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54話 賢者 vs 下級魔法使い4

 バスラは炎を作りだそうとする。

 右上に火の玉が浮かぶ。


 しかし、ロンの放った小さい5つの炎がその種火を撃ち抜く。


 バスラの魔法が完成する前に、消されてしまう。


 バスラは火魔法で巨大な炎を作りだそうとしていた。

 それはハルス軍500名全員をまとめて攻撃できるほどのものだった。


 しかし、それほど大きな炎を作るには時間がかかる。


 炎が大きく燃えあがるまでは、数瞬ではあるが時間がかかる。

 完成する前の炎はもろい。

 簡単に壊れてしまう。


 ロンはその未完成の炎に正確に攻撃していた。


 本来であればこのようなことは起こらない。

 炎が完成するのに時間がかかるといっても、1秒もその時間はない。


 そして賢者であるバスラがどこにその種火となる火を作りだすかもわからない。

 狙いを定めにくい。

 さらに、敵から距離を置いているので、剣などでは間に合わない。

 長距離の攻撃でないといけない。


 これらの条件を考えると、魔法が完成する前に壊してしまうというのは、かなり困難なことであった。


 しかし、ロンだけはそれを可能としていた。


 ロンは魔法使いである。

 当然、剣よりも魔法の才能の方がある。

 下級魔法使いとはいえ、体は魔法に適している。


 ティラや父親と戦った時に、ロンは剣の癖を見つけて、その攻撃のタイミングを予想していた。

 魔法でも同じようなことができる。

 相手の体の魔力の流れや、予備動作でそれがわかる。


 魔法には詠唱も必要としているので、さらに分かりやすい。


 そして魔法使いであるロンは、剣よりもこの魔法の癖を見つける方がずっと優れた能力を持っていた。


 ロンはバスラの魔法発動タイミングの癖を、すでに見つけていたのだ。


 剣術には相手に初動を悟らせないために、予備動作を隠す技術が多数存在する。

 しかし、遠距離戦を基本としている魔法にはそれがほとんどない。

 ロンにとっては魔法発動のタイミングを知ることは、難しいことではなかった。


 そしてロンには小さい炎という飛び道具がある。


 この魔法は初級魔法であるため、簡単に作れる。

 つまり、時間をかけずに作りだすことができる。


 軽いためにスピードも速い。


 さらにロンは魔法の効率化を追求している。

 バスラたちゴデル国の魔法使いが、魔法の威力を追求しているのに対して、ロンは魔法の効率を優先していた。


 いかに少ない魔力で、いかに早く魔法を繰りだせるか。

 それをロンは目指して、研鑽していた。


 おかげでロンの炎魔法は、ほとんど無詠唱で発動し、0.01秒もせずに出現させることができる。


 ロンのこの小さい炎は、相手の魔法の種火を消すのにうってつけであった。


 バスラがさらに炎を作りだそうとする。

 今度はいっぺんに10個の炎を作る。


 しかし、ロンも片手に10の炎を作り、そのことごとくを撃ち落とす。


 バスラが奥歯を強く噛み、顔をしかめる。

 ジリジリと近づいてきている、リンとティラの姿を視界の端で確かめる。


 このふたりの剣士を間合いに入れてしまっては、さすがの賢者も打つ手はない。


 バスラの状況は時間が経つほど、不利になっていっていた。


「まさか、こんなところでこの魔法を使うことになるとは。

 手の内は隠しておきたかったのだけどな。


 切り札というのは、見せないからこそ、切り札たり得る。

 使わなくて良いのなら、一生使わずにいるべきなのだが」


 バスラの周りに10の巨大な炎が燃えあがる。

 それは完成された炎の魔法であった。


 ロンが驚きのために、目を見開く。


 バスラはロンと同じく、一瞬で炎を魔法を発動させていた。

 しかもロンとは違い、超上級魔法を。


 ロンの額に汗が流れる。

 バスラが魔法を発動しようとするタイミングはわかっていた。

 しかし、次の瞬間にはもう、魔法は完成させられていた。


 その炎の前に、ロンの小さい炎など無力に等しかった。

 ためしに放ってみるが、小さい炎はただその巨大な炎に吸い込まれるのみだった。


 バスラが10個の炎を放つ。

 2つがリンとティラに、残りの8個が第4大隊の500名の兵士のもとへ飛んでいく。


 巨大な炎の玉は、近づいてくる直前で爆発をする。

 襲い来る爆風に兵士たちが吹き飛ばされる。


 前方にいた半数近くの兵士たちが、地面に倒される。


 リンとティラも爆発が直撃してしまう。


 リンは剣を前方で扇風機のように回転させることで、炎が直撃しないようにしていた。

 超人的な剣速に、炎はすべて切り刻まれた。

 しかし、風圧はどうしようもなかった。


 細身であるリンは、爆風の勢いのままに、かなり後方まで吹き飛ばされる。


 猫のようなバランス感覚で、地面へと綺麗に着地する。

 リンにダメージはない。

 しかし、後方に弾かれてしまったため、じわじわと詰めていたバスラとの距離が、また開いてしまう。


 ティラは爆発にまったく対処できなかった。

 炎が直撃する。


 しかし、ティラは全身を鎧で固めている。

 鎧も高品質のものだったので、ティラの体へのダメージは見た目ほど大きくはなかった。


 重たい鎧のおかげで、風圧にもある程度耐えられ、後退をあまりしていない。

 ただ、これをもう数発でも喰らえば、頑強なティラといえど、立ってはいられそうになかった。


 第4大隊の苦痛の声が、響く。

 半数の兵士が立ち上がれずにうめいている。


「私も速さには自信があってね。


 実は私の魔法でもっとも優れているのは、威力ではなく速さなんだよ。

 速さでは、私が絶対的に立てる」


 バスラが新たな炎を作りだす。

 ロンはまた、まったく反応できない。


「私は時間を操れる」賢者は言った。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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