墓参り
あ、って、アンタ魔王だから来る段階でわかってそうだけど。
魔力会話はあくまで意味が通じるのであって言語ではないから、貝王様などはきちんと誤解がないように、細かく細かく意味を限定している。
しかしこっちのサボテン魔王は、かなりニュアンスで喋るので、ちょっと独特なのだ。
意味を測りかねる、というか。
なんとなーく通じてるけど、ホントに通じてるかは神のみぞ知る、くらいのカンジだ。
ところでここ、一体どうした。
何したの?
全然、別の場所じゃん。
どういう有り様?
多分2日しか経ってないよね?
いや3日?
今、3日目?どういうこと?
「雨季でもきたんですか?」
君たち以外、風しかこないけど?
違うんだ、そうじゃない。
そして、風くるんだ、ここ。
くるよー!くるよくるよ!
風からは逃れられないよ!
そうですか。
そんでだから、どうなったんだ、ここは?
すっごいな。
それはもう完全に私の身長を超えた緑の生い茂り方。
元々ここにあった枯れ草みたいなのは、背丈は高そうに見えたけれども枯れているし、どうなってるのかわからなかった。
いや、どういう植物かもわかんなかった。
全部、枯れ草。
または枯れ木に見えた。
ススキみたいにポヤポヤしてそうでもなかった。
それが、スッゴい。
主さんの屋敷の庭より生い茂ってる。
埒が明かないので、魔王のところを目指す。
それが見えないので、わりと大変なのだ。
私の背より生い茂ってるからね、なにせ。
会話自体は魔力だから、別に姿が見えなくてもできてるんだけれども。
できてるかな?
あんま会話が繋がってない気がするんだけど。まあいいか。
そういうわけでどうしたもんかね、これ。
せっせと歩くのだが、途中、砂漠どころか湿地帯みたいになったりしている。
小川みたいなのが流れてっていうか、うっかり踏んだらそのまま靴がズブズブ沈みそうになったり。
スマ子がナビゲーションをしているのだが、これはさすがに変なところを通ってもスマ子を責められない。
どうなってんだ、一体。
なんとかかんとかサボテン魔王のところについて、一息ついた。
ふー。
疲れた。
前回も、海の魔王によってこちらに来たわけだが、まあそれはこちらの魔王の直接の場所に来たわけでもなかったし、特に気にしないとして。
今回は貝王様から財宝も預かってきて(女の子にあげる物ね)大人しくしようと思ったのだ。しようと思ったんだが、本音が出た。
「でか!」
どうした魔王。
マジでどうした?
この間、テカーっと光っていた緑の体は、何やら少し濁っている。
なんて言うかこうね、特別とんでもない特級品じゃないヒスイ、みたいな感じ?
綺麗なんだけれども、ちょっとモヤっとしているというかていうか。
でも重要なのは色じゃない、体だ。
体型だ。
何とかサボテン型を保ってはいるものの、何というか球体を無理やりくっつけました、みたいな、ハムみたいな体型になっている。
どうした、本当。
「どうしました?
太りました?」
またも本音が出てしまった。
何が起きたの、お前。
っていうか、この場所に何があったの?
ほらー、こないだ君が雨ふらせたでしょー?
まいっちゃったよー!
まいった、という割に、楽しそうな魔王。
若さにまかせて遊んでいたパリピが、中年になってビールっ腹になったみたいだ。
全身、むっちむちのハムだけど。
緑だからハムには見えはしないが。
ウチの子も、食べるものあるから出歩かなくなってー!
ん?ゾウさん、いるの?
ゾウさんまで今、見えなくなってるの?
いえ、多分ゾウさんはいません、とスマ子が教えてくる。
ってゆーか
「雨乞いの舞、マジだったんだ……。」
ついポロっと本音漏れた。
独り言ってホントに言うんだな。
「ご主人が海上で話してた半分以上は独り言です。」
目的を忘れちゃいけない。
「あの女の子に花をあげたいんですけど」
マジでーー?!
大喜び、魔王。
単に花好き?
自前で咲かせられないのかな?
それには深くてくらい話があってね……。
「あ、いいです、喋んなくて。」
突然ホラーになりそうだったから遮った。
女の子の墓は知らないが、あの様子でちゃんと墓があるとも思えないし、ここにする。
人が来ない、って魔王が言ってたのが、一番の理由だ。
もう今は、緑がいっぱいだから、そのうち花も咲くかも知れないが、海のお宝は別だろう。
虹の浮かぶ真珠や、波で洗われた丸々の色々な珊瑚、ちょうど花のような形のイカさん先生秘蔵のピンクの真珠など。
人間以外にもキラキラの好きな動物が持ってくかもしれないから、魔王の足元に置いて、管理をお願いする。
持ってくのが人以外なら、別にそこまで目くじらを立てることはないけど。
持ってきた、島に咲いてた花を植えてみる。
こっちの世界の植物と言えるかは微妙だけど、魔王のお膝元だからいいだろう。
ちょっとくらい変わったものがあっても。
探し出して、ちゃんと弔ってあげるべきなのか、赤の他人なので判断がつかない。
かわりにサボテンに祈っておく。
日本人的に、手を合わせていると、かつてあの子が祈っていた感覚が残っていたのか、わかった。
あ、あの子魔力持ちだ。
そうか、魔王も言ってた。
水の魔力を譲渡、って。
砂漠だもんな。
弟が水を飲めるか、心配するよな。
それで自分の力をあげたんだ。
多分知らずに加護も。
あげたかったのが魔力だから、魔力絡みの加護になったのかな?




