過去
いやー、いやいや!それはないんじゃない?
あんまりじゃない?
久々に戻ってそれはどうなの?!
お姉ちゃんも泣いちゃうよ?!
必死の魔王。
何を要求されると思ってんだろう?
ね、と私に同意を求めてくるが、ね?といわれても。
私、お姉ちゃんじゃありません。
実年齢でいうと、多分おばさんくらい。
それとも『あんまりじゃない?』の方の同意?
それだったら……アンタ重いから同意しかねる。
久々に戻って、って白服の故郷なの?ここ。
アリも知ってたし、焼いた前科ありそうだったしな。
さっき魔王は、人間が来てたのは大昔みたいな言い方したのに?
もったいぶって後から話そうとしてた話があるのか、テキトウに話すから矛盾してるのか。
両方が混じってんのかもな。
一応言っときますがダンシング土偶サマ、アッチの故郷は合掌の方でして。
お宅様は私の産砂神じゃありゃーせん。
いちいち脳内でツッコミ返しをしていたら、そのうち魔王は『助けてー』とか言い出した。
何もしてないでしょ。
はじめは気のせいかと思ったが、よく見ると揺れている。
また落ちるよ?
二の舞だよ?
私は冷めた気分で眺めてただけだが、白服は違った。
「どういう意味だ。」
硬い声だ。
この場所はともかく、この砂漠はもともと知ってるだろう、と思ったが、知らなかったのかな?
だーかーらー、お姉ちゃんも泣いちゃうよ!
いっつも弟の幸せを祈ってたのにーー!
頭の中がパッと、夜になった。
まだ小さい、小学生になるかならないかくらいの女の子。
ボロボロの布をとにかく身につけてる、といったぐあいで、とても服ともよべなさそうな格好。
夜にこんな小さな女の子が一人で?と思わなくもないが、それよりも別のことが気になる。
この女の子は以前から知っている。
どの局面で見たのかわからないけれども、天使のような小さい兄弟のうちの一人だろう。
やっぱりお姉ちゃんみたいだ。
でもあの時は、ただ絵がパッと思い浮かぶだけだったけれども、今はその子の意思で立って動いているのが見えるせいか、生きている女の子だったんだ、ということが実感できる。
変な表現だけれども。
少しだけ微笑んでいる。
一生懸命、サボテンに向かって両手の指を組んで祈っている。
自分の弟の幸せを。
女の子の頭上には星が瞬いていて、なぜか女の子に与えられた星が『自分の幸福を他人に与えること』であると知ってしまった。
彼女がもう生きていないことも。
悲しい。
悲しいけれども、本当に天使のように見える。
こんなに小さな女の子に、たくさんの思いが詰まっている。
かわいいな。
良い子だな。
一心に家に置いてきた眠る弟を思っている。
こんなに良い子が幼くして死ぬくらいなら、全然痛くなく一瞬でいけるなら代わってあげたい。
魔王だろうと死を覆すことは出来ないが。
現実に戻ってみたら白服が座り込んでいた。
あの女の子が家に置いてきた(家とも呼べないような砂漠の中の掘っ立て小屋が崩れかけたもの)丸くなって眠っていた小さな子供は、白服なのかもしれない。
うなだれて顔は見えないが、かける言葉もない。
なーに〜?どうしたのー?
お姉ちゃんの顔見たくなったの?
ウンウン、良い子だねー!
魔王、空気よまないか?
気まづくない?
幸福を与える、って何が起こるんだろう?
千円落ちてた!となったら、隣の人に風で飛んでく、とか?
拾得物横領罪とかこっちにもあるのかな?
うーん?
「……。」
何か聞こえた。
気がする。
白服は普段はボソボソ喋らないので、聞き逃した。
ってか喋った?
「……俺に寿命を与えなければアイツは生きてたのか?」
寿命?
幸福って寿命なの?
そうとも言える、か?
私は疑問だが、白服は真剣だ。
違うよ。
あの子の星は幸福を与えることだけ。
そしてあの子の願いは君の幸せ。
それだけだよ。
白服は納得できないようだ。
硬い表情のまま、顔を上げない。
でも君のその、かすかな水の魔力は彼女が願って譲渡したのかもね?
あの子は水と風の子だったから。
白服が勢いよく顔をあげた。
生気が戻ったようだ。
君くらいの火の性質なら、あまり水を持てる余地がないから。
あの子の願いと星とが、死の間際にそれを可能にしたのかもね。
白服はまた顔を伏せた。
かすかに震え膝に顔をつける姿も、強く握りしめた手も見ていられなくて、すやすや昼寝するゾウさんだけを見ていた。
探ろうとすればようやくわかる、という弱さの魔力で女の子の生前の映像が流れてくる。
白服が思い出してるのか、と思ったが、魔王だ。
背景の場所がココだけだから。
祈るのは、いつも弟のこと。
でも歩く姿はやはり幼い。
魔王は、植物の少ないこの場所だが、女の子に花をあげたかったようだ。
スマ子がこの場所を覚えたら、花をあげにこよう。
ようやく、この場所にきた意味が見つかった。




