにかく風呂入りたい。




