表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/73

47話 50 vs 10,000

 1万の焼死体の中に、ひとりだけ生存者がいた。

 死体の敷きつめられた地面に、腰を抜かして座りこんでいる。


 それは弟のラガンであった。

 バスラはあえてラガンを殺さずにおいたのだ。

 彼には聞きたいことがある。


 バスラは死体を足でかき分けながら、ラガンの近くへ歩みよる。


 ラガンは口を開けて、ただ空を見上げていた。

 バスラが近くに来ても、何も反応を示さなかった。

 ラケットを忘れたテニスプレイヤーのように、ただ呆然としている。


「お前に聞きたいことがある」バスラが言う。


 声を聞いて、ラガンはようやくバスラの存在に注意をはらう。

 視線を空から、バスラに移す。


「ロンとは何者なんだ」バスラがラガンに問いかける。


「ロン?」ラガンがロンという名前に反応する。


「ロンロンロンロン。

 どういつもこいつも、ロンを気にしやがって。


 今度は賢者まで、ロンの話をしだす。

 あいつがなんだっていうんだ。


 あんな無能をなんで気にするんだ。

 剣聖の息子でありながら、魔法使いのジョブをえた、とんだ欠陥品だぞ。

 それも下級魔法使いだ。

 魔法すらろくに使えない」


 バスラが顔をしかめる。


「下級魔法使い? ロンという者は下級魔法使いなのか」


「ああ。

 ジョブを授かる瞬間には俺も立ち会っていてな。

 あの時は盛大に笑っちまったぜ。


 それなのに、あんな下級魔法使いがなんだっていうんだ。

 俺は上級剣士だぞ。


 どうして俺を見ない。

 どうしてロンばかりが注目されるんだ」


 ラガンはいきなり立ち上がる。

 落ちていた剣を拾う。


「下級魔法使い、、。そんなことがありえるのだろうか、、」


 バスラはラガンが武器を持ったことには気にもとめず、ロンのことを考えていた。


 その姿がラガンをますますいらつかせた。


 ラガンが手に持つ剣を振り上げる。


 バスラが手をはらう。

 ハエでも払うかのように、手首をサッと返す。


 次の瞬間、ラガンの全身が燃えていた。


 ラガンが叫ぶ。

 地面に倒れこみ、転げまわる。


「あ、」とバスラが声を漏らす。


「しまった。まだまだ聞きたいことはあったのに。

 やはり、接近戦と言うのはどうも苦手だ。

 なかなか手加減ができない。


 魔法使いは接近戦をする機会が少ないからな。

 どうも慣れていない。


 これからは、接近戦を多用していこうかな」


 バスラは拳大の火の玉を作る。

 それをラガンの頭部へと放つ。

 ラガンの首が吹き飛ぶ。


 ラガンの叫び声はなくなり、炎のメラメラと燃える音のみが残った。


 ラガンの死体を見下ろしながら、バスラは「ハルス家のロンか」と、何かを確認でもするかのようにつぶやく。




 賢者バスラが1万のハルス家の兵と交戦していた反対の方角では、50名のゴデル軍が1万のカラム軍と対峙していた。


 カラム軍を率いる大将ロイゾは、目の前の敵軍にやはり驚いた。

 当然である。

 何しろゴデル軍は50名しかいなのだから。


 ロイゾをさらに困惑させたのは、ゴデル軍の持つ武器である。

 彼らは鉄の筒状のものを持っていた。

 直径は5センチ程度で、1メートルほどの長さがある。

 それを両手で持っている。


 ロイゾはゴデル軍の新兵器に、不安を覚えた。

 しかしいつまでもここに突っ立っているわけにもいかない。


 それになんといっても、こちらには1万の兵がいるのだ。

 対する相手は50人である。


 さらにカラム家には優秀な魔法使いも多くいた。

 カラム家は魔法使いと剣士の両方で構成された部隊なのである。


 剣士と魔法使いがお互いに連携をとるこの部隊は、剣士だけの軍のような爆発力はないが、どんな状況にも対応できるバランス力があった。


 ゴデル国の魔法力にはかなわないが、カラム軍には充分な魔法対策もできていた。

 それに対処できる優秀な魔法使いがちゃんといた。


 相手がどのような魔法を使ってこようと、ある程度は対応できる自信があった。


 ロイゾは突入を命じた。

 ロイゾの振り下ろした腕を合図に、1万の兵士が50の魔法使いへ向けて突進する。


 ゴデル軍の持つ鉄の筒の先端が、一瞬光る。

 光を見るとほぼ同時に、ハルス軍の兵士の体を、鉄の玉が貫通していた。


 鎧を着て守られているはずの胸も、穴が空いている。


 ひとりの人間を貫通しても、玉の勢いはおさまらなかった。

 後ろにいる人間の肉体も、突き抜ける。

 なんとその玉は、一発で数十人の人間の体を貫通した。


 腕や足、胸や頭を、その玉は通りすぎていく。


 1万のハルス軍に血が吹き乱れる。


 さらにゴデル軍の魔法使いは、その玉を連射した。

 まるでシャボン玉でも飛ばすかのように、筒から鉄の玉を放ちつづける。


 数秒しか経過していないのに、死体の山ができあがる。


 ゴデル軍の使っているものは、この世界ではまだ発明されていない、銃であった。


 銃ではあったが、火薬は使われていない。

 その代わりに魔法を使っている。


 火属性の魔法から炎を爆発させる。

 もしくは風魔法で強力な風圧をかける。

 そうして、玉を弾きだしている。


 さらに、弾き出される玉にも魔力がこめられている。

 そのため、この鉄砲は機械科学で生みだされた銃よりもずっと強力であった。


 これは賢者の考案した新しい武器であった。

 魔道具ではない。

 魔法の新しい使い方を盛り込んだ、オリジナルの武器だ。


 カラム軍は何もできなかった。

 ただ鉄の玉を浴びつづけるのみだった。


 魔法の攻撃であったら、ある程度は防げた。

 強力な魔法防御結界を張ることができる魔法使いがカラム軍にはいた。


 しかしこの攻撃は魔法攻撃であって、魔法攻撃ではない。


 飛んでくるのは鉄の玉であり物質だ。

 魔法を防ぐすべはあっても、物質では無理であった。


 もともと、物質攻撃は剣士の身体能力ですべて対応できるはずであった。


 しかし、銃の玉を避けることなど不可能だった。

 目で追うことはできなかったし、運良く盾にあたったとしても、その盾すら貫通してしまう。


 カラム軍はとにかく前に出て、剣の届く範囲まで行くしかなかった。

 どれほどの被害が出ようと、数に物を言わせ、ゴリ押しで攻め潰してしまおうとした。


 しかし、当然のことだか、近づけば近づくほど、銃弾の威力はました。

 そして、魔法使いたちの狙いも正確なものとなった。

 頭部を次々に撃ち抜かれていく。


 50メートルまでは近づくことはできた。

 しかしそこが限界だった。

 そこから先は死体が転がるだけだ。


 ロイゾが倒れ伏していく仲間を見る。

 目の前の兵士の頭が吹き飛ぶ。


 そこから鉄の玉が自分に向け飛んでくるのが見えた。

 鉄の玉を見た瞬間、ロイゾの眉間には穴が空いていた。


 十数分後、1万の死体が、ゴデル軍本陣の反対側にも積み上がった。


 50対20,000戦闘は、50の生存者を残して終わった。

 もちろん、50人の生存者はすべてゴデル軍である。


 ゴデル軍の死者は0であった。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ