砂漠の魔王
岩の切れ目はあまりにも垂直に見える。
かなりまっすぐなので、人工的に道路を切り出して作ったかのようだ。
下は砂のままなんだけどね。
こんなの自然にできるの?
できるのか。
山が水の力で切り出しされたり、崩落したりして、そうなるんだよね。
あってる?これ。
それとも見たまま人工物?
人間がいるの?ここ。
人間の町に連れて行ってきてくれた感じ?
いなかったらどうなんだろう?
水はあるから休んでください、みたいな?
ゾウさんの目的がよくわかんない。
けど、とっても友好的な態度には見える。
おみずくだしゃい、は可愛かった。
えー、何だろう?
この先に何があるの?
ゾウさんは悠々と進んでいく。
岩山が高すぎて、日は直接はささないが、上に明るく空が見えている。
そこそこの明るさだ。
道の下の方は真っ暗とまではいかないが、少し暗い。
切れ間は、まっすぐ伸びたかのように見えていたが、数十メートル先はやはり少し蛇行しているようで、先の方は見えない。
何か、これ……あれだ!
行ったことは全然ないけど、テレビで見たペトラ遺跡みたい!
あそこは岩が赤いんだっけ?
ここは別に赤くはないな。
岩の切り出した(?)下だから、影であまり見えないのかな?
いわば谷間だもんね。
まあ、黒っぽいようにしか見えない。
いきなりアラビアンみたいな感じになったじゃん!
アラビアンナイトも詳しくないけど。
ちょっとワクワクしてきたぞ!
でもそれよりか、喉が渇いたぞ。
疲れたぞ。
安全な水も欲しいけど、ウェルカムフルーツ欲しい。
よろしくお願いいたします、アラビアーン!
蛇行した先に進むと、明るく光っている。
あの先が開けている!
出でよ!
薔薇色の神殿!
開けた場所に出て、真っ先に目に入るのは茶色。
丸く岩に囲まれ、砂漠よりは植物があり、その植物も、外よりは枯れた色には見えなかった。
でも、外の砂漠とたいして変わらない。
何しに期待させたのか、と聞きたくなるほどガッカリ光景。
そして、ガッカリ要因はもう1つ。
茶色の中に、たいそう異彩を放つ、それは鮮やかな緑。
高い岩に囲まれ日陰が多い空間で、面積の少ない日向にある。
そのせいか、目立つ。
すごく。
なに考えればこんな形になるんだ?
というような、3メートルくらいのオブジェ。
原始ダンシング人形なのか、ハニワなのか、パリピの絵文字を緑一色で形作ったのか。
プラスチックのように、光を受けてテカテカの曲面から反射させる、原色みどり。
何……これ。
この世界にも現代アートあるの?
作ったヤツ、これにいくらかけたの?
センス最低。
ところどころ、変なアクセントに模様がある、と思ったが、白いトゲに見えなくもない。
さぼてん?
ゾウさんは、そのアホっぽい緑へと歩を進める。
そして、私や白服を乗せているせいか、魔力で声が聞こえた。
魔王しゃま、ただいま。
今、なんて?
この、緑の踊るハニワみたいのが?
魔王?
別のマオウ?
この世界の、魔王以外のマオウは何?
このシャコウキ土偶より変な
うん、お帰りおかえりー!
魔王サマなるぞ!
敬ってへつらって!
私は2秒くらい経ってから、後ろに向いた。
「今、何か聞こえたか?」
もはや最初から何も聞いてなかったことにした白服に、先に言われた。
……魔王は、色々いるんだもんね。
忌深子さんだって魔王だもんね。
偏見(?)はいけない。
横目で、自称魔王の(多分)サボテンを見ながら、ゾウさんの背中乗りは続く。
挨拶したかっただけのようで、返事もせずゾウさんは右に曲がった。
あれー!?
ちょっとー、魔王だよー!
捧げ物ダンスしてよーー!
魔王の魔力が、むなしく響く。
日影の中ならともかく、一度日向に出ると影の中はうまく見えなくて、いっそう魔王の魔力が鮮明に感じる。
しかしゾウさんは無視。
魔力持ちじゃないからね。
自分の感情が魔力会話になっちゃってるのも、気付いてないんだろう。
わかってるだろうに、この魔王今までもずっと、こうして独り言みたいに話してたんだろうか?とか考えちゃいけない。
ゾウさんは気付く様子もなく、端まできた。
そして、岩壁の周囲をウロウロして、足でならし始めた。
あれ?
そして、しゃがむゾウさん。
あれ、あれ?まさか!
ツッコミいれる間もなく座ったので、ただただ衝撃に備えただけだった。
なんとか落とされなかったよ。
でも、そこからさらに何かしようとしている気配を感じ、とうとう声に出した。
「ちょっとゾウさん、ストップ!ストップ!
乗ってるから、人間がここにいますから!」
っていうか、あなたが乗せたんですけどね。
耳元近くなのでどうかと思ったが、余裕がなく思ったより大きい声が出てしまった。
ビビった様子がなく、ヒラヒラとした耳が、さらに蝶が舞い上がるように、少し上にヒラヒラ~と上がった。
聞こえたようだ。
あれー?なんかきこえるー?
可愛いけどね。
いるんですよ、忘れられた人類が。あなたの上にね。
……あなたに乗せられたんですよ。
子供とは残酷なものだ。
子供か知らないけど。
忘れてたー、とようやく気付いてもらい、私と白服は地面に降りた。
ゾウさんは、私たちをおろすと、アッサリ横になってお昼寝を始めた。
おみずくだしゃい、の時は、あんなにウルウルした目でこっちを見たのに。
そんな「じゅーちゅ買ってあげるよー」と言った時しか懐かない友達の子供みたいに。
ウッ、泣いちゃう。




