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第2話 兄弟の争い

 王宮にチョコレートの工房の主たちが呼び出されていた。こんなことは珍しかった。ただ王様がたまにとんでもないことを思いつくことがあり、彼らは少し不安を抱えて、呼びつけたスマト大臣を待った。


「一体、何のためだろう?」

「何か聞いていないか?」

「いや、知らない。また王様が突飛なことを思いつかれたのか?」


工房主たちが口々にしゃべる中、スマト大臣がそこに現れた。1つ咳払いをすると話だした。


「皆の者、ご苦労。今日来てもらったのには皆に頼みたいことがあるからだ。王様は新しいチョコレートを希望されておられる。それも稀代の方術師のハークレイ法師様をも驚かすようなものだ。各工房で工夫して今までにないものをとおっしゃっておられる。」


それを聞いてほとんどの工房主たちは困惑したようで口々にささやき合った。


「新しいものをと仰せられても、なかなか急には・・・。それにハークレイ法師様をも驚かせるものなど・・・」


だがしばらくして、その中でも2人の若い工房主が手を挙げた。


「やらせていただきます。必ずやハークレイ法師様を驚かして御覧にいれます。」

「私が新しいチョコレートを作ってお見せします。お任せください。」


ようやく引き受ける者が現れた。それも今、チョコレート作りでよい評判の2人であったのでスマト大臣は安堵して喜んだ。


「おお、タロイとジロイか! お前たち兄弟でやってくれるか!」


スマト大臣はこの兄弟が共同でチョコレートを作ると思った。だがそうではなかった。タロイはジロイを睨みつけて言った。


「ジロイなど、奴にできるはずはございません! 私一人でやって見せます!」

「何だと! お前の方こそできもしないことを言いやがって! 私が必ず作り上げる。」


ジロイも言い返した。そして2人は立ち上がってにらみ合いになった。その2人を見てスマト大臣は困惑した。以前は仲がよい兄弟だったはずなのに、こうも張り合っていがみ合うとは・・・。


「これこれ! 争うのではない。よかろう。2人とも1週間後に新しいチョコレートを作って私の屋敷に持って参れ。そのうちの一つを王様にお見せしよう。」


スマト大臣が2人をなだめるように言った。タロイとジロイはお互いににらみ合いながら言った。


「俺のが選ばれるのに決まっている!」

「フン!お前なんかに負けるものか!」


険悪な雰囲気に他の工房主はその場からさっさと去り、スマト大臣は先が思いやられるとため息をついた。




クオン町はチョコレート作りの町として有名であり、その町自体も城下町として大いに栄えていた。特にここの大通りには出店が立ち並び、普段は多くの人々でにぎわっていた。だが今日のその大通りは騒然としていた。職人風の男たちが2組に分かれてにらみ合っていたのだった。


「ジロイ工房のお前たちはいつもひどいことしやがって! やい! オットー! 」

「なにを! アニー! 貴様らタロイ工房の奴らが俺たちにとんだ言いがかりを吹っ掛けてきているんだろう!」

「やるか! 今までの借りを返してやろう!」

「こっちこそ! 今日はいいところで会った! 逃がさねえぜ!」


2組の職人たちが取っ組み合いの喧嘩を始めた。その騒ぎで通りの出店は壊され、そこを歩き人たちは逃げ惑った。


そこに方術師の老人が通りかかった。職人たちの喧嘩で町の人たちが大いに迷惑しているのが目に入った。


「これはいかん! 人様の迷惑も考えずに・・・。キリン! ゲンブ!」


老人がそう言うと、背後から赤い服を着た男と山のような大男が現れた。


「喧嘩を止めてきなさい。少々手荒くてもよい!」

「はっ!」


キリンとゲンブは取っ組み合いをしている職人の間に入った。キリンは引き離すと、それぞれに当て身を食らわせた。ゲンブは職人たちを次々に投げ飛ばしていった。


「いてえ!」「いてて!」


職人たちの悲鳴が上がった。あっという間に彼ら全員が地面に倒れ込んだ。


「町の皆さんが迷惑しておる。この辺でやめてくれんかの?」


老人がその職人たちの前に出てきてそう言った。


「何を! このくそじじい!」


職人たちは悪態をつくが、その老人の後ろにキリンとゲンブが両手を鳴らして立っているのを見て、


「お、覚えておきやがれ!」


と這々の体で逃げ出していった。それでようやく大通りは静かになった。逃げていた人たちも戻ってきた。老人は周囲を見渡してつぶやいた。


「やれやれ。」


辺りはひどいありさまだった。出店は壊され、ケガをした人もいた。


「大変な目に合いましたな?」


老人はそばにいた商人にやさしく話しかけた。


「喧嘩を止めて下さってありがとうございます。タロイ工房とジロイ工房の奴らはいつもやり合っていますから・・・。実の兄弟の工房だというのに。」


そう言って商人は辺りをかたづけ始めた。他の人たちもいつものことだというようにあきらめたようにため息をついてかたづけていた。


「兄弟の工房が・・・。ふむ・・・」


老人は懐から水晶玉を取り出した。


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