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61話 血のつながり

「私はハルス様の愛人の子供なんです。

 隠し子というやつですね」


 そう言われてみると、リンの顔には剣聖ハルスの面影があった。

 少しつり上がった目元が、よく似ていた。


「ハルス様の正妻、ウルム様はとても綺麗なお方でした。

 あのような美しい奥様がいらっしゃるのに、浮気されるとはまったくもって殿方というのはどうしようもない生き物です。


 ウルム様は弟のラガン様を出産された際に、残念ながらお亡くなりになられました。

 美人薄命です。


 私が死ぬのも早いでしょう。

 これほどの美少女です。

 10代のうちに死んでしまうかもしれません。


 悲しいことですが、美人の宿命です」


 リンがなんだか物思いにふけりながら、天井を見ている。


「大丈夫だ、リン。

 お前のその異常な強さがあれば、戦場で死ぬことはない」ティラが言う。


「変なものを拾って食って死にそうだけどな」とロンが言う。


「拾い食いですか。

 気をつけます」リンが真剣な顔で納得する。


「地面に触れた部分はやはり危険ですね。

 これからはセーフティーな、地面に触れていない上部のみを食べることにします」


「拾い食いをやめろ。

 拾い食いをするような美女は、もはや美女ではない」ロンが哀れな妹に注意をする。


「拾い食いをすると、美女でなくなるのですか!


 それは薄命でなくなるということになります。


 つまり拾い食いをじゃんじゃんしろということになります。

 この絶対的美貌を保ちながら長寿を(まっと)うできるとは、拾い食い、恐るべきです。


 これからは積極的に拾い食いをしていこうかと思います。


 地面にアイスクリームを落とした時の悲しみも、これでだいぶ軽減されるでしょう」


「リンが薄命でなくなって、良かったよ」面倒臭くなったロンが言う。


「はい、とても嬉しく思います」リンが笑顔で言う。


「ウルム様が亡くなられると、私はハルス家の使用人として雇われました。


 ハルス様も一応は私に対して、少しは子供としての愛情があったのでしょう。

 気のひける奥様がいなくなると、すぐに私をそばに呼びよせました。


 そして私は、使用人としては特別に剣の修行をすることを許されていました。

 剣聖の血をひくの私には、剣の才能がありました。


 私の剣の才能は尋常ではありませんでした。


 これは自慢ですが、私はこれまで一度として負けたことがありません。

 無敗を誇っています。


 これは公式戦で負けたことがないとか、そんな条件付きの無敗ではありません。


 私は剣を持って向き合った相手には、一度として負けたことがないのです。

 それは練習も含みます。


 5才の時にはじめて剣の道場へ、足を踏み入れました。

 生まれてはじめて木刀を持ちました。


 まず上級生の男の子が、私に剣の振り方を教えてくれました。

 その後、簡単な練習試合をすることになりました。


 私が剣を一振りすると、男の子は倒れました。

 手加減というものを知らなかったので、その子はそのまま病院に運ばれました。


 申し訳ないと思いましたが、全力で打ってこいと言ったのは向こうです。

 初心者の私の剣をちゃんと受けられなかった相手に責任があるように思いました。


 しかし、大人たちはそうは思わなかったようです。

 暴力的な女の子は、あまり好かれません。


 その道場の師範が次に私と手合わせすることになりました。

 剣の厳しさを教えようとしたのでしょう。


 しかし、数分後にはその師範が病院に運ばれていきました。


 その後、私は結構有名になりました。

 ハルス家の使用人でしかない私は、大ぴらに道場に通うことはできませんでしたが、知る人は知る神童となっていました。


 そして剣を始めて1年後、私はついに父であるハルス様と剣を合わせることとなりました。

 私の噂を聞いて、ハルス様は興味を持たれたのです。


 結果は、私の勝利でした。

 さすがに、かなり苦戦をしましたが、なんとか勝つことができました。


 ハルス様は信じられないと、私に何度か再戦を挑んできました。

 しかし、そのすべてに私は勝つことができました。


 むしろ、回を重ねるほど、私は楽にハルス様を負かすことができるようになっていきました。


 そして、ハルス様は私の実力を知り、私を優遇するようになりました。

 もともと、ハルス様の実の子供だったので、ある程度優遇はされていました。

 しかし、私の強さを知って以降は、絶対的な優遇がされるようになりました。


 おそらく、毎月のお小遣いはロン様よりも上だと思います。


 まあ、当然です。

 私さえいれば、ハルス家の将来は安泰なのですから。

 私がいれば、アステル国の最高の剣士は、絶対にハルス家から出ることになる。


 ハルス様のふたりの息子、つまりロン様とラガン様は、正直言いまして、あまり剣が優れていなかった。

 ロン様は魔法使いですので当然として、ラガン様も上級剣士ではありましたが、パッとしていませんでした。

 ラガン様は努力もしませんでしたし。


 ハルス家の将来には大きな不安がありました。

 しかし私が現れたおかげで、その不安はなくなりました。

 むしろハルス家はさらなる高みにすら立つことすら可能になりました。


 現在、私は使用人という立場ですが、ハルス様は将来的には、ハルス家の重役にすえるつもりだったようです。


 私はそういう立場にいる存在だったのです」


 リンのこの話には、さすがのロンも驚いた。

 6才で剣聖に勝つ。

 リンの強さの異常さが、さらに増した。


「ティラさん、安心してください。

 私とロン様でしたら、3,500人の兵だろうと、魔剣千本だろうと、剣聖ムヒドだろうと、ちょちょいと倒してきてみせますよ。


 ロン様を危険な目には合わせません」


 そうリンが言った。


 ティラはリンに優しく微笑んで、そして、これまでの使用人に対する態度ではなく、まるで上官に接するかのように、深々と頭を下げた。


「よろしくお願いいたします」


「ちょ、ちょ、やめてくださいよー。

 そんなにかしこまんないでくださいー。


 今はまだ、いち使用人でしかないのですから」


 リンがティラに頭を上げるようにうながす。


「私にへりくだり、靴先を舐めてもらうのは、ちゃんと私が出世してからです。


 その時はいっぱい私に賄賂を贈ってくださいね。

 ティラ様でしたら、悪いようにはしませんから」


 リンが真剣な眼差しで、ティラに言った。


 ティラとロンが、新たな脅威に気がついた瞬間であった。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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