衝撃
その朝、私は衝撃を受けた。
奇水子さんは、毎朝いじめのような現れ方をしなくなった。
ただ単に貝王様の魔法が聞いているだけなのかもしれない。 その実は私には分からない。
しかし、煩わされることはなくなっていたのだ。
ただし今日は別だ。
いや、久々だ。
昨日、ご飯の後も魔王の元に戻らなかったから、もしかしたら恨まれてるかもな、とか起きてすぐに思った。
その時点でちょっと嫌な日だな、と思ったんだ。
しかし、窓自体は明るい。
貝王様の魔法で。
窓を開けてみた途端に、忌深子さんがスタンバっていた。
真っ暗。
怖っ。
「危海子さんどうしたの?」
最近は貝パール(もどきだけど。いや、本物かもしれないけど)に気を取られていたせいか、あんまり私に近寄らなくなっていた。
サチ子比で、ね。
おおむね周辺にいた。
……それ、変わらないか。
まぁとにかく、それで貝王様に相談したりしながら、土偶魔王と屋敷の方を行ったりしていたせいで、あんまり気味子さんが意識に登らなくなっていた。
ごめんよ、放置しっぱなで。
ごめんでも君もね?女子会とかしたいわけじゃないでしょ?
いや、あなたは私にべったりか。
そういえばそうだったね。
私も、よく忘れていられたもんだな。
犯罪者になりかけのこととかも。
私はよく物を忘れるね。
人の顔も名前も覚えてないけどね。
本当にね。
まあ、それはともかくとして。
用件くらいは、と思ったんだが、奇視子さんのにゅるにゅる汚髪が近づいてきた。
でも前ほど、汚髪じゃない。
いや、なんて言うか、よくよく見たら色々引っ付いてるのは変わらないんだけども。
別によくよく見たくないから、普段も見なかったが。
前より黒っぽくない気がするし、どんどんストレートに近くなっていってるんだよな。
そして、あれ?と思った。
でも目をこらしてみてもわからない。
気味子さん。
暗い。暗い。
ちょっと離れて。
魔力で、一生懸命話しかけてみるが、忌身子さんはガン無視である。
……あんたね、ちょっと、こうさ。
そうこうしていたら、また、すごい速さで奇視子さんが消えた。
この魔力は、多分。
ヤッホー。
と現れる、イカさん先生。
うん。
そうだと思った。
ありがとうございます、助かりました。
おはようございます。
例によって、ぐしゃってイカさん先生の足に潰されている危深子さん。
窓から落ちないように身を乗り出して確認してみる。
波に顔をつける彼女は楽しいらしい。
それはそれで、そんなに不快じゃないらしいんだ。
あんた、そんな扱いでいいんだ。
見てるほうは、何度見ても不思議だよ。
この人の、なんか天上天下唯我独尊っプリのプライドが、一体どこにどうあるんだかよくわからない。
人じゃないけど。
魔王だけど。
ちょっとイカさん先生と雑談する。
いろんな画像をイカさん族や、他の海の仲間と見て楽しい、とか。
花火にみんな興味津々とか。
海の火を出せる生き物に、花火もどきを見せてもらいたいね、とか。
今度みんなに頼みに行こう、無料じゃあ困るだろうから、なんか餌を探そうと情報収集をしたり。
みんな楽しいらしい。
よかったよかった。
島がお邪魔しておりますからね。
カーサフクダも邪魔してましたけどもね。
イカさん先生とちょっと話して、今日はどうするの?また陸に行くの?と言われ、土偶魔王に昨日、申し訳なかった話をさらっとする。
なので、今日これからぼっちマーケットに行ってご飯を持って、魔王のところに行く。
朝ごはん食べて、お話とかなんとかして、昼ご飯を食べるかどうかは分からないけれど。
みたいな話をしたんだ。
そうしたらそれまで、足で押さえつけられて(イカさん先生の足ね)波間でジャバジャバしていた奇見子さんは、何やらムッチムッチ暴れ出した。
ウネウネ汚髪を、いや割とストレート汚髪を暴れさせている。
明らかな抵抗の意志を感じて、はて?となった。
私もイカさん先生も。
初めてのことだからね。
イカさん先生と話して、結局、忌深子さんを離してみた。
なんだろ?
すると忌視子さんの髪?触手が近寄ってくる。
あー、そういえば、さっきこんな感じだったんだっけ?
でも暗くてよく見えないんだよ。
気味子さん、べったり壁にくっつくからさ。
いや、本当は隙間が空いているんだろうけど。
ほぼ太陽光が遮られるので、どの道見えない。
あんな至近距離で、見たくもないが。
イカさん先生が、叩き落とそうかちょっと迷ってる風だったが、触手1、2本しか私に近寄ってこない。
何だろう、本当に。
窓を開けて明るい場所で、至近距離で汚髪が見えたので、ちょっと衝撃を受けた。
ちょっとっていうか、かなり衝撃を受けた。
黒っぽくて汚い、とだけ思っていた毅海子さんの髪は、何と言うか別の色だった。
自分でも、何て表現したらいいんだかわからない。
例えばピンクの缶に、間違って黒い塗料のスプレーをかけたみたいな。
なんか100均で買ってきたシューってやる、缶のスプレーの塗料みたいなの吹きかけた時、こんな風になる。
下の色がまだ見えている状態だ。
何これ、どうなってんの?
髪の奥から別の色が生えてんの?
一本の髪で、髪の奥って何だ?
ってか、髪か?




