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「今日の仕事はどうだったの?ケガはない?」
傭兵組合の建物に向かう途中もアンジュのおしゃべりは止まらない。
「いつも通りしっかりやったし、ケガはないよ。」
オーガンは答えた。
ジモルドは口ばっかりだったし、デレクは二人分以上の働きをして、自分も真面目に仕事に従事した。
いつも通りだ。
「よろしい!受けた仕事は責任を持ってやらないとね!」
アンジュは上機嫌だ。
世界には傭兵組合と傭兵協会の2つの組織があり、ほとんどの傭兵団はいずれかに属している。
銀のウサギは傭兵組合に属する傭兵団だ。
3人が傭兵組合の建物に入ると、あちこちから声がかかる。
「ガラードの旦那!」
ガラードはこの街の傭兵達に人気がある。
銀のウサギ自体がこの街では有数の傭兵団であり、ガラードはそこのナンバー3。
身長は低いものの、丸太のような腕から繰り出される戦斧の一撃は圧倒的な破壊力を秘めている。
戦術眼も鋭く情にも厚い。多くの傭兵が彼と交流を持ちたがっている。
他の傭兵達と話すガラードを置いて、アンジュとオーガンは窓口へと向かう。
「銀のウサギです。3名でジュダ川沿いでの材木の積み込み作業を行いました。」
受付嬢に対して話すのはアンジュだ。
「ケガ人なし、作業指示等もんだいありませんでした!」
「はい、お疲れ様でした。依頼主からの報告がまだ来ていませんので、報酬は明日以降になりますがよろしいですか?」
作業は依頼主、従事者双方の報告をもって完了となる。依頼主の報告は大抵その日のうちには行われない。
報酬が翌日にずれ込むのはいつものことだった。
ちなみに明日まで待てない場合はいくつか間引かれた額を受け取ることはできる。
が今のところ金銭的に切羽詰まった状況にない。
「問題ありません!よろしくお願いします!」
アンジュが返答し、窓口から離れると少年が声をかけてきた。
「よお、アンジュ、新入り」
彼は傭兵団「赤狼の牙」に所属する傭兵見習いのトラン。年はアンジュの1つ上で何かとアンジュにちょっかいを出してくる。
「今日もつまらない仕事だったんだろ?」
「仕事は仕事。どんな仕事でも受けたら責任をもって果たすのが一人前の傭兵よ。」
アンジュは両親から傭兵の流儀について篤い薫陶を受けて育ってきた。
だから彼女の言葉に嘘も誇張もなかった。本気でそう思っている。
「そんなことより、アンタまだオーガンの名前も覚えられないの?」
新入り呼ばわりが彼女には気に入らないらしい。
「いい、こいつはオーガン、アタシの弟分よ!いい加減覚えて。」
「新入りは新入りだろ。」
トランはオーガンを認めていない。
「アンタはいつまでも半人前ね。そんなアンタは今日はどんな仕事をしてたのよ?」
彼女は呆れたようだが、しつこく言い含める気はないらしい。
「それは・・・いろいろあんだよ!こっちは大所帯だからな!」
傭兵団「赤狼の牙」はこの街最大の傭兵団で団員が200名を超える。
トランの誇りは赤狼の牙に所属していることであった。早く見習いを終え戦果を挙げることを夢見ている。
そんな彼にとって今日従事した傭兵団での雑用は胸を張れるものではなく言葉を濁すこととなった。
アンジュにとって仕事に貴賤はなく如何なる仕事であれ言えば評価されたであろうが、トランにはそれがわからない。
「ふうん、ま、いいわ。帰ろうオーガン。」
そんなトランをしり目にアンジュは帰路につこうと建物の出口をくぐった。
いつの間にかガラードが傍まで来ていた。
なお、オーガンは建物に入ってから出るまで一言も口をきいていない。
それは彼女といるといつもの光景だった。