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49話 賢者バスラと50名2

 ロンが一歩前に出る。

 バスラもそれに合わせて、一歩踏みでる。


 お互いにしばらくの間は戦闘を開始するつもりはなかった。


「賢者バスラだな。

 ずいぶん早い到着だな。


 2万の兵も賢者様にとっては取るにたらない相手だったのかな」


 ロンが言う。

 ロンは会話をしながら、必死にゴデル軍を観察する。


 目の前の50名は、2万の軍を短時間に殲滅させている。

 そこには、とてつもない威力の攻撃があったに違いない。

 それは魔道具によるものなのか、それとも魔法によるものなのか。

 賢者ひとりで行ったことなのか、それとも他の50の兵が行ったことなのか。


 ロンは必死にそれが何であるかを読み解こうとする。

 とにかく今は情報を取得することに全神経を集中させる。


 賢者以外の兵士は、筒状の鉄の棒を持っている。

 それが何かしらの意味がある武器であることは予想できる。

 しかし、どのように使うものなのかまではわからなかった。


 ただ、その武器は魔道具ではないようだった。

 魔力は込められているが、魔道具のように自発的に、効果が発揮されるものではない。

 数々の魔道具を調べてきたロンには、そのことがわかった。


 ロンは相手を観察をすることで、相手の戦力を解き明かしていっている。

 限界はあるが、今は少しでも会話を長引かせ、情報を収集する時間を作りたかった。


「1万だと思っていた相手が、急に2万になったからね。

 さすがにちょっと驚いたよ。


 ただ所詮は雑魚の集まりだったからね。

 なんとかなったよ。


 もしもカラム軍の襲撃を事前に知らなかったら、こちらにも少なからずダメージがあっただろう。


 ロンくん、君はずいぶん頭がまわるようだ。

 騙し討ちが実にうまい」


 第4大隊の兵士たちがざわつく。

 目の間にいる50名が、2万の兵士を倒しているのだ。


 それほどの相手とこれから戦いになるのだと思うと、背筋に冷たいものが流れた。


「賢者様もなかなかのものですよ。


 人の話を盗聴したり、発信機を仕込んであとをつけたり。


 実に見事な騙し討ちです」ロンがこたえる。


 バスラの顔がくもる。

 不快そうに目を細める。


 バスラは子供の頃から天才であった。

 10才になると賢者というジョブを授かり、誰からも敬われた。


 バスラはこれまでの人生で、直接的に批判をされることはほとんどなかった。


 なのでロンの自分を愚弄する言葉にも、すぐに感情を逆撫でされてしまう。


 まだ10代という若さのバスラには、それも仕方ないことだったのかもしれないが。


「剣聖の息子でありながら、無能な魔法使いのあなたらしい。

 口だけは達者だ」


「あなたのように、ただきらびやかなローブを着て、内容のないことをペチャクチャとしゃべっているだけで出世していける環境にはなかったもので。

 口も達者になってしまいました


 反対にロンは誹謗されることに慣れている。

 いつもどおりに言葉を返す。


「ロンよ。誤解をしないでほしいのだけど、私はお前のことを無能とは思っていない。

 反対に優秀だと思っている。

 雷帝シュルムを倒したのだから当然といえば当然だ。

 無能であるはずがない。


 それにこんなものまで扱うことができたとは。

 驚きを禁じえなかったよ」


 バスラがローブの裾より、5センチぐらいの大きさの玉を取りだす。

 その玉は水晶のように透明だった。


 指でつまんで、ロンに見せる。

 かなりの距離があったが、ロンはそれが何であるかわかった。


「どうしてそれを持っている」ロンから笑顔が消える。


 バスラが持っているものは魔道具だった。

 ロンが使っていた瞬間移動を可能にするあの魔道具だ。


 ハルス軍の本陣に置いてきた、対の片方であった。

 それは本来、ハルス軍の本陣にあるべきであり、ここにあるべきものではなかった。


「この魔道具は初めて見る。

 これは瞬間移動を可能にする魔道具であろう?


 瞬間移動は魔法でもできる。

 しかしそれはかなり限定的なものだ。


 距離に制限があったり、移動さする人物に制約があったりする。

 発動までに時間もかかるし、魔力も大量に消費する。

 私たちはここに来るのに、瞬間移動魔法を使ったが、ひとりの魔法使いの魔力はもう空になってしまった。

 3日間はろくに魔法も使えないだろう。


 しかし、この魔道具はそのようなことがない。

 かなり優れた魔道具だ。


 だがその分、扱いが難しい。

 現在は私でも扱えない。

 この魔道具の仕様を解読するのにかなりの時間がかかりそうだ。


 ロン、お前はこれを使える。

 アステル国という、魔法の劣った環境にいながら、このような高度な魔道具を使えるとは、本当に驚異的だ。


 魔道具の才能でいえば、賢者である私より上だ。

 私は君を尊敬しているのだよ」


 ロンはしばらくの間、黙っていた。

 バスラの手にある、魔道具の玉をにらむ。


「もう一度聞く。

 どうして、それがお前の手もとにあるんだ」


 バスラはニヤリと笑う。


「それがあった場所から持ってきただけだよ。

 私の仲間が届けてくれたのだ。

 こんなものがあったとね」


「それはハルス軍の本陣にあったはずだ。

 それも中心部に置いてあった。


 どうしてゴデル軍の者がそこから持ってこられるんだ。

 そんなことは不可能なはずだ」


 バスラは笑みをますます深める。


「簡単なことだ。

 ハルス軍の本陣の中心部まで、ゴデル軍が侵攻しただけのことだよ」

「それはつまり、」


「そう、ハルス軍本陣はもう壊滅しているよ」


 第4大隊の全員が固まる。


「お前の父、剣聖ハルスも、もうこの世にはいない」


 バスラが言う。

明日も午前7時ごろ投稿予定です。

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