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第6話 心に届くチョコレート

 次の日からコーディーはリーマーの世話を昼間にして、夜はチョコレート作りに励んだ。そしてやっとできたチョコレートをリーマーのもとに持っていった。


「お父様。チョコレートですよ。食べてみて。」


だがリーマーはそれを見ようともしなかった。あれほどチョコレートに取り付かれているかのような父であったのに・・・。コーディーはそれから数日間、続けてみたが、やはりリーマーの反応は変わらなかった。


「やはりだめです。私の腕では・・・。」


コーディーは気を落とした。老人はそのチョコレートを口に入れてみた。


「確かにこれはうまい。だがこれだけではお父様の心を動かせないような気がします。お父様の心に届くもの、それはあなたの心です。その心を映し出すように工夫してチョコレートを作ってはいかがでしょうか。」

「そうですか・・・」


コーディーは自分の心とは何かを考え込んだ。それはやがて一つの結論を得た。


「私の心をチョコレートに込めよう。それには・・・」


コーディーはまたチョコレートを作り続けた。今度は今までと違った製法で作っていた。彼女が修行した中でこれはと思ったチョコレートだった。だが満足いくものはなかなかできなかった。作ったチョコレートを食べては、


「これではだめ・・・」


と捨ててはまた作り直していた。それはまた数日に及んだ。疲労と眠気が襲おうとも、彼女はくじけず、それをはね返してチョコレートを作り続けた。そしてついに、


「できた!」


と声を上げた。彼女はぐっと目を見開いた。ようやく自分が思い描くもの、満足にたるチョコレートが出来上がったのだ。


「ほう。できましたか!」


その声に老人とナギノも工房に出て来た。コーディーは疲れ果てていたが、その目はうれしさで満たされていた。


「ようやくできました。私の思うものが。これなら父に食べてもらえます。」


コーディーはそう言った。




 そのころタロイの工房ではようやく試作のチョコレートが完成していた。それは漆黒に輝くチョコレートだった。よい材料を遠方から求め、それを工夫して仕上げたものだった。


「これはうまい!」

「香りと苦みが素晴らしい!」


職人たちからも歓喜の声が上がった。


「タロイ旦那! やりました! これで完成です!」


アニーは自信満々に言った。それにタロイはうなずいた。


「みんな! よくやってくれた。苦みを利かしたビターチョコレートだ。これなら王様に満足していただけよう。見とけよ!ジロイ!俺のチョコレートを見て慌てるなよ!」


タロイは満足げだった。



 一方、ジロイの工房でも新しいチョコレートが完成していた。それは薄い色をしていたが、口に含んだ瞬間、芳醇な香りと甘みが広がった。上等なミルクを惜しげもなくチョコレートにたっぷりと混ぜて工夫を凝らしたものだった。


「うめえ!」

「こんなもの、食べたことねえ!」


それを口に含んだ職人たちは絶賛した。ジロイも満足げだった。


「ミルクチョコレートだ。このクリーミーな舌触りは格別だ。これならタロイに勝てる。俺が一番だということを思い知らせてやる。」

「ええ、このチョコレートに勝てるものなんか、ないでしょう!」

「我がジロイ工房の勝ちですね。」


職人たちもかなり自信を持っていた。




 コーディーは早速、リーマーのもとに作ったチョコレートを持っていった。


「お父様。チョコレートです。私が作りました。食べてみてください。」


コーディーはチョコレートを差し出した。それは雪のように真っ白なチョコレートだった。リーマーはそれをぼうっとした目で見た。だが手に取って食べようとしなかった。


(ああ、だめだったか?このチョコレートでも・・・)


コーディーがそう思って顔をうつむけたとき、リーマーがつぶやいた。


「これはチョコレートか・・・」


はじめてリーマーが反応した。コーディーはすぐに顔を上げてリーマーに言った。


「ええ、チョコレートです。お父様の愛していたチョコレートです。」


するとリーマーの手が伸び、その白いチョコレートをつまんで口に入れた。


「うむ。この香り・・・甘味・・・くちどけ・・・悪くない・・・」


リーマーの顔がほころんだ。そしてその目に生気がよみがえってきた。それはチョコレート作りの名人と言われたあの頃のリーマーをほうふつさせる目だった。コーディーはさらにリーマーに話し続けた。


「お父様。わかりますか。チョコレートです。私が作りました。あなたの娘のコーディーが作ったのですよ。」


リーマーはそのコーディーの顔をじっと見た。リーマーは何とか思い出そうと目を瞬きながら考えていた。やがてリーマーの脳裏に過去の思い出が蘇ってきた。


「コ、コーディー・・・。コーディー、お前なのか?」

「ええ、お父様。コーディーです。わかるのね!」


コーディーは涙を流していた。リーマーははっきりうなずいた。


「ああ、コーディー。私の愛する娘。」


リーマーははっきりと思い出した。目の前にいる女性がコーディーであると。自分が家から追い出した娘であると・・・。


「すまなかった。お前には・・・」

「いえ、お父様。私の方こそ・・・。家を出て行ってごめんなさい。どんなにつらい目に合わせてしまったか・・・」

「いや、いいのだ。帰ってきてくれたのか。もう2度と会えないと思っていた・・・。あんなにひどいことを言ったのに・・・」


リーマーも涙を流していた。


「いえ、私が家を出たばかりにこうなってしまって・・・。でもちゃんとチョコレートの修行をして帰ってきました。お父様に食べていただくために。」

「すばらしかった。よくここまで腕を上げた。よく頑張ったな。お前のチョコレートのおかげで頭に取り巻いた霧が消えてしまったようだ。ありがとう。」

「お父様・・・」


父と娘は感激して抱き合った。それを見ていた老人はニッコリと微笑んだ。


「よかったですな。あなたの心が通じたのじゃ。これでお父様はよくなられよう。」

「これもあなたのおかげでございます。なんとお礼を申したらいいか・・・」


コーディーは涙を拭きながら言った。


「いや、あなたがお父様のために心を尽くしたからじゃ。よかったのう。」


老人は笑顔でうなずいた。そしてナギノに向かって尋ねた。


「ところでリーマーさんが回復されたのだから、息子さんたちにお伝えしなくては?」

「いえ、タロイ様もジロイ様も今は新しいチョコレート作りに夢中になっておられて、旦那様のことなど頭にないようでございます。」


ナギノの言葉に老人は眉をひそめた。


「そちらの方が大事なのですかな?」

「なんでも王様から試作を命じられているとかで、ハークレイ法師様をも驚かすようなものをご希望のようです。ですのでこちらのことは気にしておられないでしょう。確か、明日午後に、スマト大臣の屋敷で審査があるようです。優れた方が王様に献上されるとかでタロイ様もジロイ様もかかりきりになっているようでございます。」


それを聞いた老人は何か、思いついたようだった。


「そうですか・・・。ところでお嬢さんにお願いしたいことがあります。」

「何でございましょうか?」

「これと同じチョコレートを作って、明日、スマト大臣の屋敷に私とともに来ていただきたいのです。」

「え、何のために?」


コーディーは驚いて尋ねた。彼女は、新しいチョコレートを審査している場所にそんなものを持っていってどうするのかと疑問に思った。


「いや、来ていただければわかります。あなた方、家族をつなぐためです。お願いしましたぞ。」


老人はそう言った。コーディーやナギノはその意味が全く分からなかった。コーディーはただ


「はい。それはもう・・・」


と返事をするしかなかった。


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