お手伝い
そんなに魔王のところに、日参する必要があるのかわからないけれども。
ギャンギャン泣かれると、私もどうしていいかわからない。
しかし白服も、来れないのは多分あの忙しさのせいも若干はあると思う。
屋敷のことをイカさん先生や貝王様に報告するのも、どうかと思う。屋敷とか使用人とか、どう説明すればいいやら。
でも、もうすっかり忘れていたが、一応向こうの人間に見られたかもしれない、ということは伝えた。
もともと街中で見られたから一回襲撃されたんだけどね。
この海域周辺にも船が現れたりして、こちらの様子を伺っているらしい、とは言う貝王様。
一応、基本入ってこないし、船をよけて通らせるように壁を貼ってあるので、ちゃんとそれに従って動いている、と言っていた。
大丈夫でしょう、と。
ちなみに、土偶魔王の話を軽くはしてあったけど、詳しく話したら、そんなに人間寄りなの?と不思議そう。
私もさ、この世界よく知らないけど。
多分あれはかなり特殊系だと思う。
貝王様と奇視子さんも特殊系だけど。
あそこまで人間に愛着持っちゃう魔王は、滅多にないと思うよ、多分。
魔王がそんなに人間寄りでいいのか、どうか?ということについては、別にしたいんだったらそれでいいんじゃないか?くらいだった。
特別に、魔王だからという連帯感があるわけじゃないみたい。
ただ単に、そう呼ばれる存在であるっていうだけって、貝王様は前にも言ってたもんね。
まあ、いろいろなのがいるか。
そうだよね。
私が勝手に騒いでいると言えなくもないけど。
とりあえず、特に問題はないから気にしなくていいよ、という感じだったので、まあ一人で考え込むことにする。
どうしようかな~。
なるべく、向こうからお弁当っぽく見えないように日本式の弁当みたいな?
何言ってるんだ?
でも、弁当に見えないほうがいい。
向こうに馴染みがなさそうな弁当を用意して、屋敷に行った。
「たのもう!」
もちろん白服を探して言った。小声で。
「今度は何だ?」
ちゃんと挨拶するような仲でもなかったがね。
なんだ?その面倒くさそうな第一声。
どいうことやねん。
せめて、こっち向いて話しなさい。
全然、相手にされないので、頑張って話す。
「なんかね、多分お前の心配をしてるんだと思うんだ。
通りすがりに私と話してはいるが、すっごく友達ってほどじゃないと思うんだ。」
白服は、過去のこともあるし気にはなるんだが、
「屋敷がこれだから行けない」
と。
それはそうだ。
そもそも、魔王の話し相手のために、毎日仕事を放り出していられるわけないしね。
「なんか話つけといてよ~」に対し、
「無理」
の一言。
行く気ないじゃん。
「そもそも魔王なんて、人間とそんなに関わるものなのか?」
わざわざ、振り返って言われてもね。
今まで、にべもなく作業続けてたのに。
私に聞かれてもわかんないよ。
私がそう思ってんだから。
どうしたもんかなと~思って、
「ね、なんか簡単なのだったら手伝うよ。重要機密じゃないやつね。簡単なのね。辛くないやつね。」
と言った。
が、とってもめんどくさそうだった。
「……お前、そもそも水汲みからして出来るのか?」
と疑わしげに言われて、出来そうにない、と思った。
しかし井戸から水汲むのを見てみたくて、ついていく。
……水を汲み上げるのは白服がやった。
運ぼうと思ったが、バケツは微動だにしなかった。
え?重いよ、これ。
鉄でも入ってんじゃない?
水だけじゃないんじゃないの?
まさか、と空のバケツの方を1つ持ってみたら、私が知ってるプラスチックのバケツと重さが違った。
うん、これは無理ですね。
白服にため息を吐かれた。
だってしょうがないじゃん。
バケツ自体はバケツ型してるけど、私が知ってるバケツと違うんだもん。
なんか別の、簡単なのないかな~と思ったら、気がついたら水汲みから戻る屋敷の裏口の前に、コネンさんがいた。
笑顔で立っている。
何故?と思ったが、黙る。
そのあとコネンさんについて歩いて、色々やるが、全くうまくいかなかった。
不思議じゃねー?
ホウキで掃くのだって、うまく動かないなんて。
これ、滑り止めでもついてんじゃないの?
どういう使い方?
え?向き?
ホウキの向きって何?
ホウキ自体が重い?
多分そのせいもあると思うが、私はうまく動かせない。
考えてみたらホウキで掃く、なんて作業をするのは、小学校の掃除係以来だ。
だって大体、掃除機か、クイックルワイパーだもん。
だいたい午前中、それで役に立たなかった。
他にも色々やったんだけど。
むむむ。
まさか、こんなにとは。
「まさかこれ程とは……」
コネンさんの、感心しきったような声が聞こえる。
私のことじゃないよね?
わざわざ弁当を持ってきたが、一旦、家に帰る。
昼だから。
ご飯たかってると思われるから。
昨日、串焼き肉一人リベンジでボッチマーケット行ったが、この調子だと、心の健康のためにまた行くかもしれぬ。
どうしたもんか。
なんか、あの土偶魔王のギャン泣きから解放される方法。
屋敷の忙しさ。
……私には無理だ。
屋敷の仕組み?とかわからんし。
運営とか携わったことないし。
よし。
辛くない範囲で、地道に手伝うか。
安全そうだから、ちょっとワクワク。
しかし、これ以上邪魔するわけにも。
私でも役にたつ方法。何だろ?
弁当の卵焼きを食べながら、散らかった部屋を見回して、それが目に入る。
あ、よし!これだ!
「たのもう」
「いや、もういい。」
そんなゲンナリしないで。
「このロゴマークが目に入らぬか!」
私が目の前に突きつけた物に、ちょっと驚いた顔の白服。
「何だ、これ。」
「毛玉取り器だ!」
「けだ……何?」
「毛玉取り器!聞いて驚け、4999円もしたんたぞ。フル充電済み。六枚刃の代物でな、つい深夜番組でやってたから、ポチっとしてしまったわけ。わりと放置してたけどまだ出番あったな!これで化繊混じりの衣料品も復活だな。天然繊維満タンの服は高いから……」
言いながら、白服の、ポカーンまではいかないが何話してんだかわからん、という顔を見て、徐々に気づく。
「……あのう、こちらに毛玉でお困りの方は?」
「ケダマは何?」
「……。」
カコドには、ケダマを問題視する人がいなさそうだった。




