問題
グレて帰ろうとしたが、スマ子を見つけないと帰れない。
またグレそうだ。
ニッコニッコと笑顔で冗談言ってるくらいだから、自分たちは出なくても、乗せてくれそうな船に渡りをつけてあげますよ?くらいは多分、出来ると思うのだ。主さんは。
でも言わない。
こないだ貝王様に、出禁くらってるから。
その話題には、向こうも触れてこない。
私のためになる部分も多大にあるだろうが、あの島に人間の上陸を許すのはこわい。
後々、何かあって規制した場合、どれくらい守られるか、不安しかない。
後になってから駄目です、とか、効力が薄い気がする。
主さんには利益もないのに申し訳ないが、今後のためを考えると、絶縁も迷うところだ。
ちょっと遠くからのお付き合いさせてもらいたい。
名前も知らないけどな。
さっき名前のこと?で不貞腐れたが、そもそも私も名乗ったことあったっけ?
謎だ。
ま、いいか。
「あの、すいません。スマ子……うるさいのを探しに行ってもいいですか?」
主さんに言う。
スマ子の説明をしようとして、変なことを言ってしまった。
しかし聞き返されなかった。
……コレでも伝わるのか。
かもな。
「どうぞ。ありがとうございます。屋敷の者も喜んでおります。」
そうですか。
魔法具が屋敷内に増えても(一時的だが)動じないし、外に漏れても平気なのですか。
この人の、財力なのか権力なのか胆力なのか、なんかコワイ。
私の知らない世界。
魔力珊瑚は白服の物なので、置いていく。
なんとなく、貝王様と主さんで話しをする気がする。
寝てる白服を挟んで、壁際に置かれた魔力珊瑚の貝王様と、主さん。
リアル白服雪。
カコドに雪は降らないだろうけど。
炭のように黒くも、血のように赤くもないけど。
勝手に色々決められてそうなのは一緒。
部屋の外に出たら、隅の人が案内についてきてくれた。
ありがとうございます、隅の人。
「コネンです。」
え?
あぁ、名前か。
あの、高校生なのに大人と言い張るチビッコ探偵と似てるな。
間違って呼びそう。
「コナンさん。」
「コネンです。」
あら?
「すみません、イトーです。」
「リトー様。」
「いえ、イトーです。」
なんか英語の一番始めの教科書みたいな会話だ。
「様はいらないです。」
「じゃあ、よろしく。イトー。」
いきなり呼び捨てになってしまった。
「はい。」
よろしくするのか。
多分こっちです、と案内されたところには、人っ子一人おらず、また別の場所に移動する。
迷いなく歩いてる割には、また次の場所も誰もいなかったようだ。
「おかしいな」とつぶやかれても、ただの廊下にしか見えないので、普段お屋敷の女性陣がどこで井戸端会議してるのか謎だ。
はっきり休憩室みたいのはないのかな?
疑問だ。
そしてこれは、聞いても大丈夫だろう。
「あるのですが、そうすると誰も見れなくなるので。」
ホワイ?
休憩室に置いといたほうが、みんな見れるんじゃないの?
「休憩の時間は、朝から通う者と昼から来る者とで違うのです。
共有できるのは、働いてる区画の、人が集まる場所ですね。」
それ、働き手の動き止まらない?
大丈夫?
その職場でさらに、休憩あるの?
ちと羨ましい。
私ここで働けそうにないけど。
お女中とかって、家事が重労働の時代の家事手伝いみたいな感じだよね。多分。
家事手伝い、って家電が台頭すると、セレブの名誉職業みたいになるやつだ。
お嬢様が短大卒業して、職業欄にかくやつ。
時代が違うと、同じ言葉でも、正反対だな。
ドラマで見たことがあるだけだが。
『全然』も、前はこの言葉で否定の意味だったけど、今は『ものすごく。それはもう、前のめりに』アリ、みたいな感じだもんな。
それはともかく、いくら大きな屋敷とはいえ、探し回ってるのに見つからないとは。
やっぱり休憩室じゃね?
行ってみることになった。
「何をしている!?」
けっこう、す……改め、コネンさんは厳しい声を出した。
従業員用の食事室の他にある、従業員用の休憩室だ。
そこに決起集会のように、何故か集まっていた。
「食事、休憩の時間じゃないから」という理由で、先に探しにこなかった場所なので、つまり皆さんサボっていた。
サボタージュだ。
これってサボるの語源で合ってる?
何語?
すいません、使ってみたかっただけ。
「コネン様、大事なことなのです!」
様!
隅の人、偉かった!
ヤベ。
「仕事中ではないのか」
決起集会?と思ったのは、けっこうな人数がいたことと、なかなか皆さん真剣な険しい顔をしていたからだ。
でもよく見たら、子供もいる。
前もいたな。
お屋敷の中に、仕事があるのかな?
屋敷のことは私が口をはさむことでもないし、聞いてもいいのか謎。
とりあえずスマ子の回収が出来ればいいのだが。
「私のために争わないで〜」
変な調子をつけて、スマ子の声がする。
部屋の一番奥だ。
マントルピースなのか、棚なのか、壁にくっついている家具の上にたてかけて置いてあった。
コネンさんは、スマ子のアホなセリフには構わず一人に主さんに報告するように言いつけ、あと一人を立たせて、他は全員このまま動かないように指示した。
「すみません」
と、私に振り返り、一人立たされた女性に案内させるから待っていて欲しい、と言った。
「はい、全然構いませんよ」
スマ子のアホの回収がすぐ済むので。
度々遅くなりすみません。




