ダンシング土偶魔王
地面に立つと、ゾウさん乗りなど慣れてないせいか、足というか下半身全体の違和感がすごかった。
足で立つためにどこに力を入れればいいか、知らないような感覚。
歩いたら慣れるかと、少し歩いてみるがヨロヨロして、白服に支えられた。
腕掴んだりするだけで、人の体勢を整えられるとか、よくわからん技だ。
白服、お前、古武術でも習ってんの?
古武術で教える事なのか知らないけど。
その間、ずーっと魔王の魔力が響いている。
『そんなさっきまで日が当たってたところ探したらおねむでしょー?!』
とか『ヘイヘイ!魔王サマだよ~』とか
『ちゃんと寒くなる前に起きるのよー』とか。
……こんな相手にされない魔王っているんだな。
生き物の長なのに。
貝王様との差がすごい。
貝王様も、忌視子さんとは別ベクトルで特殊系だから、比べちゃいけないけど。
魔王に一般的も何もないか。
しかし敬意の置き所に困る魔王サマだな。
他に何もないので、魔王の方へ向かう。
白服も何も言わずに歩き始めたから、そのつもりだったんだろう。
ようやく相手にされて嬉しいのか、魔王からビンビンに魔力が流れてくる。
ニ〇動のコメントぐらいせわしない。
ヘイヘイ、ヘイ!
魔王サマだよー!
もう、20回ぐらいきいた。
目の前に着いた。
はじめまして、魔王でーす!
「いや、もうわかったので。
話すすめてください。」
思ったより、冷たい声が出た。
あら?
がーん!という、効果音のような魔力をわざわざ発する魔王。
イカさん先生とは別の表現力。
まぁ、どうしたいのかわからん暗いだけのキャラよりは意志疎通しやすい。
ずーっと無視するしー。ひどーい、人間。
最近の人間ってこんななの?
嘆きのダンシング土偶魔王。
え、ウチらに話しかけてたの?
ゾウさん相手に話しかけてたのかと。
何か悪いことしちゃったな。
「最近の、って昔はここ、人間いたんですか?」
一応、会話を試みる。
まず返事。返事か?これ。
いたよー!いたよ、いたよ!何でも聞いて!?
何でも聞いたら、倍になって返ってきそうだな。
遺跡とかもなさそうに見えるし、たまに砂漠を通る人間もいなくなった、とかかな?
でもまぁ、呼んだ理由を聞かないとだし。
「じゃ、その昔いた人間に関係することで呼ばれたんですか?」
何の話?
「え?」
呼ばれたんじゃないの?
ゾウさんお迎えにきたんじゃないの?
「ゾウさんに乗せられて来たんですけど?」
こっちの意思じゃありませんよ~、を匂わせてみる。
え?!やだ、あの子!誘拐?!
ワルじゃーーん!
大ワルじゃ~ん!
群れで移動する時、どんなに鼻でつつかれても昼寝続けて置いてかれた子が立派になってーー!
ヤッベェところに来てしまった。
ってか、この魔王なんも関係なかった。
ゾウさん、何で連れて来たの?
ゾウさんを振り返るが、スヤスヤとお昼寝である。
私たちの存在も忘れてたくらいだし、連れてきた理由があっても覚えてるかどうか、という感じか?
でも助かったけどね。
あのアリ困る。
まぁ、人間もねー、大昔はここで儀式してたんだよ。
その頃、僕生まれてないから知らないけどね!
いいですか~?
ここは聖地で、私は人間に神と崇められていたの、です!
いや、その頃生まれてなかったと自分で言ったじゃん。
『です!』で、右卍から左卍に切り替えたように、枝なのか手なのか、上下の向きが変わった。
生き物の体ってこんな事して大丈夫なのか?と思ったが、すぐにその影響は出た。
向きが入れ代わった反動で、少しぐらついただけでおさまったように見えたが、前方の私たち側に倒れてきた。
何せ3メートルくらいあるのであわてて避ける。
日の当たるピカピカの緑の陽キャが、無言で影になりながら落ちてくるのは怖かった。
これも落下っていうんだろうか?
よく見ると、ダンシング土偶が立ってた場所は少し高くなっている。
聖地だったのなら、これは人工的に作られたのだろう。
ところどころ欠け、一段目は崩れてはいるが、台は水平に二段ある。
この場所自体は自然にでき、人間が聖地として祭るために、この雛壇みたいのは供え物の台として作ったようだ。
魔力が反応してこの場所の過去の映像を引き寄せるかと思ったが、何も反応がなかった。
見た通り、風化するほどの昔なのか?
とりあえず、少しでも高いところから倒れたから、落下でもアリだろう。
どうでもいいけど。
ちょ、あの起こして。
え、起きたいの?
倒れたくなかったの?
じゃ、何でこんなに根が浅いの?短いの?
これって短足?
ツッコんじゃダメ?
私と違い、白服はすぐに助け起こそうと近寄りしゃがみこむ。
あ、ちょっとー、私が無慈悲みたいじゃん。1人だけ動かないと。
ん、あれ?
スマ子どこ行った?
よく見ると、白服の後ろ姿の中に点滅している箇所があった。
どうやったのか、服の裾にぐるぐるに巻き付けて持ち歩いてるらしい。
便利ねー。
点滅してるのは、スマ子の『取って』という合図かもしれなかったが、何も言わないし放置する。
手伝おうとしたが、役に立たなかった。
サボテン?魔王はツルッとして、しかしトゲは痛く、重かった。
白服は1人で起こし台に戻した。
根は地面の中に戻らずピヨピヨ見えている。
これ、枯れないの?
マナがあれば魔王は死なないか。
マナの固まりだもんね。
ふー、失敗、失敗。
あのねー
「人間に借りを作ったのだからそれ相応に返してもらうぞ」
白服は、服は白いが黒かった。




