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調停者

 

 遠い何かは、多分大きい。

 遠過ぎてゆっくり近寄ってくるように感じる。

 地平線から移動ってどれくらいかかるんだろう?

 実は凄く早いとか?


 アリが逃げたってことは、可能性があるけど実はあっちの方がやばい、とかそういうことないよね?

 怖い怖い。

 堪忍して。


 どうなるんだろう。

 巣の中に逃げ込んだら?

 アリにかじられないんだったら逃げ込みたいぐらいなんだけど。

 だってアレ、多分、すごく大きいでしょう?

 でもやっぱり入りたくないな。 キモい。無理。


 この世界の大きい生き物っていうと、どうしてもイカさん先生とか貝王様が思い浮かぶけど、あんなに知能が高い生き物ってそんなにいるのかな?

 自然の中で生きてる生き物としての知能プラス、人間に合わせて対話できる知能だもんね。

 割合としてどれくらい?

 ここだって陸上でしょ?

 魔王だって少ないくらいなのに。


 あ、それは魔力持ち限定の推定か。

 魔力持ちじゃなくても知能の高い生き物はいるもんね。


 ごちゃごちゃ考えていると、白服が言った。


「アレが来たから逃げたようだな」


 お前な!

 それどころじゃないだろう、この野郎!

 金輪際二度とお前の心配なんかしないぞ!

 絶対だ!


 何で時間あったのに、コレだけはやるな、みたいなのをやってから言うんだ!

 後だしジャンケンなら、まだ自分の勝利のためだろうが、今のは誰のためにもならないだろうが!


 怒りで頭がくらくらしてきたよ。


 全く。

 ただでさえ暑い上に、火を使われてたまったもんじゃない。


 パーカーを脱いで、それでバッサバッサと(あお)ぐ。

 たいして風はこない。


 動いたせいか、余計クラクラしてきた。

 しまった。

 そういえば、ここは暑かった。

 そういえば、じゃないか。

 私、よく熱中症になるな。

 ちゃんと今日はご飯を食べたんだけども。


 そして、またもまたもふらふら足元を見たら、スニーカー履いてるけど、靴下を履いていなかった。


 何なの。 

 私は異世界で外出の際、靴下履けない病なの?

 どういうこと?

 星は別のものだったんだけど。


ご主人(マスター)、早く拾ってください、私がいなくなったら困るでしょう!?」


 なにやら必死なスマ子の声に、少しキョロキョロ見回すと、スマ子は1メートルくらい離れた場所に落ちていた。

 何してる?いや、私が落としたんだろな。


 何で慌ててんだろう?とぼんやりしてると、小さくカチャカチャという音を耳が拾う。


 ん?


 アリがまだ1匹残っていた。

 心なしか見てたものより小さい。

 まだ幼体(というのか知らんが)で、仲間のように危機だと感じることが理解できてないのかもしれない。

 スマ子を狙っているようだ。


 あらー。


 本来ならすごく困るはずなのに、何故か頭の中に遮光カーテンでもかかっているように、危機感が湧いてこない。



 困ったなあ、と思っていると、そのスマホの体を誰かの手が拾い上げた。

 私が視界を上げると、それは白服だった。

 まあ他に人、いませんよね。

 当然、1匹だけのアリは白服に向かっていく。

 しかし、それはあっさり、白服はアリを蹴りつけた。


 あれ蹴ったよ?今。

 それは攻撃じゃないのか?

 近寄ってきたら自動で燃える、みたいな言い方をしてたけど、これは流石に無理がないか?


 ぼんやりしていても、視線に抗議が混じったのか、白服は「攻撃したのではない」と言った。


 えエぇー?

 こちらを向いて涼しい顔して、歩き寄ってくる。


 何言ってるんだ?お前。

 日本語喋れるか?

 いや、これは日本語じゃないか。

 ところで私、何語喋ってるんだったっけ?

 どうなってるんだ?

 ていうか、口から出したか?

 まあいいか。


 白服が続ける。

「調停者が来たから、その後に攻撃を仕掛けるのは向こうが違反なのだ」


 違反って何だ。

 調停者って何だ。

 お前は厨二病なのか?

 どうなんだ?

 はっきり答えなさい。

 今こうなった責任を、どうしてくれるんだ?

 でもそれは、貝王様だったっけ?

 あれイカさん先生だったっけ?

 っていうか、何で白服といるんだ?

 こいつ陸にいるんじゃないのか。

 あれ?私が今、陸にいるのか。



 白服は呆れたようにため息はついた。


「ちょっと待て 」


 ちょっと待て、って何だ?

 何を持つんだ。

 私は今すぐ帰りたいんですけど。

 っていうか、この砂暑いんですけど。


 気がついたら体育座りしている。

 何してるんだ?私は。


 ていうかね、これね、暑いよ。

 ジリジリするよ。

 上からもジリジリするよ。


 いつの間にか私はパーカーを頭からかぶっていた。

 ヒリヒリするのは、どうもパーカーから出ている腕らしい。

 足をまとめて、一生懸命手で押さえてる感じだ。

 もはや寝転がりたい。

 でも寝転がったら、きっともっとジリジリする。

 日が当たってるところが本当に痛い。

 誰か助けて。


 何かこう、遮光カーテンください。

 遮光カーテン、上に張って(キャンプしたことないけど)こういうのをばーって貼って日よけにするんでしょ?

 知ってる。

 タープって言うんでしょ、あれ。

 アレ欲しい。

 でもあれだけあっても、なんか立てなきゃいけないよね。

 じゃなきゃ今、羽織ってんのと同じようにムシムシするよね。

 そうそれも困ります。

 なんかこう、風通しが良くて日よけになって、えーと、えーと。


 疲れて結局横たわった。

 そしたら砂がズリっとして、暑くて痛かった。

 もう誰だよ、こんなことするの。

 いや、貝王様だな。

 何だったっけ?

 私が質問してこうなったんだよね。

 どうだったんだっけ?

 なんかよくわかんないけど、とりあえず白服のせい。


「私が日焼けします。何とかしてください。」

「黙れ」


 妙に仲良さげな会話を聞きながら、ぼーっとデカいものを探すと、かなりの近さに来ていた。

 到達まで悠久の時が必要かと思われたが。

 途中でワープしてたりして。


 ゆらゆらする視界で見えたのは、砂色のゾウだった。


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