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第1話 旅立ち3日で金欠って、どゆこと?

「待ってくれ、待ってください。……路銀がもうすぐ無くなるって、どういうこと?」


 机の上に築かれた平たい硬貨の山を前にして、俺は思わず口元を押さえた。


 ——えっ? 少なくね?


 商業都市プラナのとある宿屋。その一室で俺は驚きと困惑とで揺れながら、何度もパチクリと目を瞬かせる。


「俺たちの全財産がこれっぽっちって、どゆこと? もっと金貨、ありましたよね。え、本気で言ってますか? あの、本当に?」


 俺は積まれた硬貨を震える手で指差した。

 金貨もなければ、銀貨もない。小銭に等しい銅貨だけ。


 ——待ってくれ、まだ勇者として旅立ったばかりだが?


 頭の中で疑問符の嵐が吹き荒れている俺の名前はアレク。ただの平民の成り上がりで家名はない。

 職業は勇者。三日前に仲間の戦士と魔法使いとともに勇者選抜試練をクリアして勇者になったばかりである。


 俺たちは、今まで生きてきた18年間のほとんどを『勇者とその仲間たち』になるための養成機関で過ごした。

 実力だけはピカイチだ。

 俺に、俺たち勇者一行(パーティ)に足りないものは、社会的常識だけ。


 だから世界平和維持機構——勇者選抜試練と勇者認定を行う機関だ——から、俺たちの生活面を支えるための管理支援官(マネージャー)が派遣されている。


 それが俺の正面に背筋よく座るオーリーだ。


「機構より提供された旅の資金はこれですべてです」


 フードを目深に被り、マスクで顔を覆ったオーリーの表情は見えない。体型を隠すようなダブついた長衣(コート)をまとっているせいで、オーリーは年齢も性別も不明だ。

 彼だか彼女だか不明のオーリーは、ただ淡々と事実を紡いだ。


「我々にはこの都市より先に旅立つ資金がありません。この都市ですら()って一週間でしょう」


 ——嘘だろ!? なんで……なんでだ!? プラナにはさっき到着したばかりだし、無駄遣いした覚えはない。王都で一番いい武器と装備を揃えはしたが。


 頭を抱えた勢いで肘が机にぶつかった。

 その衝撃が机上の硬貨をいくつかチャリンチャリンと跳ね上がらせて、銅貨の海が机一面に広がってゆく。

 その一枚がコロコロと転がって、オーリーの指にコツリと当たる。オーリーは深々と頭を下げていた。


「申し訳ありません、我々の考えが甘かったんです」


「甘かった……だと? 機構側の過失を認めるということか?」


 厳しい声でオーリーを責めたのは、俺の後ろに控えていた天才魔法使いウルスラだ。


 勇者一行(パーティ)の最年長にして一番背が低い。俺より2歳年上で、けれど、ハッとするような美しい顔をした青年だ。


 ウルスラが無造作に伸ばした草色の髪をかき上げながら、黄緑色の目でギロリとオーリーを睨みつける。


「ダメでしょ、ウルスラさん。美形が睨んだら怖いんですから。……あの、オーリーさん。もしかして僕がみんなに内緒で串焼きを食べたから……?」


 間に入って正直に罪の告白までしたのは、万能戦士イヴァンである。


 勇者一行(パーティ)の最年少で、俺の一つ下。一番背が高く厚みのある身体に丸い童顔が乗っている。

 イヴァンは接近攻撃(アタッカー)もできるし盾役(タンク)もできる万能戦士で、柔らかい飴色の髪を汗対策で後頭部を刈り上げている。


 瑠璃色の目を垂れさせてシュンとするイヴァンを慰めるように、オーリーが首を横へ振り、力なく笑った。


「王都ゼランから商業都市プラナまでの道中で、どうにか換金できる素材を手に入れることができるだろうと思っていましたが……それがそもそもの間違いだったんです」








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