周知
「この礼は必ず」
と、意味不明なことを言われた。
どういうこと?
なんで礼されるの?
っていうか何があったの?
真実を教えてください。
いなかったんだろうけど。
私はどうやってここまで来たんだ?
つーかスマ子は充電器か?
どこかにささってそうな様子はないけど。
充電器ないか。 主さんの屋敷に。
それはそうか。
私の疑問が分かったのか、主さんは頭ごなしに怒ったりせずにちゃんと説明してくれた。
白服と違って。
私は寝たまま、という間抜けな構図で。
昨日の昼ごろに突然消えた白服に、深夜に背負われてここに戻ってきたらしい。
ほうほう。
背負われてたの。
まあ私、歩いた記憶がないからそうなるのか。
すいませんね。
酔っ払いを背負って帰ってくるのか。
砂漠から。
きっついな。
ごめん。
色々、憶測と善意(を装っていそうな)勘違いをふりきって、立ち歩く許可を貰った。
正午を過ぎてはいなそうだが、すでに昼だ。
私の毎日は、ダラけて過ごせる時と急転直下の落差が激し過ぎる。
眩しい日を見ながら、そりゃダラケもするわ、と歩きながら考える。
スマ子は結局何してんのかと思ったら、屋敷の中でみんなの人気者になっていた。
魔法具(と厳密には言えるのか謎だが)隠しとかなくて良いんかい、と思ったが大人気だ。
特に女性に。
取り囲まれて歓声を浴びる、横置きのスマ子。
何してんのかと思ったら、動画でクラシック音楽と様々な世界の絶景なんかを映し出している。
得意げにリクエストも受け付けている。
ドヤってしてるけど、お前が動画撮影や編集してんじゃなくて、これ電波ジャックしてんでしょ、向こうの世界から。
本当お前は一体どうなってんだ。
海の上だけだったら、向こうの壁が残っていたりするから、そこからなんかまだ引き寄せたりとかあるのかな〜、と思わなくもなかったけど。
お前は本当にどうなってんだ、物理。
そう、魔法だって世界が別という物理法則があるはずじゃないのか。
一体どうなってんだお前は。
もうコレしか出て来ない。
いちいち腹立つしな。
しかし今はめっちゃ愛想振りまいている。
「あ、ご主人!私はもうここで生きていきます!」
いや、ふざけんな。
陸にはマナはほとんどないでしょ。
お前そのマナと魔力をどっから供給するの。
主さんに礼とかよくわかんないことを言われた後から、魔力は白服から引きずり出すとか言うのやめてよ。
そう思ったら白服がすぐ後ろにきていた。
微妙な顔をしている。
また怒られるかと思って身構えたくらいだから、別にそれはいいんだけれども。
どうも、知らないふりをして部屋に持ち帰ろうとしたが、自分の部屋に入ろうとしたらあまりにも騒ぐので、結局屋敷の人間にも見つかったらしい。
魔力持ちはさすがに白服だけのようだったから、黙ってれば見つからないはずだったんだけれど。
あまりにも女声で悲鳴をあげるせいで、みんな出てきてしまったんだ。
それで自分のものでもないから、出したんだけれど、という話だった。
昨日の夜から、ずーっと大人気なんだそうだ。
その……白服の部屋に入りたくないってそれは、それは……。
この話はすみやかに切り上げたい。
白服もそう思ったのか、スマ子を視聴したり順番待ちしている人達に声をかける。
昭和ニ、三十年代の、町内で初めてテレビがきた家の夕飯時みたいだな。
現実に見たことないけど。
ちょっと遠慮しながら熱狂してる、みたいな。
何とか、本来の持ち主だから、という白服の話で他の人たちは散っていったが、とても残念そうだった。
名残惜しそうだったが、もうね、スマホがね、私使ってたの、これ1個だけなんでね。
困りましたな。
まあ、腹立つぐらいには、確かに手放したいんだけどさ。
格安シム?とか、あと1台契約しとけばよかったな。
そういうわけでようやくスマ子に話を聞くと
「だってあそこにあいつがいるんですよ!」
と言った。
魔力珊瑚だろうな。
魔力珊瑚とスマ子で、白服から引きずり出す魔力と取り合いになってしまうんだろう。
なんていうかさ、吸血鬼が餌の前で獲物の話をしてるみたいで、なんか嫌だ。
すごく嫌だ。
白服はわかってんのかわかってないのか、黙っている。
人類側、とっても気まずいよ、スマ子。
こう言われて、この屋敷にこいつ(スマ子)を置いておきたいっていう人間、いるんだろうか?
多分、体調を気遣われたのもあるんだろうが、「食事でも」と誘われたのを固辞した。
金持ちに誘われたら、豪勢になりそうだ。
そんな金を使わないでください。
心の底から働かないで金は欲しいが、人に奢られると、ちと楽しみづらい。
慣れてない人からは特に。
結局、帰り支度の準備をするから、と待たされた部屋に、昼食のお膳が届けられた。
お膳じゃなくてお盆にのってたけど。
優しい食べやすいお粥みたいのと、野菜の煮たのみたいで、素材は全部知らなかったが、美味しかった。
酔っ払いを気遣われている。
酔って担ぎ込まれたみたいで、恥ずかしいから早く帰りたかったが、ありがとう。
ちょっぴり目から汁でそう。
屋敷から帰ろうとして、中庭で待っている時にふと気づいた。
あれ?ちょっと待って。
白服の加護の話をしてたんだよね、もともと。
海の上で。
そんで加護なのに死にやすいってどういうことですか? あやつは病気ですか?
何ですか?みたいな話になって、見てきた方がいいって言ったんだよね?
砂漠に行ったんだよね?
で、お姉ちゃんの星の話を聞いたんだよね。
お姉ちゃんから譲渡されたんじゃないか、っていう。
お姉ちゃんは幸運を譲り渡すっていう星だよね?
加護、どこ?




