重い
思ったよりスムーズに動いた。
列は。
事前に主さんに言われた通り、先頭の人は皿を持って、奥まで進んで順に座っていく。
皿の中身は、様々なバリエーションがあるようだ。
果物っポイのが2個の人、3個の人。
量も、まちまち。
だが、盛り付けでもたついて、流れが滞る様子はない。
凄いじゃん!
大量解雇と聞いたが、なかなかそれでも人が残ってると思ったら、精鋭ぞろいなんだね。
楽しみになってきたなぁ〜。
ご飯ご馳走になってばかりだから、今日こそは、と思ったのに。
結局、ご馳走になっちゃうな〜。
あれ?
そういえば、今日は何しに来たんだっけ?
まいっか。
みんなメニューバラバラなのは気になるんだけど。
私に肉、くるかな〜?
一本ずつはムリだから、串からはずして一口分ずつ、でもいいから食べたいな。
今日のご飯が美味しかったら、ぼっちマーケットから焼き鳥持ってきてお礼にしようかな?
女性陣は、口出しも出来なくなったので、固い表情のままの人が多い。
もうすでに座っててもだ。
何故?
料理によって量は差があるが、かなり少ない量の料理のところにも一応、一旦は皿の列が止まっている。
むしろ、あれを全員分にわけられるんだったら、給食のおばちゃんのボスになれる程じゃない?
給食のおばちゃんに会ったことないけど。
ウチの学校は給食係しかいなかったけど。
給食届けている給食センターの人も、遠くから見かけたことしかないけど。
楽しみに進んで、自分の番がきたが、理由がわかった。
まず、最初の料理3皿はとりあえず前に行ったら一礼されて無言で、手で次の料理の方へ促された。
何だ?この「金はありません、次の取り立てに向かって下さい」みたいな無の境地の顔。
料理は空だ。
むしろこれでよく、料理もらう側は止まったな、と思った。
後ろに申し訳ないが、止まって、先をよく見たらスルーしようとすると、手で制されてた。
空なのに止まったってね。
給食係は、ちゃんと料理を全員にわけていた、と偽装したいらしい。
遠目からはいける。
魔力使わなければ。
魔力持ちでも私は騙された。
ナンテコッタ。
ようやく最初に貰えた料理は赤かった。
辛そう。
匂いがしないが、きっとカコドでも辛い料理は赤いと思う。
決めつけではない。
酒入ってる時はあんまり覚えてないけど、他の時いただいた料理に赤いのは少なかった。
5皿目に止まったら、トングが動く。
え?
料理、空だよ?と思ったら、ホントにトングが動くだけで、まさかのエアー料理を皿に置かれた。
……何これ。
貪欲、暴食の人間には見えない、匂わない、味も感触もない料理?
まさか、まさかの仕草だけ。
どんな儀式?
やってる側も、私の前はコネンさんに白服。
私の後ろは主さん。
もちろん主さんはじーっと見てる。
故に大変に緊張した様子だ。
警察の前でサギやってる人みたい。
これがテレビの画面だったら、この人きっと毒盛ってこれから飲ませるんだな、と思うだろう。
その次は、あの果物か野菜みたいなのだった。
パプリカみたいな形だが、重さはリンゴだった。
ゴン、ゴンときて皿が傾き、危うく落とすところだった。
焦った。
後ろのエアー料理を主さんにやるところを見たかったのに。
皿を水平になおして見ると、(仮)リンゴの係の人は不思議そうな顔。
その向こうのエアー料理の人はうなだれてんのか頭下げてんのか、真剣な顔で「負けました」の姿勢だった。
主さんは厳しい表情で黙って見下ろしている。
何だこの光景。
全てに回って座る頃には、何か疲れた。
給食スタイルとか余計なこと言わなきゃ良かった。
みんなに恨まれているかもしれない。
唯一良かったのは、コネンさんが串焼きの人に、背後に肉串を隠しもっていたのを出させたので、私にも一本貰えたことだ。
主さんまで座り、主さんは残りを給食係でわけて食べるように言った。
給食係は驚いている。
まあ、先に食べてたけど、足りないよね。
そして、全部わけきるのに必死だったよね。
串焼きの人は隠し持ってたけどね。
それも全部出しちゃったもんね。
まあ先に食べて、あげくに自分の分だけ隠しておくって、ちょっとどうかと思うけどね。
ていうか、よく『料理は女の世界』とかって言ったりするけど、職業の料理の世界だとシェフは男しかなれない、って聞いたことあるんだけど。
違うんだろうか? カコドは別なの?
台所は女性の聖域なの?
もしかしてこれで、主さんは怒られちゃうの?
女性使用人に反逆されちゃうの?
「さあ、いただこう」
と、主さんが声をかけて、それから全然楽しくない時間になる。
みんな、めちゃめちゃ静かで重い(空気の)食事になった。
シーン。
コロナ禍経験してなかったら、寺に黙食精進料理の体験に行ったみたいだ。
私はもともと食べるのが遅いが、とても長く感じた。
冷めてしまったし、食べきるのが辛かった。
辛いし。
(仮)リンゴは持ち帰る。
ムリ。
食べ方知らないけど。
毒、あったらどうしよう?
もうコレ、お残しは許しまへんで!の空気の中で(今)訊きづらい。
あ、土偶魔王のお供えにしよう。
あ(二回目)、土偶魔王の話し相手連れてくために来たんだ。
どうする?
明日、仕切り直す?
「皆、食べ終わっただろうか。
手間が少ないようだから、明日もこうしよう。
買い出しに行く者は、今日のやり方を覚えておくように。」
笑顔で立った主さんが、ドエライ宣言をした。
……明日は、直接土偶魔王の方へ行こうかな?




