表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/73

7話 合流【ロン視点】

 ゴデル国の兵士を無事に倒した僕たちは、そのまま第4大隊のもとへと進んでいく。


 その後は敵に遭遇するとこもなく、半日後には第4大隊の拠点へとたどり着くことができた。


 一応、僕が新たに隊に加入されることは伝わっており、見張りの兵は、司令部のテントへとすぐに案内してくれた。


 テントに入ると、トドのような男が座っているのがすぐに目にはいった。

 とても大きい男で、椅子はその肉体にすっぽりと隠れ、デスクがちゃぶ台のように小さく見えた。


 浅黒い肌が、油でテカっている。

 まだ40代中盤のはずだが、肉はたるみ、精悍さが失われていた。

 この男が第4大隊の隊長だった。


 彼の両脇には2名の護衛の兵士と、その後ろに副隊長である女性が立っていた。


「ロンでがんすな」とトドのような大隊長は言った。


 がんす?


「はい」と僕は姿勢を正してこたえる。


「返事の姿勢が汚いでがんす」


 大隊長が机に置いてあった指示棒で、僕の脇腹を打つ。


「罰として、おまえの今日の夕食は芋虫の卵かけ丼でがんす。

 かける卵はもちろんカマキリの卵でがんす」


 大隊長は、なにがそんなに嬉しいのか、満面の笑みを浮かべている。

 テカった顔が、ますますぬるぬるして見える。


 この大隊長とは面識があった。

 何度か顔を合わせている。

 会話も交わしたこともある。


 これまで、僕はハルス家の長男だった。

 当時は僕に対して、ひどくへりくだった態度だったのを覚えている。

 靴でも舐めるんじゃないかというくらいのお辞儀をしてきた。


 しかし僕は家を追放された。

 僕はいち兵士でしかなくなった。


 つまりこの男の部下であり、立場が下になった。

 その途端、おまえ呼ばわりの、この態度である。


「その後ろにいる仮面の女はなんだ」


 大隊長が僕の後ろにいるリンを見て言う。

 リンには仮面をかぶってもらっている。


 リンは弟の従者だった。

 その美貌もあって、意外と軍の中では有名人であった。


 そのリンが僕についてきているとわかると意外と面倒だ。

 父親もこのままリンを放っておくとも思えない。


「彼女は僕と一緒に追放された僕の従者です」僕はこたえる。


「どうして仮面をかぶっているでがんす?」


「彼女は昨年顔に大きな火傷を負いました。

 ひどい焼け跡のため、仮面をかぶらせています」


 前もって用意していた、言い訳を述べる。


 トド隊長はリンを見つめる。

 仮面を見ていた視線をしだいに下へおろしていく。

 胸、腰、足と眺める。

 小さい口から、舌を出して上唇を舐める。

 舌舐めずりで、唇が唾液で濡れる。


「仮面女は今夜22時に僕のテントにくるでがんす」


 トド隊長は、リンの腰を凝視しながら、体を震わすように一度しゃっくりをする。


 僕は咳をひとつつく。

 空気が気持ち悪い。


「お断りします」と僕は言う。


 トド隊長は、豆鉄砲をくらったトドのような顔をする。


「上官の命令だがんす。


 断るとか、そういうのはないでがんす。

 おまえに僕に逆らう権利は、いっさいないでがんす。


 おまえはただ、僕の言うことに従うしかできないでがんす」


「それがどうした。

 断ると言っているんだ。


 おまえのような無能なトド隊長の命令なんて聞いてられないんだよ」


 トド隊長がトドらしからぬ、タコのように顔を真っ赤にしていく。

「貴様、何様のつもりだ」机を両手で叩き、立ちあがる。


「僕は疑問に思っていたんだ。

 いくらゴデル国の戦略が優れていたからといっても、第4大隊はあまりに簡単に敗北してしまった。

 第4大隊にはそちらの副隊長のティラ殿をはじめ、優秀な戦士が多数いる。


 少しくらい戦況が悪くなろうが、ひっくり返す実力は充分あったはずだ。

 現在のような危機的状況になるのは早すぎる。不可解だった。


 でもおまえを見て納得したよ。


 トドが司令官をやっていれば、そうなるよな。


 おっお、おっお、と鳴き声をあげながら、たるんだ体をのたうちまわすしか脳がない、トド隊長では、全滅も必然だ」


「ふざけるな」トドが怒鳴る。


「副隊長、こいつを殺せ」


 トド隊長の後ろにひかえていた、女性騎士が剣を握る。


「リン」と僕は声をかける。


 声が響くと同時に、リンはすでに副隊長の後ろに移動していた。

 副隊長の首に、剣をつきあてている。


「すこしでもおかしな行動をしたら、殺します」をリンが(ささや)く。


 副隊長はおとなしく剣の柄から手を離す。


「おまえ自分が何をしているのか、わかっているのか」トド隊長がリンの動きの早さに、驚きながらも言う。


「ええ、わかっていますよ。

 僕とリンならば、ここにいる4人を殺すのは、さほど難しいことではない」


「低能魔法使いが、いきがるな。

 仮面の女がいなければ、おまえなんて何もできはしないじゃないか」


「たしかに僕は下級魔法使いだ。


 でもね。この下級魔法使いにすら、あんたは敵わないだよ。


 いい機会だ。現実を教えてあげよう。


 トド隊長。剣を抜いてください。

 決闘をしましょう」


 僕は腰にさげていた剣を、床に()()()()()

 僕は武器を持たず、丸腰になる。


「魔法使いの力を教えてさしあげますよ」


 僕は指先に炎を灯す。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ