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71話 凱旋

 ロンたち第4大隊は、大歓声のもと迎えいれられた。


 王都アステルの大通りを行進する第4大隊に、沿道に集まった市民たちが、拍手と喝采を送っている。


 全国民が第4大隊をたたえていた。

 そして、この後、国王の間に招かれ、叙勲を受けることになっている。


 第4大隊の今回の勝利はそれだけ偉大なことであった。

 単なる一戦局に勝利をしたわけではない。

 ロンたちは国の戦争に勝利したのだ。

 十数年続いていた戦争を終らせたのだ。


 ゴデル国との戦争はアステル国が優位に進めていた。

 しかし、最後の一押しができなかった。

 決定的な勝利にまでもっていけずにいた。


 そのために10年以上も争いがつづき、軍事費と被害を積み重ねていた。

 なかなか終結しないこの戦争に、誰もが心の中では嫌気を覚えていたのだ。


 第4大隊は、そんな相手を見事に殲滅したのだ。

 ようやく長年わずらわされた目の上のこぶがとれた。


 国がお祭り騒ぎになるのも当然であった。


 パレードは王城へと移動していく。


 第4大隊が城内へと入ると、広い祝賀会場へと案内される。

 ここで待機しているように言われる。


 会場内にはもうすでに、いくつかの料理が運び込まれており、兵士たちの臭覚を刺激した。


 ロンとティラ、それとリンのみは、別の場所へと案内された。

 そこは王の間であった。


 玉座にはアステル国王が座り、国の重鎮全員が列を作り、ロンたちを出迎える。


 3人は玉座の前まで進むと、膝まづき頭を下げた。


「頭を上げんす」国王が言う。


 げんす。

 ロンは心の中で繰り返す。


 国王の身長は低い。

 150センチを超えていない。


 しかし横幅は反対に大きい。

 特大サイズであるはずの玉座が、窮屈そうに見える。

 腹の贅肉が、足の腿に大福のように積みあがっている。


 国王のこの姿に、ロンはデジャブを覚えた。


「此度のそなたたちの活躍、実に見事であったでげんす。

 褒めてつかわすでげんす」


 甲高い王の声が部屋に響く。


「ありがたきお言葉」とロンは、再度深く頭を下げる。


「褒美をくれてやる。

 なんでも言うてみろでげんす」


「はっ。

 今回の勝利によりゴデル国の領地が、我がアステル国のものとなったかと思います。


 そして、その領地の民のほとんどが魔法使いです」


 ロンの言葉を国王は静かに聞いている。

 頭を下げならが話すロンの、頭頂部をじっと見つめている。


「このアステル国では、魔法使いへの差別があります。

 魔法使いの人権はあってないようなものとなっています。


 各領地を治める領主にその扱いは任されていますが、ほとんどの地域で、魔法使いは奴隷よりも少し良い程度の保護しか受けておりません。


 これを機に、魔法使いの人権を明記した、法令を作っていただければと思っております。

 どうか、ご考慮をお願いいたします」


 ロンがさらに深く頭を下げる。


「うむ」と国王は一言うなる。


「やはり、お前は危険でげんす。

 あやまった存在でげんす。


 アステル国は剣の国。

 その剣の国のものが、魔法使いを優遇しようとするなど、信じられない愚考でげんす。


 お前のような魔法使いが、この国で英雄的行為をおこなってしまったことをひどく残念に思うぞ」


 この王の言葉に、ロンは頭をあげる。

 王の目を見る。

 王の視線には卑下の感情しかうかがえなかった。


 隣にいるティラの顔が蒼白となっている。


「ロン、お前、実はハルス家を追放されているようでげんすな」


 この言葉にはロンも驚いた。

 まさか、戦場での話がここまで伝わっているとは考えていなかった。


「しかし、追放はされておりますが、すぐにまたハルス家に戻っております。

 父の剣聖ハルスもそのように手続きをしていたはずです」


 父親を負かしたさいに、ハルスはそう言っていたはずだった。


「そのような報告はあがっていない」国王は言った。


 ロンは嘘だと、思った。

 どこかしらに、資料は残っているはずだ。

 残っていないとしたら、追放の方の資料もないはずだ。

 国王はロンが復帰している情報を握りつぶしている。


 ロンは王の間を見回す。

 ずらりと並ぶアステル国の重鎮たちの中に、カラム家の当主の顔があった。


 この事態をニヤニヤとしながら、眺めている。


 ロンはこいつが犯人だと悟った。

 カラム家には、ゴデル軍の本陣を攻め込ませている。

 賢者バスラの部隊によって、殲滅させられていたが、あの戦場にいた。


 戦場にはハルス家の軍もいたので、ハルス家の者と接触する機会もあったかもしれない。


 そして、そこでロンが追放されていることを知ったのだ。


 その情報を国王に密告したのだろう。


 ロンはカラム家当主をにらむ。

 しかし、カラム家当主はそのニヤついた顔を、ますますにやけさせてロンを見下ろしていた。


「ロン。お前はハルス家と無縁の人間でげんす。

 そのような者が、ハルス家の軍を動かしていたとなれば、それは大きな問題でげんす。

 なんの権利もない者が、軍隊を使ったのだ。


 その暴力的行為を私は見逃すことはできないでげんす。


 ロン、お前には罰が必要でげんす。


 とっても、とっても、お痛なお仕置きが必要でげんす」


 国王がポケットよりナイフを取りだす。

 手首を軽く振って、そのナイフをロンに投げる。


 ロンの顔の横を、そのナイフは通りすぎる。

 頬に一筋の傷が走り、そこから血が落ちる。


 国王はニタリと口を大きく広げる。

 それはアマガエルが笑っているみたいな顔だった。


「前から頭の悪い王だとは思っていました。

 でもまさかここまでバカだとは思いませんでした」


 ロンはゆっくりと立ち上がる。


 まわりにいた家臣や警備兵が、次々と剣を抜く。


「貴様、王に対して無礼だぞ」


「アステル国王、僕は別にお願いをしているわけではないんですよ。


 魔法使いに人権を与えろと命令をしているんです。


 あなたは馬鹿なのでそのことにまったく気付けていない。

 その低脳ぶりには、驚くばかりです。

 よくこれまでそれで王が務まったものです」


 ロンにあわせて、リンも立ち上がる。

 リンは腰から剣をゆっくりと抜く。


「アステル国王、今からお前の人権はなくなる。


 これまで魔法使いにしてきた行いを、少しでも悔いてもらえると嬉しいのだけど」


 ロンも剣を抜いた。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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