表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/235

言い訳

 

 ん?あれ?

 さっきの白服の言い方だと?

 私を助けてくれたついでに、ちょっとサボりのあの人は、奴隷になったのか。

 へー。

 お疲れ様です。


 仕事自体はどういうものかわかんないけど、何つーか奴隷はあんまり過酷じゃなさそう。



 主さんには、私が想像している奴隷がどんななのか、わかったんだな。

 そういえば、この人もなんとなく容姿が違うような?

 いや、そこそこ日にやけてるせいか、やっぱりみんな同じにみえる。

 先生は、本人の柔和さがあって、そういう印象だったんだろう。


 他人事のような気分で見ていると、白服に

「お前は今、危ないところなんだからな。」

 と、くぎを刺された。


「しかも奴隷に落ちるのは、そもそもこの街の人間だ。

 お前はただの不審者だ。」


 ひでえ。

 不審者まで言うか!


 この街に、どうやって移動してんのか、そういえば誰も疑問に言わないのか?

 いや。

 主さんには言ってるのか。



 ちらっと、主さんを見たが、何を考えてるか全然わからない、ニッコニコの笑顔があるだけだった。

  なんか猫かぶられてんのか、誰にでもこうなのかもわからん。



 っていうかさ。

 今まで庭からピカーっと現れたりなんだりして、ここの従業員さんは散々それを見てんのに。散々ってほどでもないか。

 でも、どっから来た?って顔はされなかったよな。

 スマ子だってみんなでさわったりしてたのに?

 ここの休憩室で話した事って、そんなに問題?

 外で話されるなら、とっくにそうでしょ?



「前にお話ししましたが、星は誰にでも与えられるもの。貴賤はありません。

 数がもともと少ないせいか、魔力持ちに関するルールもこの街には基本的にありません。

 ですから、そのどちらかの大きな力があると疑わしきを見ても、報告する義務も、はっきりと決められた報告先もないのです。」


 はいはい。

 それが放置してもらえた理由?


「しかし、街の治安と安定に関する取り決めは多い。

 商人と偽ることもその一つです。商売の場を荒らされるのは、この街でもっとも忌み嫌われることです。」


 ほー。

 紛い物やパチもんを売りさばかれても困るし、一人が激安を続けたら他の商人は儲からなくなるんだもんね。


「でも私が商人と言ったわけじゃないですよ?単にお屋敷の人が私をなんだと思ってるのか知らなかったので、『商人というほどじゃない』と言っただけで。」


「いや、そうしたら許可もなく、少しは売り歩いてることになりますよ?」


 コネンさんの心配げな顔。

 しかし。


「ですから、そういうのを今初めて知るくらいなんですから、商人未満です。『こんなの持っててもしょうがないなあ。売れないかな~?』という段階です。勉強中で商人になれてすらいないので、『商人というほどでもない』未満です。」


 なんか商人と偽るどころか、ドンドン商人の下の下にきたな。

 ちゃんと言えた、と思ったが、白服がボソッと突っ込む。


「商人どころか、それは常識だ。」


「いいや、カコドの常識は異世界の非常識なんだ。」


 というほどじゃないが。

 頑張って話を大きくして、言い張っておく。


 だって手帳を誰にでも見せない。

 暗号で手帳には書くから大丈夫、という人も手帳を使う人の中にはいるらしいが、頭の中に保管しておけないから物理的に書くのに、解読が必要とか絶対に私は無理。

 むしろ手帳とかアドレス帳とかついてたりも、まだあるじゃん。

 念のため、他人のプライベートだからアドレス帳じゃなく、自分のパスワード帳欄にしてるけど。

 むしろ人に見せるほうが顰蹙買わない?

 不思議で仕方ない。

 どっちにしても見せないけど。

 休憩時間に会社で手帳開いてると覗き込んでくる人、私は信じられない。絶対信用できない。



「そもそも、ホントに売り歩いたこともないですし。商人うんぬんは、プラム君が『商人は』と言ったんですよ?私からは言ってません。むしろ売るのも出来ないから、こちらに来たくらいで。」


 自分で言ったんじゃないし、怪しい商売もしていない。


「イトー、さっきの話してた子ならプラムじゃなくてトラムです。」

 と、コネンさん。


 あら~。

 いや、大丈夫。

 ちょっと間違ったけど、覚えている部類。


「一応、安全上あまり街に出ようと思わないので、商人になりたいとも思ってないです。」


 こっちの世界にフリマサイトなさそうだから、困るけど。

 ま、元の世界でも買う専門で、とんと売る側になったことがない。



「というより最近連日お邪魔してたのは、こいつが魔王のところに行かないからで。」


 こいつです。

 白服を指差す。

 白服は私の側から顔を背けたが、そうすると単純に主さんに向くので、必死に後ろに頭をねじっている。

 何してんだ。お前。


「……あの、魔王に差し出すとはどういう?」


 主さんが、蚊禍の時と同じくらいの顔をした。

 前に説明をうっすらした時と、反応が違う。

 あの時は、笑顔で却下だった。

 白服の事情だから、勝手に話せないとぼんやり話したのだ。

 何でも報告してると思ったのに、こいつ言ってないな。

 そしてこの人たちも、白服が話したくないことを察して黙ってたんだろう。

 白服には甘いようだ。



「ズバリお姉さんを忘れてたでしょう!」


 スマ子、それもうやった。

 そして、いらない。


 叩きわりたい。

 どこからかボソリと聞こえた気がしたが、多分壁を向く白服だろう。

 白服は陸上で瞬間移動出来たようだが、私は海に間違ってドボンは困るので、やっぱりまだスマ子を壊せない。

 でも気持ちはわかる。


 わかるが。


「自分で言わないなら、あることないこと言うぞ。」


 だって私は実際知らないんだから。


 主さんもコネンさんも、じっと白服を待っている。

 私は無駄な足掻きだろうが、サイレントを確認してスマ子をリュックの底に入れる。


 しばらく経って、ようやく前を向いた白服は、口をとんがらせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ