待機
ソレ取りにきました〜、と空気のよめなさを発揮して、スマ子を指差し取り戻す。
別にちょっとくらい、いいんだけどね。
ただ白服に倒れられると、具合が悪いのだ。このお屋敷の中の半端な客としては。
多分、魔力珊瑚だけでなく、スマ子も白服から魔力を吸い取ってるから。
でも外部の人間ということが功を奏することもある。
それが今。
外部の人間に、屋敷が円滑に回っていない場面なんて見せられないんだろう。
出会いがサボり幇助疑惑みたいなモンだったしね。
原因の一つは、おそらくうちのスマ子だろうけど。
不満そうな男の子がスマ子を手にして私に持ってくる。
「ありがとうございます」と、受け取ろうとしたのだが、男の子はすぐに離さない。
グッと掴まれたまま、私の手も引っ込められない。
いや、あげないよ?
ちょっとだけの、引っ張り合い。
「また来ますか?」
「ディコン!いい加減にしろ!」
ディコン君というらしい。
コネンさんに叱られている。
分解の子は、ここにはいないらしい。
子供にも大人気、スマ子。
手を離してくれたので、私としてはもういいが。
正直なところ、スマ子のアホが『手を離した方が本当のお母さ〜ん』とか言い出さないか、気が気でなかったのだ。
ちょっとの意地で解決できることが、最初にぐんにゃりしてしまうと、ただの水掛け論扱いになってしまうから。
私の所有物だし、それはちゃんとしておきたかった。
それがスマ子のアホ本体に邪魔されそうだったのだ。
コネンさん、ありがとう。グッジョブ。
外部、去りま〜す。
さっき指名されてた女性に案内されて、また庭に面した明るい方向に向かう。
この屋敷、本当に広いな。
万歩計つけてたら、面白かっただろうな。
さっき空気のよめないアホ発言をしたスマ子は、シリアスを感じとったのか静かになった。
ワンテンポ遅い。
途中で主さんと、さっきコネンさんに言い付けられてた女性と、白服の部屋とかその他にも何度かお世話になった、少し年配の女性に出くわす。
「何があった」
主さんは私の無事を確認したのか何なのか、ちょっとこっちを見てすぐに、一緒にいた女性に聞く。
案内の女性は、指示されただけだ、みたいな曖昧な言い方をした。
まあね、言いづらいだろう。
埒が明かないと判断したのか、主さんは私に向いて、客を放置して悪い、という内容の謝罪をする。
「いえ、全然。大丈夫です。」
絶縁体破壊されなければ。
ってゆーか、これ以上おもてなしされなくても良いのだが?
それを丁寧に素早くうまく言えない。
結局、主さんはわざわざ私の案内の人に、失礼がないようにと念押しして行ってしまった。
……私、もう帰っても良かですよ?
案内された部屋で、お茶を持ってくると言われ待つ。
広いリビングっぽいこの部屋は、見た目は日が入って明るくて、庭の緑が見えてキレイなのだが、すぐに暑くなる。
「どうぞ」と言われたのはこの辺かな〜、という場所に座ったが、座った瞬間からクッションは熱かった。
もともと冬に喉が痛くなったり、乾燥に弱そうな自分なので、誰も見てないこともあり、日影に移動する。
3分経ったかどうか、くらいの早さじゃないだろうか。
日がジリジリ痛くなるまでが早すぎる。
フカフカデカい、クッションイス独占は短かった。
自ら日影の、カーペットの上に。
カーペットもフカフカだけど。
お茶こぼすのこわいから、お茶きたら戻ろう。
でも暑そうだな。
対策を真剣に考えていたが、なかなかお茶はこなかった。
いや、出して欲しいというより帰りたい。
なんか、このお屋敷来ると、サクサク進まないな。
長いな、と思ってから、スマ子をいじったり喋ったりしていたが、そこからさらに二十分経った。
まだまだ明るいが、日が傾きはじめた気がする。
スマ子で時間を見ても、カコドの日の傾きで季節もはかれないが。
季節の違い、そもそもあるのかな?
客の分際で、なんか聞いたら催促したみたいだしな、と思うが、部屋の出入り口から廊下を覗いてても、誰もいない。
少なくともスマ子で時間を見てから三十分以上経って、ようやくディコン君より少し年下くらいの男の子が通りかかった。
今はまだ大丈夫だけど、トイレとか行きたくなっても困るし、必死で状況を説明する。
自分は帰ってもいいから、と。
でもその子は、自分はこの区域の係ではないから、権限がない、と。
指示を仰がなくてはならないから、待っていてください、と言われた。
残念。
困った顔をしていたが、ハキハキと整然に話す賢い子だ。
学校通ってたら、きっと優踏生だろう。
カコドって学校あるのかな?
男の子に声をかけて、安心して室内をウロウロしていたら、すぐにお茶がきた。
ちなみに持ってきたのは女性だけど、さっきの女性じゃなかった。
入口で少しだけ驚いた顔をされて、客はふらふらと歩き回るものじゃないんだな、と慌てて一番はじめのクッションに戻る。
熱かです。
いらないかと思ったけど、やっぱり飲み物ください。
心境的にはアゲハ蝶だ。
ごめんなさい、ポ○ノグ☆○ティ。
出されたお茶はキリッと冷たくて、花の香りのようなものがした。
爽やかでとても美味しい。
好き嫌いして残してた、ジャスミン茶のティーパックがけっこうあったな。
家で今度、飲んでみよう。
目の前で一気に飲んでしまったためか、
「熱いお茶と冷たいお茶、どちらが良いですか?」
と、聞かれた。
え?
そんな飲食店みたいなサービスが?
ありがとうございます。
冷たいお茶を頼んだが、すぐに二杯目を持ってきてくれて、ゆっくりじっくり楽しんで飲み終わった頃、熱いお茶ももらった。
すいませんね。
すぐに熱いのか冷たいのか、決めれなかったからでしょ?
優柔不断なんです。
ありがとうございます。
日が傾き夕日になりかけた頃、お茶をくれた女性はまたやってきて、引き止めて申し訳ない、と謝った。
ん?
帰っていいの?
コネンさんか主さんは、なかなかお怒りかもしれない。




