砂漠
ダメもとで貝王様とイカさん先生に聞いてみた。
「これはもともと、喋らない便利な物だったんですけど、このテレビと同じように元に戻したいんです。
元はスマホって言うんですけど。
どうしたらいいと思いますか?」
「え?」
スマ子、お前が驚くんじゃない。
お前にはお前の大変さがあるかもしれないが、私には私の苦痛があるのだ。
貝王様とイカさん先生に、スマ子の不完全変態歴について説明する。
私がスマ子に説明されていた、おそらくはこういう理由だろう、という考えと共に。
この海に来て、まず起きた時にこの窓を開けて、と。
なるほど~、という感じで聞いていたお二人だが、不思議だね、で終わった。
ちょっとガッカリしたが、途中スマ子が調子にのって喋り出して焦ったので、何事もなかったんならそれでいいや。
加護の字がもし理解出来るようになったら、こいつに使おう。
静か、って書いて完全に沈黙されても困るな。
音じゃなくて、使えなくなるの意味で。
こっちの世界で辞書代わりだから。
他にも何か忘れてるな。
…ハッ!白服!
いやいやいや、死にやすいの話。
死にやすいで、加護が出てきて、魔力系加護かもで。
で、結局どう死にやすいの?
ズレた。
ズレまくった。
「あの、貝王様。
火の子が死にやすいとは何でしょう?
加護があっても死にやすいのですか?」
あぁ、そうですね。
そうですね、って、どうですね?
何か考え中のようなお返事の貝王様。
実際見たほうが早いかもしれません。
魔力珊瑚が強く光った。
目が開けられなくなるほどで、光が収まると、私はどこかに立っていた。
マットレスの上に座っていたはずだったのに。
なんだ、ここ?
何だ?と言っても砂漠にしか見えない。
砂漠と言っても、砂しか見えない砂丘ばかりの砂砂漠ではなく、岩と所々に枯れ木のようなものが見えるだけの、一面の荒れ地だ。
どのみち地面は砂のようで、さらに強い風で、吹き付けられる風に耐えても砂粒があたって痛い。
コロナ禍で出てきた透明のフェイスシールド、あれが欲しい。
Tシャツとジーンズだけかと思ってたら、パーカーも着ていた。
着てなかったら腕も痛かったんだろう。
首はパーカーのフード分の布でガードされてるようだが、服の中に砂が入ってきて、すぐにチリチリざりっと嫌な感じがし始めた。
方向変えたら目に直撃したりして。
怖いわー。
ところでここ、暑い。
ところでとか悠長な感じじゃなくて、クソ暑いわ。
どうなってんの?本当に。
ようやく夏が終わったと思ったのに。
どうなってんの、これ何。
パーカー、脱いだ方がいい?
どっちがいい?
脱いだら脱いだで、砂当たるよね。
痛いよ、これ多分。
本当 どうしたらいいの どうなってんの?
その時、ザリっと音がした。
砂利かなんか踏むような音で、私は踏んだ感触がなかったので、あれ?と思って振り返った。
風がいつも強いわけじゃなく、時々ゴーっと強くなるので、それもまた迷惑な話だ。ちょっと強弱つくぐらいならいいが、強風で強弱つけられても事故りそうだ。
すると後ろに白服が立っていた。
なんかちょっと私を見て、まずいっていう感じの顔をしている。
何だ?
着替えを覗いたんじゃあるまいに、と思ったが、反射的に怒りが起こる。
お前のせいかー!
走り寄って、また私は奴の胸ぐらを掴んだ。
人生2度目。
そして相手はどちらも白服である。
頭ではなんとなく、これは貝王様がやったことだとわかってはいるのだが、島が一度砂漠になりかけた時といい何というか、こいつと砂漠というものが近いのだ。
どうしてくれるんでい。
「いや、その、オレはやってない!」
何その、盗みを明かされて殺人の濡れ衣まで着せられそうになった、みたいなセリフ。
まぁ、やってないだろうな、と手を離す。
やったの多分、貝王様。
光ったのはわかったのに、どう魔力が作用したかわからなかった。
魔力の感覚だけ追いすぎてもいけないが、とっさにわからない事だらけ。
時間をかけるしかないんだろうか。
んで、どうやって帰るんだ?
「カコドまで行くしかないですね」
スマ子の声だ。
自分で手に持っていた。
あら、いつの間に?
「お前いたの?」
「いました!ヒドイです。」
そう言われても。
貝王様にも考えがあるのだろうが、ここは即時撤退である。
私には過酷が過ぎる。
「スマ子、あんたカコドまで2人分移動出来るの?」
「ここは知らない所なので無理です。」
「いや、あんたカーサフクダにずっと居たよね?!カコドの街も行ったことなかったよね?!」
何、不思議ちゃんな事言ってんだ。ただでさえ奇妙ちゃんなのに。
「カコドは1番近い街ですから情報収集に利用していたので。」
サラッと言ったが、カコドでもかなりの金持ちの部類に主さんは入ると思う。
そして野良の魔力持ちも下にいる。
……スマ子の知識、主さんとこからも盗み見てるな、これは。
ほら、白服が険しくなった顔でガン見しているよ。
お前、叩き壊されても知らんぞ。
困るの私だけど。
ってか
「全っ然どこでもドアじゃないじゃん」
「私はドアではありません!この世界で唯一の」
「それもういいから!」
遮った。
このフレーズもういらん。
うるさい。




