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55話 賢者 vs 下級魔法使い5

 本来は魔法使いはひとつの属性の魔法しか扱うことができない。


 扱えはするが、自分の適性属性以外の魔法は威力が落ちる。

 扱える魔法の種類も限定的だ。

 上級魔法使いでも、他の属性の中級魔法はほとんど使えない。


 雷帝シュルムは、雷魔法と移動魔法を使っていた。

 彼の適性属性は雷である。

 移動魔法の適性はない。


 そのため彼の習得している移動魔法は、かなり限定的なものだった。

 1日に3度しか行えなかったし、1回使うだけで4分の1の魔力を消費していた。

 距離は2キロ以内であり、発動する場所を10分以上見ていないといけなかった。


 術式を組み上げるのには6時間以上かかりもした。

 事前に準備をしていないと、戦闘では使えなかった。


 シュルムはこの移動魔法を覚えるのに、10年以上を要している。

 幼い頃から鍛錬を積んでようやく使用できるようになった。


 雷魔法よりも練習時間は多かった。


 それも秀才であるシュルムだったからそこ習得可能だったことだ。

 他の魔法使いでは、瞬間移動を習得することは難しかっただろう。


 移動魔法に適性のある魔法使いであれば、1年も修行をすれば瞬間移動を使えるようになる。

 それもシュルムよりも圧倒的に優れた瞬間移動を行えた。


 術式は10分程度で組めたし、発動する場所を見ている必要もない。

 必要な魔力はシュルムの100分の1であるし、移動距離も10倍は伸びた。


 適性のあるなしは、それほどまでに大きな差があった。


 賢者はこの適性魔法が3属性ある。

 ただですら、強力な魔法が使えるのに、さらにその種類まで多いのだ。


 バスラの場合は、攻撃力の高い火の属性魔法と、ユニーク属性である闇魔法。

 それに加えて時魔法が使えた。


 この時魔法もユニーク属性である。

 ユニーク属性はたいてい優れたものであったが、時魔法はその中でもさらに強力であった。


 何しろ時間を操れるのだから。

 やろうと思えば時間すら止められる。


 ただし、時間を止めるには膨大な量の魔力を必要としていた。

 賢者の満タンの魔力でも、0.5秒間止められる程度であった。


 これは短すぎるし、そのあと魔力が0になっては大変である。

 賢者は練習以外で時間停止の魔法を使うことはほとんどなかった。


 ジャンケンをするときにたまに使うぐらいだ。

 それも大人になるとジャンケンをする機会も少なくなっていく。


 そのためバスラの時魔法は、時間の速度変更に使われた。

 時間の流れを速めたり、遅めたりをおこなった。


 バスラは自分の時間だけ他のものよりも10倍進みを遅くした。

 1秒経過するのに10秒かかるようにした。


 つまり他者よりも10倍のスピードで動くことができた。


 バスラはこれにより魔法の発動時間を短くしたのである。

 バスラの魔法発動時間は10分の1となった。


 さらに炎が爆発する瞬間にも時魔法を使っている。

 爆発のスピードを10倍速にしていた。


 剣士の動体視力を持ってしても、そのスピードに対応することは不可能だった。


 次の巨大な炎が10個、バスラの周りに浮かびあがっている。

 先ほどの炎よりもさらに巨大だった。


 バスラが、左手を空にかかげる。


 次の瞬間、炎はさらに倍の大きさとなった。

 炎の熱が、離れたところにいるロンにまで届いていた。

 ロンの額に浮かんでいた汗が、勢いよくこぼれ落ちる。


「ロン、お前はたしかに天才だ。

 魔法技術に関しては、もはや賢者である私より上といっていい。


 術式を組むスピード、魔力の効率的使用、魔力の流れの検知。

 残念だがどれもお前の方が勝っている。


 しかし、私は賢者で、お前は下級魔法使いだ。

 そこには埋めることのできない能力の差というものが存在する。


 賢者の力の前では、どうあがいてもやはりその差は埋められない。


 魔法発動のスピードを最速にしようと、どれほどの工夫と努力をしようと、賢者である私に敵うことはない。


 ロン、お前の負けだ」


 バスラがあげていた腕を振り下ろす。

 10個の巨大な炎が一斉に解き放たれる。


 迫りくる炎で、視界がいっぱいになる。


 第4大隊の兵士はその迫力に、目をつむってしまう。

 回避は不可能だった。


 しかし、()()()()()

 10個の炎が、パッと消失する。


 シャボン玉が割れたかのように、消え去った。


 何が起きたのかはわからなかったが、全員が無事であった。

 炎の攻撃は完全になくなっていた。


 バスラが口を開けたまま、硬直している。

 バスラも何が起きたのかわかっていない。

 状況が理解できなかった。


 しかし、誰が炎を消し去ったかは明白だった。


 バスラはロンをにらみつける。


 ロンは得意げに笑顔を浮かべている。

 ポケットからハンカチを取りだして、汗を軽く拭う。

 ハンカチをまたたたみなおして、ポケットにしまう。


「何をした」バスラが言う。


「あなたの魔法をキャンセルしただけです。


 言ったでしょう。

 あなたがどのような魔法を使ってこようが、僕はそれを破ると」


 バスラが新たに20の炎を作り上げる。

 時魔法を継続したまま、その炎を放つ。


 10倍のスピードでそれらはすべてロンに向かう。


 しかし、ロンに当たる直前でそれらは消滅する。

 炎がロンに届くことはなかった。


 ロンが笑みを深める。


 バスラの手が震えていた。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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