海の火
言葉が足りなかったみたいなので(そりゃな)言い直す。
「火であの小さい虫を焼けばいいと思います。」
今さらだけど、虫って通じるのかな?と思ったが、別の事に反応された。
火という言葉に驚く様子の、イカさん先生と貝王様。
すごく驚くってほどじゃないけど、え?いう感じだ。
え? そんなんでそんなに2人で驚くの?と思った。
でも、そもそも海で生まれて死ぬ生き物が、火と言われても、存在すら知らないのかもしれない。
今までこの辺は、本当に島もなかったんだから。
しかし全く知らない訳ではなさそうだ。
火ってあの火?
とお二方で疑問符を浮かべている様子。
何故それで火を知っているのかと言うと、魔力持ちの生き物の中に、鬼火を出すものがいるらしい。
ちょっと特殊な生き物らしいが。
鬼火と言っても、それでその鬼火というのは白っぽかったり、青い光が出たり、虹色の光が出たりするんだそうだ。
全部まとめて単に鬼火。
出せる生き物が少ないから。
もしかしたら、蜃気楼みたいのも混じってるのかな?
鬼火と言っていたが、その言葉の語源を昔々、クジラさんに教えられたそうなのだ。
が、そもそも火をほとんど見たことがないから、そういえば忘れていたな、という感じらしい。
火そのものじゃなくて、鬼火の方を知ってるんだ。
なんかそれもレアだな。
すごいと思います。私は鬼火の方を見たことがないで。むしろそっちを見たい。
ていうか、燃えるって何?
と、イカさん先生。
え?
燃えるとは……何だろう?
炭になる?
灰になる?
焼けばいいってなあに?
重ねて聞かれるが、わかるけど、どう言葉にしたらいいのか、わからない。
こう太陽で……ジリジリになったりするのも、ある意味、やくって言うんですけど。
いやいや、それ火で焼くのと別だよね。
なんて説明したらいいの?
「なんかこう火というものが、えっと……物をなくしていくんです。」
何言ってんだ、私は?
概念!
うまく言えない。
「とりあえず、人間に言ったら実行するかもしれないから、見てみましょう」
あー、火に触ると……焼かれるので、生き物が死んじゃったりとか、そこの触った細胞が死んじゃったりとかします?
変な説明しか思いつかない。
とりあえず、注意事項。
イカさん先生が焼きイカになってしまう。
美味しそうな匂いを漂わせて、襲われてしまう。
「火傷っていう怪我をするので、先生は火に触らないようにしてください。
火に近寄ると熱いと思います。お日さまを凄く強く感じるみたいな感じです。」
とりあえず言ってみたのだが。
火傷って何?
怪我じゃないの?
怪我なの、どっち?
……どっちだろう。
向こうの人類に投げよう。
「とりあえず、向こうに言ってみましょう。 火というのは、こう、木などの水気が少ないものを燃やしていくので、船がなくなるかもしれないと、人間は陸に帰れなくなるので嫌がるかもしれません。
断られたら見れないですけど、本人たちが試す分には、火で焼く姿が見えるかもしれません。
どのくらい、向こうにあの虫が見えているかわかんないですが。」
映像の中の人間たちを指さして、あっ!と思った。
ほとんどおき火になっているようで、火が燃え上がってるようには見えないが、狼煙の方の火が、まだかすかにプスプス煙を出している。
そうだ、初めからあったじゃん!
何やってんの、私。
「あれ!あれです。
ほとんど煙で見えないけど、あれは火を燃やしてるんです。
木を燃やすと煙が出て、今のは煙で人間に合図を送っていたんです!」
最初からこう言えばよかった。
貝王様はその時、とても画期的なことを言った。
あの人間の魔力持ちにはやらせましょう。
彼はおそらく、火の性質があります。
火の性質?
と思ったが、海の生き物はほとんどが魔力持ちでも、水の性質が多いんだそうだ。
イカさん先生のように、風の性質を持つ魔力持ちもいる。
風の性質がある魔力持ちじゃないと、風の魔法は使えないし、水の性質をかすかでも持っていないと、水の魔法は使えない。
私が毅観子さんと魔力の質が似ていると言っていたが、魔力の質自体も似ているし、一応、水の性質があることも共通しているらしい。
ただし鬼海子さんは海の魔王なので、当然圧倒的に水の性質が多く、私はそこまでじゃない。
性質が似ている、って結局一体何なんだろう?と思ったけども、ただ単に識別に魔力を感知している時に、2人が似ていると誤解しやすい感じだそうだ。
魔力の大きさで、私か危見子さんか、区別をつくみたいだけどね。
へー、なるほど。確かに。圧倒的に魔力デカイ。
海にはもちろん、火の性質なんてほとんどいない。
その鬼火を出す生き物に、かすかに火の性質があるんだそうだ。
へえ。
多分、同じような感じがあの魔力持ちにあるので、火が使えるはず、と貝王様。
すごいな~。
ということは、魔力で蚊を焼いていけば、船を燃やさずに済むから、かなり有効な解決策なんじゃない?これ。
人に火をつけくのも、かなり危険だもんね。
魔力の火なら、人は燃やさないように、って意識するから、自然の火よりは安全だろう。
いいじゃん、いいじゃん!
なんか白服が活躍するのが、納得いかないけど。別に恨みもないんだけどさ。
あの蚊が、魔力に対して抵抗力があると厳しいかもだが。かも、ってゆーか、あるらしいが。
まともな案がようやく出たので、さっそく向こうに伝える。
肝心の白服は、びしょ濡れのフードをかぶり、海面から鼻から上だけを出してじっと海に潜んでいた。
カッパかよ。海だけど。




