表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/73

8話 ロンの魔法【ロン視点】

 僕は人差し指の先に2センチ程度の小さな炎を浮かべる。

 空気の揺らめきに、今にも消えてしまいそうだが、なんとか形状を保っている。

 まるで洞窟の中のろうそくのように。


 僕の作り出した炎を見て、トド隊長は笑いを吹きだす。


「なんだ、その可愛らしい炎は」


 ハッハハハハと、腹を抱えながら大笑いをしている。


「タバコの火でもつけてくれるがんすか。

 さすがは、魔法使いがんす。

 実に素晴らしいでがんすよ」


 トド隊長は机に置いてあった葉巻を、一本手にとる。


「僕は下級魔法使いだからね。

 この程度の魔法しか使うことができない」


 僕は炎の灯った左手を、体の前にだす。

 そして右手を炎に近づける。


「でも炎は炎だ。

 ちゃんと熱いし、物を燃やすこともできる。


 それにこの炎にはちゃんと重さがある。

 だから、こんなこともできる」


 僕はその小さい炎を、ビー玉を飛ばすみたいに、右手の中指で弾く。

 炎は、はじけとぶ洋服のボタンのような速さで、トド隊長に激突する。


 それはトド隊長のおでこにぶつかり、衝撃でトド隊長の頭部が後ろにのけぞる。

 額には赤い跡が残る。

 ちゃんと火傷をおったようだ。

 手に持った葉巻が落ちる。


「ちょこざいな」トド隊長が額を手でこする。


「そんな攻撃、たいして効きはせんでがんす」


「たしかに威力は弱いよ。

 とても弱い。


 だから僕はこう使う」


 左手の指5本に、炎が同時にあがる。

 5つの小さい炎が浮かぶ。

 右手の親指以外の4本の指で、それを弾く。


 5つの炎が、先ほどと同じように高速でトドの隊長の顔面に当たる。

 首がもげるのではないかというくらい、頭部が後ろに折れ曲がる。


 それでもトド隊長は倒れなかった。

 首を戻して、僕をにらみながら、叫んでくる。


「ウキー」と猿のような奇声を発する。


 トド隊長は剣を構える。


 僕はさらに左手に炎を5つ作る。

 そして弾く。


 トド隊長は炎にまったく反応することができない。

 また全弾、顔に命中する。


 僕は手を休めない。

 5つの炎を作り、また弾く。

 さらに5つの炎を作り、また弾く。

 さらに、さらに5つの炎を作り、また弾く。


 デッドボールがストライクとカントされる野球で、キャッチャーがバッターにボールを投げつけているかのように、炎がトド隊長の顔にぶつかっていく。


 トド隊長の顔は腫れあがり、真っ赤になっていく。


「汚いでがんす。卑怯でがんす」トド隊長が叫ぶ。


「こんなのハメ技がんす。

 ルール違反でがんす」


 トド隊長がしゃべっているうちにも、炎は次々と命中している。

 トド隊長の顔はもはや原型をとどめていない。


 僕ははここで一度、手を止める。


「命をかけた戦闘に汚いも綺麗もないと思うのだけどね。

 ましてやハメ技は評価こそされ、けなされる言われはないはずだけど。


 それともトド隊長の剣は、『待った』ありのお遊び剣術なんですかね〜」


「うるさい。

 わしが剣を一振りでもできれば、貴様などすぐに倒してみせる」


「そうですか。

 では、剣を振って構いませんよ」と僕が言う。


 トド隊長は僕の言葉に叫ぶ。


「ふざけやがって」剣を両手に持ち、大きく振りかぶり、ロンの頭上に振り落とす。


 僕は右にワンステップする。

 トド隊長の剣は空を切る。

 勢いのまま、地面に剣が突き刺さる。


 トド隊長の剣を僕は簡単にかわす。

 腫れあがった瞼を、大きく開いてトド隊長が驚愕する。


 5つの炎を手のひらに浮かべる。


「待っで、待っで、やめでがんず、まっで」


 僕はトド隊長の言葉を無視して、炎を放つ。

 5つの炎は綺麗にトド隊長の顔面にぶつかる。


 すぐさま、僕は新たな炎を作り放つ。

 直撃する。

 また炎を作り、放つ。

 直撃する。


 超近距離からの攻撃だ。

 炎から逃れるすべは、トド隊長にはない。


「ごめんなざい、ごめんなざいがんず、ごがんなざんがんず、」


 トド隊長はもはや人とは認識できない顔で懇願する。


 僕は、今更謝罪をしだすトド隊長の不用意に開かれている口の中に、炎を打つ。

 それは見事に、トド隊長の口内に吸い込まれ、喉を直撃する。

 トド隊長は声にならない叫びをあげる。

 そしてそのまま、後ろに倒れる。


 床に仰向けになり、大の字で寝転ぶ。

 体はピクピクと痙攣を繰り返していた。

 完全に気を失っている。


 大隊長を倒した僕を見て、副隊長が言葉を詰まらせている。

 剣士が、それも上級剣士が、魔法使いに接近戦で負けたのである。


 それも隊長は手も足も出ていなかった。

 その事実に彼女の常識ではついていけなかったのだろう。


 護衛ふたりも同じように、驚きで固まっている。


 副隊長に剣を突きつけているリンは、反対に嬉しそうに微笑んでいた。


 僕はポケットから飴玉を取りだす。

 包装をはずして、口に入れる。


 この飴はノンシュガーのはずなのに、戦闘のあとはいつも甘味を感じる。

明日は15時15分ごろ投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ