砂漠の虫
白服はじっとスマ子を見ていた。
スマ子に気づかないふりをするのは止めたようだ。
あれは街の中でだし、主さんの指示だろうし。
今は知らんぷりも難しい。
スマ子はノリノリで、説明する。
いかに自分でも、カコドの街から離れたこの場所から移動は難しい、と。
出来ない事を、自分のターンだと言わんばかりに饒舌に喋るスマ子。
ドヤる場面、おかしいだろ。
ホントにぽんこつだな。
ところで干上がりそうだから、移動が難しいなら日陰に入りたい。
でも日が暮れたら寒そう。
この風で寒かったら命の危機。
行くべきか、止まるべきか。
スマ子にカコドまでどれくらいかと聞いても、私の足ではそうとうかかる、という曖昧な答えだけ。
カコド以外でもとにかく近いのは?との問いにも、みんな距離は対して変わらない、との希望のない答えだった。
私が薄っすら絶望してる間、現地人の砂の友達、火の子は、見回したり考え込んだり一言も発しない。
ちょっと、スペシャリスト、あんた何とか言いなさい。
視線に気付いたのか、白服がこちらを見て言った。
「あまり話していると消耗するぞ」
はぁ?!
お前、好きで来たんじゃないんだぞ!
帰る手立てないんだぞ!
何で他人事?
これからどうするのか指し示しなさいよ!私は知らんぞ。でも助けて。
一面の荒れ地。砂漠。
岩と言ってもそこまで大きいものでもなく(だから見渡せるのだが)日から隠れられそうにもない。
それでも、しゃがみ込んで休憩出来ないものかと近寄ってみたのだが、恐ろしい光景に足を止める。
茶色と黒の中間の色、混ざり合っているような色の岩だと思ってたもの。
そこから虫の顔が無数にこっちを見ていた。
はじめは何かわからず、でも危機感を感じて止まる。
自分でも見たものを認めたくない、というか、理解したくないのかも。
しかし残念ながら止まって見ても、トンボやハチ、アリなどの顔に似ているように見える。
虫は好きじゃないので、虫の顔に詳しくはないが。
動かないから、死んで埋まっているのかとも考えたり、そもそも虫ではなく石の模様かとも思ったが。
そうして止まって見ている間に目が慣れたのか、一見しては静止物だと見えるが、表面を蠢いているものがあった。
黒っぽい、岩と全く同化している色の虫。
アリのように見えるが、何メートルか離れているのに、少なくとも私の握りこぶし位はある大きさ。
それはアリじゃない。
そんな大きさのアリはノーセンキューだ。
同じ種なのか、顔の上も歩き回り、目の真っ黒が遮られたりする事で、見間違えではないのがわかる。
忌海子さんの時といい、人間は本気で気持ち悪いと声も出ないらしい。
黒い目以外が岩と、いや、岩と見えたものと同化しているが、歩き回る大きさや、無数の目の数から考えて、ほとんどが虫であの体積はいっぱいだろう。
そうするとどう考えても、あれは岩や石ではない。
虫の体をわずかに覆うものの集合体、つまりデカいアリ(っぽい)の巣。
ここに、この場所にはいっぱい……。
縄張り?
そのうち、顔だけ見えていた虫が、いや顔が大きくなった気がした。
え?
心底気持ち悪いが、怖くて動けない。
こちらを向いていた数匹か数十匹が、這い出てきた。
ギャーー!
来んなよ!こっち来んな!
「変わってるな。人を食う者に近寄りたいか?」
白服ー!
不思議そうな顔をするな、今更言うな、声出して刺激するな助けて。
私の顔が引きつっているのか、寄ってきて話しかけた白服は、様子に気付いて呆れた顔をした。
覗き込んできた左側から、そのままグイッと腕を掴み、後ろに引っ張られた。
そんなものじゃ縫い付けられたように凍りついた私の体は動かないのよ、と思った。
だって、先程から逃げたいのに怖くて逃げれない。
しかし引っ張られたら、あっさり後ろに体が2、3歩下がった。
不思議ねぇ、マジックね。
でもあんまり下がるとね、別のにぶつからない?
ちょっとこう、射程距離内に入らない?
取り囲まれてない?
大丈夫なの、これ。
白服は平然としている。
人食いに囲まれてんのに?
あ、こいつは火で燃やせるからか。
私は?
イカさん先生みたいに水で覆われたら、何とかなる?やった事ないけど。
ってか水出した事ないけど。
生きてくのに必要だが、水道があったから。
あ〜、練習しとけばよかった。
も~何で私いっつもこうなのかなー!
ほんっとにドンがばちょ(?)だよ。
知らないうちに魔力を動かしていたのか、やはり頭の中が垂れ流しだからか。
白服が、私のモワモワの考えに気付いたかのように言う。
「おい、これらと戦おうと考えるなよ。
こいつは攻撃されると種の保存のためか、別の群れからも一斉に敵を殲滅しようとするからな」
その範囲は視界に入るくらい、と。
視界いっぱい、コイツらの巣しかありませんけど?!
見渡す限りそれだけですが?!
むしろコイツらが食いつくして森が砂漠になったのかな位あるよ。
申し訳程度に枯れ木みたいのが所々寄り添ってるだけで。
「火にも寒さにも強い。この砂漠に生きてるからな。顎が強く人の骨も噛み砕く。
雑食だから極稀に着ているものを置いて、自分は助かったという人間もいるらしいが定かではない。」
「ぎゃあぁ!」
「わ、ビックリした」
スマ子が変な叫び声をあげる。
「私はご主人と違って繊細なんです!一噛みでもされたら重症です、大事です致命傷です。」
「いや私にも大事なんだけど。お前と違って生身の人間なんだけど。」
失礼な上にスマ子よ、何故、この砂漠に関する知識はなかったんだ?
「おい、音にも反応するから騒ぐな。餌がいると名乗りをあげてるようなものだぞ」
うちのアホスマ子がすみません。




