言い訳
ん?あれ?
さっきの白服の言い方だと?
私を助けてくれたついでに、ちょっとサボりのあの人は、奴隷になったのか。
へー。
お疲れ様です。
仕事自体はどういうものかわかんないけど、何つーか奴隷はあんまり過酷じゃなさそう。
主さんには、私が想像している奴隷がどんななのか、わかったんだな。
そういえば、この人もなんとなく容姿が違うような?
いや、そこそこ日にやけてるせいか、やっぱりみんな同じにみえる。
先生は、本人の柔和さがあって、そういう印象だったんだろう。
他人事のような気分で見ていると、白服に
「お前は今、危ないところなんだからな。」
と、くぎを刺された。
「しかも奴隷に落ちるのは、そもそもこの街の人間だ。
お前はただの不審者だ。」
ひでえ。
不審者まで言うか!
この街に、どうやって移動してんのか、そういえば誰も疑問に言わないのか?
いや。
主さんには言ってるのか。
ちらっと、主さんを見たが、何を考えてるか全然わからない、ニッコニコの笑顔があるだけだった。
なんか猫かぶられてんのか、誰にでもこうなのかもわからん。
っていうかさ。
今まで庭からピカーっと現れたりなんだりして、ここの従業員さんは散々それを見てんのに。散々ってほどでもないか。
でも、どっから来た?って顔はされなかったよな。
スマ子だってみんなでさわったりしてたのに?
ここの休憩室で話した事って、そんなに問題?
外で話されるなら、とっくにそうでしょ?
「前にお話ししましたが、星は誰にでも与えられるもの。貴賤はありません。
数がもともと少ないせいか、魔力持ちに関するルールもこの街には基本的にありません。
ですから、そのどちらかの大きな力があると疑わしきを見ても、報告する義務も、はっきりと決められた報告先もないのです。」
はいはい。
それが放置してもらえた理由?
「しかし、街の治安と安定に関する取り決めは多い。
商人と偽ることもその一つです。商売の場を荒らされるのは、この街でもっとも忌み嫌われることです。」
ほー。
紛い物やパチもんを売りさばかれても困るし、一人が激安を続けたら他の商人は儲からなくなるんだもんね。
「でも私が商人と言ったわけじゃないですよ?単にお屋敷の人が私をなんだと思ってるのか知らなかったので、『商人というほどじゃない』と言っただけで。」
「いや、そうしたら許可もなく、少しは売り歩いてることになりますよ?」
コネンさんの心配げな顔。
しかし。
「ですから、そういうのを今初めて知るくらいなんですから、商人未満です。『こんなの持っててもしょうがないなあ。売れないかな~?』という段階です。勉強中で商人になれてすらいないので、『商人というほどでもない』未満です。」
なんか商人と偽るどころか、ドンドン商人の下の下にきたな。
ちゃんと言えた、と思ったが、白服がボソッと突っ込む。
「商人どころか、それは常識だ。」
「いいや、カコドの常識は異世界の非常識なんだ。」
というほどじゃないが。
頑張って話を大きくして、言い張っておく。
だって手帳を誰にでも見せない。
暗号で手帳には書くから大丈夫、という人も手帳を使う人の中にはいるらしいが、頭の中に保管しておけないから物理的に書くのに、解読が必要とか絶対に私は無理。
むしろ手帳とかアドレス帳とかついてたりも、まだあるじゃん。
念のため、他人のプライベートだからアドレス帳じゃなく、自分のパスワード帳欄にしてるけど。
むしろ人に見せるほうが顰蹙買わない?
不思議で仕方ない。
どっちにしても見せないけど。
休憩時間に会社で手帳開いてると覗き込んでくる人、私は信じられない。絶対信用できない。
「そもそも、ホントに売り歩いたこともないですし。商人うんぬんは、プラム君が『商人は』と言ったんですよ?私からは言ってません。むしろ売るのも出来ないから、こちらに来たくらいで。」
自分で言ったんじゃないし、怪しい商売もしていない。
「イトー、さっきの話してた子ならプラムじゃなくてトラムです。」
と、コネンさん。
あら~。
いや、大丈夫。
ちょっと間違ったけど、覚えている部類。
「一応、安全上あまり街に出ようと思わないので、商人になりたいとも思ってないです。」
こっちの世界にフリマサイトなさそうだから、困るけど。
ま、元の世界でも買う専門で、とんと売る側になったことがない。
「というより最近連日お邪魔してたのは、こいつが魔王のところに行かないからで。」
こいつです。
白服を指差す。
白服は私の側から顔を背けたが、そうすると単純に主さんに向くので、必死に後ろに頭をねじっている。
何してんだ。お前。
「……あの、魔王に差し出すとはどういう?」
主さんが、蚊禍の時と同じくらいの顔をした。
前に説明をうっすらした時と、反応が違う。
あの時は、笑顔で却下だった。
白服の事情だから、勝手に話せないとぼんやり話したのだ。
何でも報告してると思ったのに、こいつ言ってないな。
そしてこの人たちも、白服が話したくないことを察して黙ってたんだろう。
白服には甘いようだ。
「ズバリお姉さんを忘れてたでしょう!」
スマ子、それもうやった。
そして、いらない。
叩きわりたい。
どこからかボソリと聞こえた気がしたが、多分壁を向く白服だろう。
白服は陸上で瞬間移動出来たようだが、私は海に間違ってドボンは困るので、やっぱりまだスマ子を壊せない。
でも気持ちはわかる。
わかるが。
「自分で言わないなら、あることないこと言うぞ。」
だって私は実際知らないんだから。
主さんもコネンさんも、じっと白服を待っている。
私は無駄な足掻きだろうが、サイレントを確認してスマ子をリュックの底に入れる。
しばらく経って、ようやく前を向いた白服は、口をとんがらせていた。




